燕岳-大天井岳-常念岳-蝶ヶ岳 〜雲のまにまに〜
- GPS
- 23:40
- 距離
- 53.4km
- 登り
- 4,251m
- 下り
- 4,180m
コースタイム
- 山行
- 4:29
- 休憩
- 0:50
- 合計
- 5:19
- 山行
- 6:20
- 休憩
- 0:17
- 合計
- 6:37
- 山行
- 5:39
- 休憩
- 1:29
- 合計
- 7:08
天候 | 8/10晴れ 8/11晴れのち曇り 8/12曇り時々小雨のち晴れ 8/13曇りのち雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2020年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
8/10穂高駅発5:10(安曇観光タクシーバス1800円)中房温泉着6:05 8/13 上高地バスターミナル発10:00(濃飛バス1180円)平湯バスターミナル着10:25、発15:25(あるぺん号8500円)新宿駅西口着21:00 |
コース状況/ 危険箇所等 |
標識無いが分岐ポイントから東大天井岳往復15分。 標識無いが横通岳通過の道も見ればわかる。ただし、岩峰であり、マーカー無いのでルートに注意が必要。 |
その他周辺情報 | 燕山荘 言わずと知れた北アルプス南部の代表的な小屋。今年は予約制で一人1.5畳(ロールスクリーン仕切り)の割り当てだった。物価の目安としてコーラ350円。 常念小屋 横通岳と常念岳の鞍部に建つが、少し上がればご来光を望める。予約制で一人1畳(アクリル板仕切り)、コーラ400円。 蝶ヶ岳ヒュッテ 伸びやかな台地に建つ気持ちの良い小屋。予約制で一人あたり2畳のスペース(間仕切り壁仕切り)、コーラ500円。でも飲料水は有料、乾燥室・自炊室・鏡はどこ? 今夏、上高地で日帰り入浴可能なのは、上高地温泉ホテルのみで、時間も限られている。バスターミナルのシャワー施設も使用できない。 なので、平湯温泉を頼る。 「ひらゆの森」 平湯バスターミナルから3分、入浴料600円、レストラン「もみの木」 飛騨牛の鉄板焼き。 |
予約できる山小屋 |
蝶ヶ岳ヒュッテ
|
写真
感想
新宿駅行き直行バスの窓から大きな積乱雲が見えた。3年前と同じ、この締めくくりまでは、もくろんでいなかった。雲の右手には富士山のシルエット、上出来過ぎる。眠るのが惜しくずっと眺めていた。
臨時特急は、途中、事故のため14分遅れたが、穂高駅には定刻どおりに到着した。駅から1分のホテルに向かう。荷物を置き、今日の目的地へ。碌山美術館は、あの頃のように静かに迎えてくれた。瀟洒な本館の前に立ち、ほんの少し思いを馳せる。今も忘れられない情景が浮かび上がった。
下調べどおりわさびそばを食べ、西友で水とパンを購入する。客室の設えまで予定どおりだった。十分な睡眠を得て、始発バスの列に並ぶ。日帰りや1泊の方が多いらしく、軽装が目立つ。バス3台に分乗して、中房温泉に向かう。登山口は、予想をはるかに上回る大勢の人で賑わっていた。登山届はインターネット上で提出済み。午前6時、4日間の山旅が始まった。
緊急事態宣言の延長が決まった5月上旬に計画を始めた。昨年、台風で撤退した南アルプス南部を第一候補、北アルプス南部を第二候補と決め、2本立てで進めていた矢先、特種東海フォレストが今季の営業中止を発表したことを知った。大企業の決定だ。是非に及ばず。常念山脈に的を絞り、前泊の宿、山小屋と登山バスの予約、日帰り温泉の確認を行い、好天を祈った。
幸い、うす雲、時折日差しも指す。いつになくゆっくりと踏みしめながら歩を進めた。第一ベンチから富士見ベンチまでを横目で見ながら合戦小屋へ。すいかを眺めながら水分補給をし、今日の宿を目指す。そろそろ疲労を感じ始めた頃、すじ雲の下にそれは現れた。さながら要塞、ぐんぐん近づいてゆく。
午前10時、まだ入室はできなかった。サブザックを背負い、山頂を往復する。青空が広がり、眼前には花崗岩を纏った美しい姿。イルカに挨拶をし、黒部源流の山々に目を凝らす。やがて槍ヶ岳が姿を現した。思えば今山行中、最初で最後のご対面だったが、その存在感は確実に目に焼き付いた。
別館に通され、ロールスクリーンで仕切ることのできる3畳のスペースに案内された。嬉しくて早速ザックを空にし、そして気分良く珈琲を淹れた。日差しは強く、風は控えめ。長閑で静かだ。横になって音楽を聴き、久しぶりの「山小屋の夕食」を待った。
1泊1食付きにして良かった。料理は美味しく、赤沼社長のお話はとても楽しかった。食後、外に出て茜色の空に思いを寄せる。山の日の夕陽は静かに沈んでいった。
山での出会いは、突然訪れる。昨年、奥秩父で同宿だった人を見つけ、声をかけた。8度もこの山に登っている人にとって、今日の夕陽はどう映ったのだろう。しばらく様々な話をしながらその偶然に感謝した。
朝、4時15分には外に出ていた。夜明け前の富士山と八ヶ岳を視界に収め、東の空を見つめる。午前5時、8月11日最初の光を受けて輝く燕岳は、たとえようも無く美しく、見とれて出発の機を逸しそうになった。昨晩、再会した人に挨拶をし、大天井岳を目指す。15歳のとき、登山の魅力に取りつかれた道である。好天を願いながら大切に歩いた。
残念ながら、槍穂高連峰は雲に隠れて姿を現してくれない。やがて槍ヶ岳への道を分けてからは、周囲も霧が漂うようになった。7時50分、大天荘は、宿泊客のいないひと時を迎えていた。すぐさま、山頂に向かう。今山行の最高地点、大天井岳は濃い霧に包まれていた。
二俣小屋跡を通過して東天井岳への取り付き点に到達した。標柱の無い山頂を踏んですぐに下りる。日本で62番目に高い山でなければ通過したいところだ。ほどなくザックを待たせた場所に戻る。雨がぱらついてきた。穏やかな起伏を少し速足で進む。
本コースである巻き道と分かれてからも横通岳へのルートは明瞭だったが、今日一番の登りに足が上がらなくなった。出発してから6時間、そろそろ疲労が蓄積される頃、何も見えない周囲を見渡し、幾度も立ち止まった。山頂は岩場、やはり標柱も標識も無い。眼下に遠く常念小屋を見下ろし、ため息をついた。
岩場を歩くためにストックを仕舞っていた。最もそれを必要とする急下降なのに。そのまま赤い屋根を目指すが、なかなか近づいてくれない。これはもう到着後倒れていいぞと言われているようなものだ。
果たして、受付を済ませてから部屋に入って倒れ込んだ。仕方がない。2回寄り道をしてもコースタイムより早かったのだから、ぶつぶつ言いながら布団に逃げ込んだ。しばらく動かないでいると良い匂いが漂ってきた。にわかに空腹を覚える。ドライシャンプー、ボディシート、着替えの順に施してから食堂へ。ビーフシチュー丼は美味しく、量も多かった。
記録、午睡後、17時前にフリーズドライ夕食を済ませて、みたび横になる。もう動かない、そう念じて目を閉じた。
翌朝、あまりの静けさに目覚めたのは4時過ぎだった。意外にも熟睡できた。急ぎ荷物をまとめ、出発する。中腹からご来光を得られるのだろうか。しかし、その出遅れが功を奏した。東の空を気にしながら5時を迎えると、雲海の上、厚い雨雲の下から陽が昇った。美しく幻想的な光景だった。
山頂でその時を迎えた人々が下りてくる。山影が見えるだけでも感動する。そう言いながら、笑顔で小屋へ急いでいた。私も、山頂で眺望の良さを実感するよりも何も見えない時を過ごすことの方が多い気がする。でも、どんなときも達成感や自身の僅かな変化が打ち消してくれる。いつまでもそれを忘れずにいたいと思う。
それはともかく、常念岳の山頂直下は岩場である。初級者コースであっても気を抜けない。狭い山頂で安堵していると、雷鳥の親子が現れた。まだ孵ったばかりのヒナだ。あまりにも可愛く、眺望などどうでもよくなってしまった。しばらく見とれてからガレ場を下る。
雨は降ったり止んだりを繰り返し、槍穂高への眺望を遮る。雨具、シャツの脱着をこまめに行いながら進む。2512メートルピークを過ぎ、樹林帯の2592メートルピークに取り掛かる。厳しかった。だらだらと続く上り坂で、大いに体力を削がれてしまった。ここは巻き道が欲しいところだ。ピークを過ぎ、突然現れるお花畑は、好きな人にとっては通過に相当の時間を要するに違いない。何もわからない私は、きれいだなあ、を3度口にして通過したけれど。
そして期せずして今山行の核心部になってしまった、蝶槍への登りが始まった。出発からまだ5時間と少し、体力も気力もなぜか失われてしまっていた。30歩進んで立ち止まる。情けない。歳を重ねた感は否めない。
それゆえ、山頂到達時には、言いようのない達成感を覚えた。天候は回復し、槍穂高方面も山頂部を除いて見えていた。普段は途中で腰を下ろさないが、何のためらいも無く「フルーツパウチ」を取り出した。至福のひとときを得た。
あっさりと気力を充実させ、最後の登りに取り掛かる。気持の良い二重稜線の道を経て、蝶ヶ岳ヒュッテには11時に着いた。コロナ対策で宿泊者専用の出入り口を設けて動線分離、居室もほとんどを利用しない徹底ぶりだった。驚くべきは、4畳のスペースを新たな間仕切壁で分離していることだった。お蔭で快適な一夜を過ごせたのだから感謝に尽きないが。
熊鈴を失くしたことに気づき、売店で恐る恐る尋ねると、「有るよ」のひとこと。これで上高地へ不安無く下りられる。気を良くしてカルボナーラを注文した。談話室は当然のように独り占め。珈琲を味わってから1時間ほどぼんやりとしていた。そして電波が通じるかな、なんて何の気なしに機内モードを外すと、次から次へとメールやスタンプが飛び込んできた。パンドラの箱、急速に夢から醒めてしまった。
少し傷心のまま外に出ると、空には様々な雲が浮かんでいた。雲のまにまに移ろいゆく空のように、訪れたかけがえのない一瞬と、一期一会に感謝して山旅を楽しもう。残ったゼリーと、チーかまと、スープを食べながらそう思った。
最終日、ご来光は見られたが、結局、槍穂高の姿は見られなかった。5時18分、常念岳を返り見たのちに下山を開始した。樹林帯を、新しい熊鈴を揺らしながら下りてゆく。雲海の中に入ってゆくと当然のように雨が降り始めた。徳澤園はいつもどおり多くの登山者で賑わっていた。色とりどりのテントを見てから梓川沿いの道を進む。とんでもなくすれ違う人の数が多い。けれど強雨となる中でも、皆楽しそうだ。
傘を手に持つ人の数が増えると上高地は近い。閉鎖中の小梨平キャンプ場を右手に見ながら河童橋へと進む。下山後の楽しみの一つ、上高地ソフトクリームを食べることができた。日帰り温泉は、今年はほとんど中止しているから平湯温泉を頼ることにしていた。バスターミナルからシャトルバスに乗車し、「ひらゆの森」に向かう。4時間の滞在を決めていた。
五つの露天風呂、広いレストラン、エントランスロビーで過ごす。途中、不本意ながら仕事のメール返信と電話に1時間を費やしたが。飛騨牛の鉄板焼きは二つ目のお楽しみ。山小屋の夕食を我慢したのだからこの贅沢は許されるだろう。
通り雨の上がった外は涼しい。もうすぐ夏の旅が終わる。バスターミナルで3列シートバスを待ちながら空を見上げた。雲は、いなかった。
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