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14時前に、会場に入り、何とか前の方に席を確保する。講師は国立科学博物館の植物研究部長で筑波実験植物園長の岩科 司氏。日本は花色の発色に関する研究では世界をリードする国の一つらしい。「花の色」というのは、「赤」「黄」「白」「青」「紫」の他、黒、緑などがある。花色を詳しく研究しようとすると、どうしても、花色の発色のもとになる「色素」の化学成分や、可視光線、紫外線などとの関係、またその発色の仕組みに関する物理化学的な解析をしなければならない。岩科氏は「亀甲」の出てくる有機化学は不得意だったが、当時の恩師から花の色の世界はまだ未解明なことが多く、例えばツユクサなどの色素が同定できればノーベル賞ものと聞いて発奮し、発色の仕組みや色素の同定にのめりこんだという。花色発現の物質的基礎となる色素は、フラボノイド類、カルテノイド類(黄色〜赤)、クロロフィル類(緑)、ペタレイン類に大きく分けられるが、そのメカニズムは複雑で全体の把握は容易でない。まだまだ未解明なところが多いらしい。色素の化学的同定だけでも容易でないうえ、色素だけでは色は定まらず、アルミニウムやマグネシウムなどの微量な金属やアルカリなどの他、色素関連物質の配糖体などが関係しているという。
青から赤系統の色素と関係が深いのがフラボノイドで、フラボノイドとはアントシアニンなどの色素となる化合物を含め、自然界から7千種類以上発見されている。フラボノイドの仲間は、色素のみならず、紫外線の害を防御するなど、様々な役割が注目されている。アントシアニンは色素としては「ペラルゴニジン(ペラルゴニウム)」「デルフィニジン(デルフィニウム)」「ペツニジン(ペチュニア)」など六種類の基本形があり(カッコ内は色素を取り出した花)、右側の環に付く水酸基の数が多いと青みが濃くなり、水酸基が少ないか、メトキシル基がつくと赤みが強くなる。アントシアニンの色素群の研究は古く、最初に1913年、ドイツの化学者が牧草地の雑草などとして知られるヤグルマギクの青からアントシアニンを確認。その後、赤いバラからもアントシアニンが発見され、アルカリの介在によってアントシアニンが赤や青を発色するという「アルカリ説」を提唱、これに対し、日本の植物生理学者の柴田圭太博士が反論し、「金属錯塩」説を唱えた。その後、英国の化学者から「補助色素」説が出され、100年近く決着を見なかった。しかし1977年にツユクサの青色色素の単結晶化に成功した武田幸作博士が、2004年にヤグルマギクの青色色素の単結晶化に成功、その後、高エネルギー研究所との共同作業で放射光による構造解析を試み、同色素は、中心に鉄とマグネシウムが位置し、そのまわりをシアニジン型アントシアニンとフラボンが固めるような金属錯体の構造をもっていることがわかった。また、カルシウムはフラボンと結合していることも確認されて、全構造が解明され、100年論争に最終決着がついた。武田博士は岩科博士の恩師であるという。
岩科氏はまたヒマラヤの青いケシ(メコノプシス属)の研究も始めているが、50種あるメコノプシスの花色の研究はまだこれかららしい。またヒマラヤの高山植物中のフラボノイドと紫外線からの防御機構の研究も注目されている。
また昆虫との関係で考えると、紫外線を捉える能力があるために、人には見えない模様が雌しべ雄しべのありかを教えたりするようなことがよくあるそうだ。岩科氏はサントリーの青いバラ開発にもかかわっているが、まだ青と言っても赤紫っぽい色で、青いとは言えないというのが、現在までの取り組みの実態だそうだ。花色に関しては、まだまだ未解明の問題が山積みで、また植物の能力の高さ、自然の力を高能率で利用する様々な仕組み、パワーに関する解明は、人間社会にとっても、多くの利益をもたらすことになる。今後の研究の進展に期待したい。
写真1)自然教育園のハナミョウガ
写真2)同、ノハナショウブ
写真3)同、ヤマアジサイ
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