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奈良国立博物館には7時20分頃到着、正倉院展は毎年10月末から11月初めの二週間だけなので、いつも混んでいるらしいが、開場は9時なので今日は平日の成果、まだ行列はできていない。しかし一人二人と並び始める。まだまだ余裕がありそうなので、会場付近にできている無料休憩所のテントの下の椅子に座って、朝食を食べる。図書館で借りた正倉院に関する本を読みながらゆっくり休憩、夜行バスの疲れを癒すゆったりとしたひと時ーー、としたいところだが、8時を過ぎ、どうやら行列ができはじめるようだーー。これはいかんと入口を見るとすでに20人近い人が並んでいる。いそいで行列の跡に着く。大型バスも到着して団体入口の側に並び始める。やはり混雑は覚悟せねばーー。9時近くになり、後ろにはすでに長蛇の行列、係員が整理を始める。券の無い人は初めにチケット販売所にい噛めばならない。ロッカーも外にあるようだ。この正倉院展は普段の9時半でなく9時開場、6時閉館、土日祝日は7時まで開場している。
行列が動き始める。4列にならんで、開場に入る。開場に入るとすでに人でいっぱい、じっくり見たいところだが、それはかなわずーー、それはあきらめて、音声ガイドを使い、人垣の後から中をのぞき込む。会場に入るといきなり「平?鈿背八角鏡 」、螺鈿装飾の豪華な鏡ーー音声ガイドもこれから始まるーー。鏡背に螺鈿（らでん）や夜光貝 琥珀（こはく） ラピスラズリ−などの世界各地の宝飾品を素材に細工された豪華な美しい鏡ーーこれだけの宝石を集められるのはシルクロードの東の中心地、唐の長安ならではだろうーー正倉院宝物を代表する逸品だーーため息の出るような美しさーー当時はもっとh光り輝いていたことだろうーー。次も白銀の「山水花虫背円鏡」ー白銀の鏡の背に細かい山水画が刻み込まれているーーこれも舶来品（舶載品）だ。次に「佐波?水瓶」な
ど、錫と銅の合金?白銀の皿と水瓶を見る。現在は茶色く変色しているが当時は白く光って綺麗だったのだろうーー。
さて、今回のハイライトの一つに、楽器類がある。蛇紋岩性の横笛と尺八だ。硬い蛇紋岩を巧みに削って、竹製の楽器のような形に造っている。しかも細かい。解説を見ると、蛇紋岩の原料にそれより硬い鉄棒か何かで穴をあけ、さらに、その穴の外側を笛の形に繰り抜いて、砥石や削りだしの刃物などで盛景加工し、文様を彫刻して磨いて作ったようだ。これも唐の都で制作されたものだろうか？
さらに赤く鮮やかに採食された象牙の物差しーー花鳥や飛天などの文様を施した貴重なもの、唐では正月の宮廷行事で皇帝から臣下に物差しが与えられる儀式があるそうだが、そうしたことと関係のある宝物か？正倉院に8本、中国にも数本残っていて、少しづつ文様が異なるようだ。長さも時代により微妙に差があるのは、工人の技術の問題か？あるいは唐尺の長さの時代差か？？文様を施しているものはおそらく実用品でないようだ。象牙製でなく犀の角製のものや木製の物差しもあるが、完全に実用的なものは木製で、後はお祝いものかもしれない。
また聖武天皇の御遺品目録「国家珍宝帖」の筆頭にリストアップされた「御袈裟」で、金剛智三蔵のものという伝承がある。金剛智は唐の洛陽に来朝したインドの僧で、空海が師事した恵果は金剛智の孫弟子。この伝承は本当である可能性もあるらしい。もし本当なら、世界の仏教史上重要なものになるという。全体が絹の薄織物の一種の「羅」でできており、1200年を経てよい状態で残されていることは素晴らしい。
また長さ190�僂曚匹了表�帯の残欠も、当時の宮中の女性の衣装を復元する上で重要なもの、残された帯片につけられた刺繍が素晴らしい。帯留めの琥珀の腰飾も展示されている。
奈良の正倉院展に行くのは今回初めてだった。正倉というのは、律令国家成立後に全国各地に造られ、徴税制度を整備する上で重要な役割を果たしたと思われるが、その中で現存するのは東大寺の正倉院だけで、聖武天皇の遺品から始まった宝物や東大寺関連資料などを後代に伝えようとする人々の意思が1��00年の時を越えて世界でもまれな伝世品の博物館が残されたのだった。10時前まで一通り見学し、一階の講堂で開催されるボランティア展示解説を聴講に行く。内容は事前に予習したものとあまり変わらない初心者向けの概説だった。あまりにも人出が多いのでこれ以上長居しても不快なので、今回はここで退出、この時期公開されている興福寺の北円堂を見学、さらに近鉄奈良駅から西ノ京に移動して、前回果たせなかった薬師寺の玄奘三蔵院伽藍などを見に行く。薬師寺での白鳳伽藍では、東塔の修理中で現在、水煙降臨の公開と西塔の釈迦四相像の特別公開などを見る。水煙は薬師寺創建時から伝わる東塔のもので、白鳳時代の「飛天」などを見ることができる。一方、再建された西塔の釈迦４相は現代仏教彫刻家によるものだ。
白鳳伽藍から玄奘三蔵院に向かい、平山郁夫画伯の「大唐西域壁画」を見る。
京都に移動して国立京都博物館で「琳派」展を見に行く。2016年1月1日までの国立博物館特別鑑賞券があるので、なんとかこれを使いたかったのだ。今回奈良、京都で二枚使えた。琳派展は昼過ぎなので正倉院展以上の人出で、あきらめようかと思ったくらい入口で30分近く待たされた。なかなか前の方で見られなかったが、俵屋宗達と尾形光琳、酒井抱一の時代の違う三人の巨匠の「風神雷神図」の競作屏風絵が面白かった。さすがに最初の宗達のオリジナルが最も迫力のある優れた作品と思えるが、それを模した後の二人の作品も特徴がよく出ている。今回は光琳や抱一の草花図の屏風絵が特に印象に残った。
混雑に辟易として、図録も買わずに館を出て、京都駅に戻り、駅弁を買って新幹線に乗り込む。品川駅で横須賀線に乗り換えて船橋に行き、船橋市飛ノ台史跡公園博物館主催の縄文大学「儀器としての縄文石器」を聴講。石棒や石剣、石刀などの変遷とそれらの時代の人々の精神生活、祭祀を検討するのだが、やはり難しいテーマと実感せざるをえない。
今回は奈良、京都、船橋と転戦して展示会、伽藍、仏像、講演など多くをこなして疲れた。
写真1：正倉院展の行列
写真２：薬師寺東塔の水煙公開会場
写真3：同会場の「塑像残欠」（重要文化財）
