ヤマレコなら、もっと自由に冒険できる

Yamareco

記録ID: 2497372
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

燕岳-大天井岳-常念岳-蝶ヶ岳 〜雲のまにまに〜

2020年08月10日(月) 〜 2020年08月13日(木)
 - 拍手
体力度
10
2〜3泊以上が適当
GPS
23:40
距離
53.4km
登り
4,251m
下り
4,180m
歩くペース
標準
0.91.0
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

1日目
山行
4:29
休憩
0:50
合計
5:19
6:39
6:39
20
6:59
6:59
28
7:27
7:27
34
8:01
8:01
35
8:36
8:47
50
9:37
9:37
23
10:00
10:18
7
10:25
10:26
14
10:40
10:41
5
10:46
11:05
23
11:28
2日目
山行
6:20
休憩
0:17
合計
6:37
5:10
26
5:36
5:37
15
5:52
5:54
75
7:09
7:09
5
7:50
7:55
11
8:06
8:09
22
8:31
8:36
62
9:38
9:38
87
11:05
11:06
41
11:47
3日目
山行
5:39
休憩
1:29
合計
7:08
4:35
70
5:45
5:55
3
5:58
6:15
141
8:36
8:36
73
9:49
10:24
4
10:28
10:28
37
11:05
11:30
7
11:37
11:39
4
11:43
蝶ヶ岳ヒュッテ
4日目
山行
4:25
休憩
0:10
合計
4:35
5:10
6
蝶ヶ岳ヒュッテ
5:16
5:16
16
5:32
5:32
16
5:48
5:48
4
5:52
5:52
69
7:01
7:01
51
7:52
7:56
39
8:35
8:35
10
8:45
8:48
32
9:20
9:20
12
9:32
9:35
10
9:45
上高地バスターミナル
天候 8/10晴れ 8/11晴れのち曇り 8/12曇り時々小雨のち晴れ 8/13曇りのち雨
過去天気図(気象庁) 2020年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
8/9 新宿駅発10:04(JR)穂高駅着13:26
8/10穂高駅発5:10(安曇観光タクシーバス1800円)中房温泉着6:05
8/13 上高地バスターミナル発10:00(濃飛バス1180円)平湯バスターミナル着10:25、発15:25(あるぺん号8500円)新宿駅西口着21:00
コース状況/
危険箇所等
標識無いが分岐ポイントから東大天井岳往復15分。
標識無いが横通岳通過の道も見ればわかる。ただし、岩峰であり、マーカー無いのでルートに注意が必要。
その他周辺情報 燕山荘 言わずと知れた北アルプス南部の代表的な小屋。今年は予約制で一人1.5畳(ロールスクリーン仕切り)の割り当てだった。物価の目安としてコーラ350円。
常念小屋 横通岳と常念岳の鞍部に建つが、少し上がればご来光を望める。予約制で一人1畳(アクリル板仕切り)、コーラ400円。
蝶ヶ岳ヒュッテ 伸びやかな台地に建つ気持ちの良い小屋。予約制で一人あたり2畳のスペース(間仕切り壁仕切り)、コーラ500円。でも飲料水は有料、乾燥室・自炊室・鏡はどこ?

今夏、上高地で日帰り入浴可能なのは、上高地温泉ホテルのみで、時間も限られている。バスターミナルのシャワー施設も使用できない。
なので、平湯温泉を頼る。
「ひらゆの森」 平湯バスターミナルから3分、入浴料600円、レストラン「もみの木」 飛騨牛の鉄板焼き。
予約できる山小屋
蝶ヶ岳ヒュッテ
前泊のために穂高駅で下りる。美味しいそばをいただこう。
4
前泊のために穂高駅で下りる。美味しいそばをいただこう。
碌山美術館。37年前には、今井兼次作の本館のほか2棟しか無かった。
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碌山美術館。37年前には、今井兼次作の本館のほか2棟しか無かった。
その、37年前に撮った大切な1枚。とんがり帽子は葺き替えられたのかな。偶然写った坊やは、もうすぐ40歳かな。
5
その、37年前に撮った大切な1枚。とんがり帽子は葺き替えられたのかな。偶然写った坊やは、もうすぐ40歳かな。
8月10日午前6時、標高1462mの燕岳登山口を出発する。
2
8月10日午前6時、標高1462mの燕岳登山口を出発する。
途中の第1から富士見までのベンチはすべて通過してきた。すいかもパス。
2
途中の第1から富士見までのベンチはすべて通過してきた。すいかもパス。
富士山を望む。出発から3時間の疲れが消え失せる。
4
富士山を望む。出発から3時間の疲れが消え失せる。
大天井岳へと続く稜線。素敵だ。
4
大天井岳へと続く稜線。素敵だ。
「要塞」燕山荘が視界に入る。ここからの30分が長いんだけど。
3
「要塞」燕山荘が視界に入る。ここからの30分が長いんだけど。
午前10時、燕山荘に到達。昨晩ゆっくり休めたせいか身体が軽い。部屋はまだ清掃中なので、荷物を預け、出発する。
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午前10時、燕山荘に到達。昨晩ゆっくり休めたせいか身体が軽い。部屋はまだ清掃中なので、荷物を預け、出発する。
女王、燕岳、美しい。
11
女王、燕岳、美しい。
黒部源流の山々。肝心の鷲羽岳の山頂のみ隠れてしまっている。
3
黒部源流の山々。肝心の鷲羽岳の山頂のみ隠れてしまっている。
大天井岳を望む。目を凝らせば大天荘も見える。
7
大天井岳を望む。目を凝らせば大天荘も見える。
イルカも気持ち良さそうだ。
7
イルカも気持ち良さそうだ。
燕山荘を振り返る。波濤の如き花崗岩たち。
4
燕山荘を振り返る。波濤の如き花崗岩たち。
燕岳山頂に立つ。お金は大事にしないと。
3
燕岳山頂に立つ。お金は大事にしないと。
餓鬼岳へと続く道。剱岳、立山が誇らしげに聳える。
6
餓鬼岳へと続く道。剱岳、立山が誇らしげに聳える。
大天井岳から常念岳へと続く山なみ。
1
大天井岳から常念岳へと続く山なみ。
メガネ岩も青空に映える。
3
メガネ岩も青空に映える。
ようやく槍ヶ岳が姿を現した。
8
ようやく槍ヶ岳が姿を現した。
圧倒的な存在感。
6
圧倒的な存在感。
ロールスクリーンで仕切られた居室。1.5畳のスペース、とにかく嬉しい。
9
ロールスクリーンで仕切られた居室。1.5畳のスペース、とにかく嬉しい。
気分良好、コーヒーがうまい。
2
気分良好、コーヒーがうまい。
東の空には積乱雲が浮かぶ。
2
東の空には積乱雲が浮かぶ。
燕山荘のテント場は意外と狭い。
5
燕山荘のテント場は意外と狭い。
夕食の準備が整いました〜。アクリル製の衝立。
8
夕食の準備が整いました〜。アクリル製の衝立。
チーズインハンバーグと粕漬の焼き魚、筑前煮、杏仁豆腐。
5
チーズインハンバーグと粕漬の焼き魚、筑前煮、杏仁豆腐。
夕陽を浴びて微笑む。
7
夕陽を浴びて微笑む。
午後6時35分、山の日の陽が沈む。
5
午後6時35分、山の日の陽が沈む。
穏やかで素敵な一日だった。
6
穏やかで素敵な一日だった。
燕岳も眠りに就く。
1
燕岳も眠りに就く。
夜明け前の富士山、八ヶ岳を望む。
6
夜明け前の富士山、八ヶ岳を望む。
午前5時、8月11日最初の光。
7
午前5時、8月11日最初の光。
朝陽を浴びる燕岳。そろそろお別れです。
10
朝陽を浴びる燕岳。そろそろお別れです。
5時10分、出発。今日一日の好天を疑わなかったのだが。
2
5時10分、出発。今日一日の好天を疑わなかったのだが。
たおやかな姿、貴方の美しさは唯一無二ですよ。
5
たおやかな姿、貴方の美しさは唯一無二ですよ。
蛙岩を振り返る。
2
蛙岩を振り返る。
富士山とわた雲。
2
富士山とわた雲。
大天井岳への道。大天荘も見える。
6
大天井岳への道。大天荘も見える。
大天井岳近づく。
2
大天井岳近づく。
7時10分、唯一の鎖場、切通しを通過する。
3
7時10分、唯一の鎖場、切通しを通過する。
3名峰の名が揃う分岐点。天候が怪しくなってきた。
2
3名峰の名が揃う分岐点。天候が怪しくなってきた。
大天荘に着く。
8時6分、今山行の最高地点、大天井岳に到達。何も見えない。
4
8時6分、今山行の最高地点、大天井岳に到達。何も見えない。
大天荘。何か食べられますか?10時からです。そりゃそうだ。早すぎる。
2
大天荘。何か食べられますか?10時からです。そりゃそうだ。早すぎる。
東天井岳迫る。登らねば。
2
東天井岳迫る。登らねば。
信濃富士、有明山。いつか登ってみたい。
3
信濃富士、有明山。いつか登ってみたい。
二俣小屋跡。
東天井岳へはこの標識の在る場所から登る。往復15分程度。
東天井岳へはこの標識の在る場所から登る。往復15分程度。
ザックを待たせて往復する。既に小雨が降り始めている。
1
ザックを待たせて往復する。既に小雨が降り始めている。
東天井岳山頂。標識無し。
2
東天井岳山頂。標識無し。
常念岳は雲に包まれてしまった。間もなく横通岳。
1
常念岳は雲に包まれてしまった。間もなく横通岳。
横通岳への分岐点。巻かないぞ。
1
横通岳への分岐点。巻かないぞ。
とはいえ、きつい。とにかく厳しい。疲れが一気に押し寄せてきた。
1
とはいえ、きつい。とにかく厳しい。疲れが一気に押し寄せてきた。
常念小屋が小さく見える。あそこまで下りるのか。
2
常念小屋が小さく見える。あそこまで下りるのか。
11時4分、横通岳に到達。せめて眺望が得られれば。
11時4分、横通岳に到達。せめて眺望が得られれば。
常念岳への道筋、ガレ場なのにくっきりと。それにしても小屋に近づかない。
4
常念岳への道筋、ガレ場なのにくっきりと。それにしても小屋に近づかない。
11時47分、常念小屋に到着。とても長い下りだった。
3
11時47分、常念小屋に到着。とても長い下りだった。
ビーフシチュー丼、美味しいけど食べきれなかった。
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ビーフシチュー丼、美味しいけど食べきれなかった。
布団の幅に仕切られた居室。まあ、寝返り打ったらそこに顔、じゃないだけいいか。
8
布団の幅に仕切られた居室。まあ、寝返り打ったらそこに顔、じゃないだけいいか。
ピラミッドの頂点目指し4時35分出発。あと少し。
4
ピラミッドの頂点目指し4時35分出発。あと少し。
8月12日午前5時、今日も良い一日でありますように。
4
8月12日午前5時、今日も良い一日でありますように。
雲と雲の間にて。
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雲と雲の間にて。
午前6時3分、今山行の目的地、常念岳に到達。何も見えなくも十分に満足。
9
午前6時3分、今山行の目的地、常念岳に到達。何も見えなくも十分に満足。
いえ、見えました。雷鳥の親子です。久々に出会えた。嬉しい。
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いえ、見えました。雷鳥の親子です。久々に出会えた。嬉しい。
400m上がって来て、300m下る。
2
400m上がって来て、300m下る。
はぐれてしまった雷鳥のヒナ。頑張れ。
5
はぐれてしまった雷鳥のヒナ。頑張れ。
2592mピークを目指す。蝶ヶ岳経由で下山する先行者の姿が。
2
2592mピークを目指す。蝶ヶ岳経由で下山する先行者の姿が。
ガスっていてつまらないから、クジラ岩と命名。
3
ガスっていてつまらないから、クジラ岩と命名。
常念岳を振り返る。精悍だ。
8
常念岳を振り返る。精悍だ。
樹林帯に突入す。
1
樹林帯に突入す。
50分後、2592mピーク。巻き道欲しかった。座りたい。
50分後、2592mピーク。巻き道欲しかった。座りたい。
突然のお花畑。私でも立ち止まって見とれてしまう。
2
突然のお花畑。私でも立ち止まって見とれてしまう。
右も左もわかりませんが。
1
右も左もわかりませんが。
奥秩父の如き樹林帯、この高度で意外だった。
3
奥秩父の如き樹林帯、この高度で意外だった。
9時54分、蝶槍到達。あまりにも辛くて、途中帰りそうになった!
3
9時54分、蝶槍到達。あまりにも辛くて、途中帰りそうになった!
陽が差してきたので休憩。写真の撮り方が疲労困憊を物語っている。そしてここで長年愛用してきた熊鈴を失くす。
陽が差してきたので休憩。写真の撮り方が疲労困憊を物語っている。そしてここで長年愛用してきた熊鈴を失くす。
蝶槍を振り返る。
5
蝶槍を振り返る。
このあたり、気持ち良い道が続く。横になって昼寝でもしようか。
6
このあたり、気持ち良い道が続く。横になって昼寝でもしようか。
蝶ヶ岳ヒュッテに到着。コロナ対策を厳格に実施している小屋で、宿泊者と立ち寄り者の動線を分け、宿泊者数も定員の1割という徹底ぶりだった。
6
蝶ヶ岳ヒュッテに到着。コロナ対策を厳格に実施している小屋で、宿泊者と立ち寄り者の動線を分け、宿泊者数も定員の1割という徹底ぶりだった。
なので、このスペース。間仕切壁で仕切られた2畳分。
6
なので、このスペース。間仕切壁で仕切られた2畳分。
換気にも十分留意している。
4
換気にも十分留意している。
結局、今山行で穂高岳たちの山頂部を見ることは一度も無かった。
5
結局、今山行で穂高岳たちの山頂部を見ることは一度も無かった。
蝶ヶ岳山頂まで散策。しばしの晴れ間を楽しむ。
3
蝶ヶ岳山頂まで散策。しばしの晴れ間を楽しむ。
テント場。ここは、水の問題さえなければ、広く眺望の良い好適地だ。
4
テント場。ここは、水の問題さえなければ、広く眺望の良い好適地だ。
2度目のコーヒータイム。上出来。と言ってもバッグにお湯を注ぐだけ。
5
2度目のコーヒータイム。上出来。と言ってもバッグにお湯を注ぐだけ。
カルボナーラ!これ食べて明日の昼まで行動食だけで頑張ろう。
8
カルボナーラ!これ食べて明日の昼まで行動食だけで頑張ろう。
いわし雲。明日は山上も雨かな。
3
いわし雲。明日は山上も雨かな。
うね雲の上にひつじ雲。やっぱり大丈夫なのかな。
4
うね雲の上にひつじ雲。やっぱり大丈夫なのかな。
下はきっと雨になる。小雨なら良いけれど。
下はきっと雨になる。小雨なら良いけれど。
最終日。あと少し。
9
最終日。あと少し。
今日も雲海から上がる朝陽を望むことができた。ありがとうございます。
10
今日も雲海から上がる朝陽を望むことができた。ありがとうございます。
そろそろ出発です。これからもこの景色に出会えますように。
5
そろそろ出発です。これからもこの景色に出会えますように。
常念岳、蝶ヶ岳ヒュッテ、お世話になりました。
2
常念岳、蝶ヶ岳ヒュッテ、お世話になりました。
妖精の池。思いを馳せている余裕は無い。早く下りないと小雨どころではなくなる。
1
妖精の池。思いを馳せている余裕は無い。早く下りないと小雨どころではなくなる。
長塀山。ここからが長い。
長塀山。ここからが長い。
ひたすら下る。
7時50分、登山口に到着。
2
7時50分、登山口に到着。
徳澤園はいつも賑わっている。
2
徳澤園はいつも賑わっている。
梓川の清流を見て、最初に感動したのはいつだったかな。
3
梓川の清流を見て、最初に感動したのはいつだったかな。
蝶ヶ岳ヒュッテの予約が取れなかった場合、常念岳からここまで下りる計画だった。39回、電話を掛け続けて良かった。
5
蝶ヶ岳ヒュッテの予約が取れなかった場合、常念岳からここまで下りる計画だった。39回、電話を掛け続けて良かった。
B案では、大滝山、徳本峠経由でここへ下りてくる計画だった。できるはずも無かった。
B案では、大滝山、徳本峠経由でここへ下りてくる計画だった。できるはずも無かった。
明神館でジュースを一気飲みした。強雨で心折れそうだったけど、売店の彼女の愛想に救われた。
3
明神館でジュースを一気飲みした。強雨で心折れそうだったけど、売店の彼女の愛想に救われた。
閉鎖中の小梨平キャンプ場。色々あったなあ、ここで。クマには出会わなかったけど。
3
閉鎖中の小梨平キャンプ場。色々あったなあ、ここで。クマには出会わなかったけど。
上高地ソフトクリーム、ここのは本当に美味しい。雨の中、私しか食べていなかったけど。
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上高地ソフトクリーム、ここのは本当に美味しい。雨の中、私しか食べていなかったけど。
ただでさえ人が少ない夏なのに、雨中で河童橋は閑散としている。当然、穂高も見えない。
2
ただでさえ人が少ない夏なのに、雨中で河童橋は閑散としている。当然、穂高も見えない。
10時前、上高地バスターミナルに到着。雨のせいもあって少し急ぎすぎたかな。
2
10時前、上高地バスターミナルに到着。雨のせいもあって少し急ぎすぎたかな。
「ひらゆの森」、直行バスまで4時間の滞在。露天風呂も飛騨牛の鉄板焼きも十分に堪能した。
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「ひらゆの森」、直行バスまで4時間の滞在。露天風呂も飛騨牛の鉄板焼きも十分に堪能した。

感想

 新宿駅行き直行バスの窓から大きな積乱雲が見えた。3年前と同じ、この締めくくりまでは、もくろんでいなかった。雲の右手には富士山のシルエット、上出来過ぎる。眠るのが惜しくずっと眺めていた。

 臨時特急は、途中、事故のため14分遅れたが、穂高駅には定刻どおりに到着した。駅から1分のホテルに向かう。荷物を置き、今日の目的地へ。碌山美術館は、あの頃のように静かに迎えてくれた。瀟洒な本館の前に立ち、ほんの少し思いを馳せる。今も忘れられない情景が浮かび上がった。
 下調べどおりわさびそばを食べ、西友で水とパンを購入する。客室の設えまで予定どおりだった。十分な睡眠を得て、始発バスの列に並ぶ。日帰りや1泊の方が多いらしく、軽装が目立つ。バス3台に分乗して、中房温泉に向かう。登山口は、予想をはるかに上回る大勢の人で賑わっていた。登山届はインターネット上で提出済み。午前6時、4日間の山旅が始まった。

 緊急事態宣言の延長が決まった5月上旬に計画を始めた。昨年、台風で撤退した南アルプス南部を第一候補、北アルプス南部を第二候補と決め、2本立てで進めていた矢先、特種東海フォレストが今季の営業中止を発表したことを知った。大企業の決定だ。是非に及ばず。常念山脈に的を絞り、前泊の宿、山小屋と登山バスの予約、日帰り温泉の確認を行い、好天を祈った。

 幸い、うす雲、時折日差しも指す。いつになくゆっくりと踏みしめながら歩を進めた。第一ベンチから富士見ベンチまでを横目で見ながら合戦小屋へ。すいかを眺めながら水分補給をし、今日の宿を目指す。そろそろ疲労を感じ始めた頃、すじ雲の下にそれは現れた。さながら要塞、ぐんぐん近づいてゆく。
 午前10時、まだ入室はできなかった。サブザックを背負い、山頂を往復する。青空が広がり、眼前には花崗岩を纏った美しい姿。イルカに挨拶をし、黒部源流の山々に目を凝らす。やがて槍ヶ岳が姿を現した。思えば今山行中、最初で最後のご対面だったが、その存在感は確実に目に焼き付いた。
 別館に通され、ロールスクリーンで仕切ることのできる3畳のスペースに案内された。嬉しくて早速ザックを空にし、そして気分良く珈琲を淹れた。日差しは強く、風は控えめ。長閑で静かだ。横になって音楽を聴き、久しぶりの「山小屋の夕食」を待った。
 1泊1食付きにして良かった。料理は美味しく、赤沼社長のお話はとても楽しかった。食後、外に出て茜色の空に思いを寄せる。山の日の夕陽は静かに沈んでいった。

 山での出会いは、突然訪れる。昨年、奥秩父で同宿だった人を見つけ、声をかけた。8度もこの山に登っている人にとって、今日の夕陽はどう映ったのだろう。しばらく様々な話をしながらその偶然に感謝した。

 朝、4時15分には外に出ていた。夜明け前の富士山と八ヶ岳を視界に収め、東の空を見つめる。午前5時、8月11日最初の光を受けて輝く燕岳は、たとえようも無く美しく、見とれて出発の機を逸しそうになった。昨晩、再会した人に挨拶をし、大天井岳を目指す。15歳のとき、登山の魅力に取りつかれた道である。好天を願いながら大切に歩いた。
 残念ながら、槍穂高連峰は雲に隠れて姿を現してくれない。やがて槍ヶ岳への道を分けてからは、周囲も霧が漂うようになった。7時50分、大天荘は、宿泊客のいないひと時を迎えていた。すぐさま、山頂に向かう。今山行の最高地点、大天井岳は濃い霧に包まれていた。
 二俣小屋跡を通過して東天井岳への取り付き点に到達した。標柱の無い山頂を踏んですぐに下りる。日本で62番目に高い山でなければ通過したいところだ。ほどなくザックを待たせた場所に戻る。雨がぱらついてきた。穏やかな起伏を少し速足で進む。
 本コースである巻き道と分かれてからも横通岳へのルートは明瞭だったが、今日一番の登りに足が上がらなくなった。出発してから6時間、そろそろ疲労が蓄積される頃、何も見えない周囲を見渡し、幾度も立ち止まった。山頂は岩場、やはり標柱も標識も無い。眼下に遠く常念小屋を見下ろし、ため息をついた。
 岩場を歩くためにストックを仕舞っていた。最もそれを必要とする急下降なのに。そのまま赤い屋根を目指すが、なかなか近づいてくれない。これはもう到着後倒れていいぞと言われているようなものだ。

 果たして、受付を済ませてから部屋に入って倒れ込んだ。仕方がない。2回寄り道をしてもコースタイムより早かったのだから、ぶつぶつ言いながら布団に逃げ込んだ。しばらく動かないでいると良い匂いが漂ってきた。にわかに空腹を覚える。ドライシャンプー、ボディシート、着替えの順に施してから食堂へ。ビーフシチュー丼は美味しく、量も多かった。
 記録、午睡後、17時前にフリーズドライ夕食を済ませて、みたび横になる。もう動かない、そう念じて目を閉じた。
 翌朝、あまりの静けさに目覚めたのは4時過ぎだった。意外にも熟睡できた。急ぎ荷物をまとめ、出発する。中腹からご来光を得られるのだろうか。しかし、その出遅れが功を奏した。東の空を気にしながら5時を迎えると、雲海の上、厚い雨雲の下から陽が昇った。美しく幻想的な光景だった。
 山頂でその時を迎えた人々が下りてくる。山影が見えるだけでも感動する。そう言いながら、笑顔で小屋へ急いでいた。私も、山頂で眺望の良さを実感するよりも何も見えない時を過ごすことの方が多い気がする。でも、どんなときも達成感や自身の僅かな変化が打ち消してくれる。いつまでもそれを忘れずにいたいと思う。
 それはともかく、常念岳の山頂直下は岩場である。初級者コースであっても気を抜けない。狭い山頂で安堵していると、雷鳥の親子が現れた。まだ孵ったばかりのヒナだ。あまりにも可愛く、眺望などどうでもよくなってしまった。しばらく見とれてからガレ場を下る。

 雨は降ったり止んだりを繰り返し、槍穂高への眺望を遮る。雨具、シャツの脱着をこまめに行いながら進む。2512メートルピークを過ぎ、樹林帯の2592メートルピークに取り掛かる。厳しかった。だらだらと続く上り坂で、大いに体力を削がれてしまった。ここは巻き道が欲しいところだ。ピークを過ぎ、突然現れるお花畑は、好きな人にとっては通過に相当の時間を要するに違いない。何もわからない私は、きれいだなあ、を3度口にして通過したけれど。
 そして期せずして今山行の核心部になってしまった、蝶槍への登りが始まった。出発からまだ5時間と少し、体力も気力もなぜか失われてしまっていた。30歩進んで立ち止まる。情けない。歳を重ねた感は否めない。
 それゆえ、山頂到達時には、言いようのない達成感を覚えた。天候は回復し、槍穂高方面も山頂部を除いて見えていた。普段は途中で腰を下ろさないが、何のためらいも無く「フルーツパウチ」を取り出した。至福のひとときを得た。
 あっさりと気力を充実させ、最後の登りに取り掛かる。気持の良い二重稜線の道を経て、蝶ヶ岳ヒュッテには11時に着いた。コロナ対策で宿泊者専用の出入り口を設けて動線分離、居室もほとんどを利用しない徹底ぶりだった。驚くべきは、4畳のスペースを新たな間仕切壁で分離していることだった。お蔭で快適な一夜を過ごせたのだから感謝に尽きないが。
 熊鈴を失くしたことに気づき、売店で恐る恐る尋ねると、「有るよ」のひとこと。これで上高地へ不安無く下りられる。気を良くしてカルボナーラを注文した。談話室は当然のように独り占め。珈琲を味わってから1時間ほどぼんやりとしていた。そして電波が通じるかな、なんて何の気なしに機内モードを外すと、次から次へとメールやスタンプが飛び込んできた。パンドラの箱、急速に夢から醒めてしまった。
 少し傷心のまま外に出ると、空には様々な雲が浮かんでいた。雲のまにまに移ろいゆく空のように、訪れたかけがえのない一瞬と、一期一会に感謝して山旅を楽しもう。残ったゼリーと、チーかまと、スープを食べながらそう思った。

 最終日、ご来光は見られたが、結局、槍穂高の姿は見られなかった。5時18分、常念岳を返り見たのちに下山を開始した。樹林帯を、新しい熊鈴を揺らしながら下りてゆく。雲海の中に入ってゆくと当然のように雨が降り始めた。徳澤園はいつもどおり多くの登山者で賑わっていた。色とりどりのテントを見てから梓川沿いの道を進む。とんでもなくすれ違う人の数が多い。けれど強雨となる中でも、皆楽しそうだ。
 傘を手に持つ人の数が増えると上高地は近い。閉鎖中の小梨平キャンプ場を右手に見ながら河童橋へと進む。下山後の楽しみの一つ、上高地ソフトクリームを食べることができた。日帰り温泉は、今年はほとんど中止しているから平湯温泉を頼ることにしていた。バスターミナルからシャトルバスに乗車し、「ひらゆの森」に向かう。4時間の滞在を決めていた。
 五つの露天風呂、広いレストラン、エントランスロビーで過ごす。途中、不本意ながら仕事のメール返信と電話に1時間を費やしたが。飛騨牛の鉄板焼きは二つ目のお楽しみ。山小屋の夕食を我慢したのだからこの贅沢は許されるだろう。
 通り雨の上がった外は涼しい。もうすぐ夏の旅が終わる。バスターミナルで3列シートバスを待ちながら空を見上げた。雲は、いなかった。

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この記録に関連する登山ルート

無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [4日]
燕岳から蝶ケ岳
利用交通機関: 電車・バス
技術レベル
2/5
体力レベル
4/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [5日]
技術レベル
3/5
体力レベル
5/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [3日]
燕〜常念の縦走
利用交通機関: 車・バイク、 電車・バス、 タクシー
技術レベル
2/5
体力レベル
4/5

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