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三陸沿岸の先史古代史が気になって、大阪弥生文化博物館の講座に応募して大阪まで出かけた。早朝の「ひかり」に乗って（JRの高齢者割引が効く）新大阪で御堂筋線に乗り換え、天王寺で下車、はじめて「あべのand」という建物を探す。あべのハルカス手前から上の歩道橋に出てみたが、道がわからず通行人に尋ねると方向が違うらしい。下に戻ってハルカスの向こう側に出てHOOPの裏側に出るとどうやらandビル付近に出た。11時までしまっているので警備員に尋ね、裏側の出入り口から入る。
今回の講演会は近鉄文化サロンと大阪府文化財センターとの共催で開催されているシリーズの一つで、今回は弥生文化博物館の三好孝一氏による「三陸沿岸と京とのつながり」で、2013年に震災復興支援で復興事業にかかわる埋蔵文化財調査の事例の報告だった。
三好氏は震災の2年後、現地に派遣され、岩手県と青森県の三陸沿岸の復興事業にかかわる埋蔵文化財調査を支援し,田の浜館跡、間木戸（まぎと）�軌篝廖�沢田�薫篝廖�伏津館跡についてお話しされた。
まず2013年に三陸沿岸を訪れた際、震災・津波の傷跡がまだまだ多く残されていたことに驚かされたという。私は2015年に奥松島（東松島市）まで仙台から自転車で旅したが、まだまだ傷跡が生々しく、復興というには程遠かった記憶がある。昨年三陸を旅した時も印象は変わっていない。
１）田の浜館跡
最初の遺跡のお話に際して、当時復興が進まない段階では宿舎もままならず、盛岡から毎日車で三陸まで通われたという。下閉伊郡山田町は釜石と宮古の中間あたりだ。
田の浜館跡は岩手県下閉伊郡山田町船越の中世城館跡だが、この発掘調査では奈良・平安時代の製鉄遺構が発見され、その話が中心となった。ここは山田湾を望む船越半島の海岸に隣接した丘陵地で、復興住宅建設のための埋蔵文化財調査を行った。中世城館跡は当初から知られていたのだろう。海岸付近には明治時代の震災・津波被害の石碑が、津波被害後にもかろうじて残され、津波被害の警告が書かれていたのは、数千年以上にわたるこの地域の災害との戦いの長い歴史を偲ばせる。
春から斜面の樹林の伐採から始め、6月ころにはヤマセで一帯が霧に包まれ、気温が下がる中、作業が続けられたという。
予備調査のトレンチから縄文中期の住居跡を検出、一軒しか見つからず、キャンプ地かもしれない。
谷部に調査で古代製鉄遺構跡を発見、炉跡や木炭窯跡、送風管鞴の羽口などが出土した。この地域は続日本紀715年の閉伊村の貢納昆布の運搬の労働軽減のための郡衙設置要望の話が最も古い記録で、奈良・平安時代（9世紀）には、山田村（下閉伊郡）周辺では多くの製鉄遺跡・遺構が検出されることが知られている。閉伊郡は馬の生産と製鉄が盛んな地域だったようだ。出土品や遺構からこの遺跡の製鉄施設を復元すると、箱型炉で砂鉄を使った小規模な製鉄施設だったようだ。こうした施設がこの地域では100か所以上の遺跡、遺構が見つかっているらしい。
著名な7世紀の南東北、相馬地区の製鉄遺跡群は東北開発のために王権が関与した施設だったとすれば、この下閉伊郡の製鉄業は国家と直接関係しない民間の施設で、小規模な施設が多かったらしい。その製鉄技術は東北北部で独自に進化したもののようだ。これらは武士団成長とかかわりの深い中世の製鉄業の隆盛につながっていくのだろうか？
なお、この調査では最新鋭のレーザー測量機が導入され、三次元測定値をパソコンに自動入力され、盛岡に戻るとその記録を図化するような作業で昼夜問わず働いていたそうだ。
中世城館跡に関しては、明治以降の農地開拓で削平され、城館遺構を評価できるようなものが発見されず、そのため、当初1年半の調査機関が見込まれたものが半年で調査が終了することとなったようだ。移転住宅地建設にとってはありがたい結果だった。
２）間木戸（まぎと）�軌篝廖陛弔良祐枩廚�ら北へ10km付近）
9世紀初め、奈良時代終わりころから平安時代初めころの竪穴建物が検出され、その頃の茶碗や壺のほか、官人が身に着けるような銅製帯金具が出土。銅製金具は古代では五位以上の身分の貴族・官人が身に着けるもので、単体・布付きで出土しているので、都への貢納の見返りなどで入手して大事にしまったものと想像されるようだ。
3）沢田�薫篝廖粉篌蠍�山田町山田第３地割｝
この遺跡は間木戸�軌篝廚里垢斡瓩�で、縄文時代の竪穴住居跡の他、古代の竪穴住居や製鉄遺構が出土している。この辺りは製鉄遺構が多くみられるのは、砂鉄の産地だからか？
ここでは特に「和同開珎」の出土が話題になったようだ。和同開珎は先日の東海大学の北条先生の「稲束貨幣論」で論じられたように、日本の古代国家は地方の流通経済の掌握が弱く、中国に倣って貨幣を鋳造したものの、地方まで流通させることはできなかった。その遠隔地の山田町から和同開珎が出土したことは珍しく、やはり京と関係の深い有力者が居住していたことの証だろうか？
4）伏津館跡（岩手県九戸郡野田村大字野田第21地割79-1ほか）
夏までに田の浜館跡などの遺跡調査が片付き、秋には青森県境に近い久慈市の手前にある岩手県九戸郡野田村の伏津館跡の調査の応援に向かった。
中世城館であるために、急斜面に土塁、切岸、曲輪などが作られており、発掘調査でその姿が明らかになるが、調査は急斜面で行われるためにロープで体を固定しながらの命がけの調査だ。出土品としては、刀やその装具や珍しい琵琶文様を彫り込んだ硯や豪華な茶道具、輸入陶磁器や古瀬戸、越前焼や永楽通宝など、このような遠隔地でこうした豪華な遺物を保持していた有力者とはだれなのか？様々な検討が重ねられてもいまだによくわからないらしい。南部氏の支配がはじまるいよりも前のことで、出土品から15世紀の中ごろから後半というところらしい。一戸南部氏が台頭するのは16世紀に入ってからのようだ。
三陸地方は都から離れた遠隔地ではあっても、古代から中世にかけて意外と多くの活動が行われ、都の情勢とも無縁ではなかったことが明らかになっている。三陸ウォッチャーとしてはなかなか意味のある講演会であった。
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