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2019年06月19日 22:30回想の山旅全体に公開

朝日岳から以東岳に  〜ブナ原生林に魅せられて〜 

 ブナの森の魅力は、四季を通じて変化する落葉広葉樹の美しさである。私が初めてブナの森の美しさを知ったのは加賀の白山であった。原生林として残っているブナ帯は、標高1000mから1600m位までだから、標高を知る目安ともなる。初めての山に入るとき、山の風格をなす地質的な特性とともに林相の変化が楽しみとなり、登りのつらさを和らげてくれた。
 山登り仲間は、東北の山にはもっと素晴らしいブナ原生林があるとしばしば話題にした。しかし、1970年代、白神山地は一般にまだ知られていなくて、朝日岳一帯のブナ林こそ第一だといわれていたように思う。
 その朝日岳には、ブナが思いきり青葉を繁らせる夏に出かけた。万物が輝きあふれる夏山は、山旅の楽園である。青空に白い雲がわき、草木が生い茂る谷合を雪解けのせせらぎが軽やかな音をたてて流れ、林間では鳥のさえずりや夏ぜみの声が響きあっている。人はこのような生命の輝きに包まれた時、自己の存在も自然と一体のものとなって、この世に存在するすべてを肯定的に受け止めるたくなる。
 以下は、当時の山ノートに残された山行のスケッチである。

 山形駅で夜行列車を降り、左沢(あてらざわ)線に乗り換えて、終点左沢まで行く。そこから更にバスに乗り、柳川に向かった。
 柳川のバス停近くに小さな店があったので、パンなどの食料を少し買い足して、古寺川沿いの道をひとり歩き始める。途中から雨がぱらつき始め、思わず急ぎ足になる。4時間ほど歩いてようやく古寺鉱泉に着いた。到着を待ちかねていたように雨は本降りとなり、夕方まで降った。夕方、旅館の外に出てみると、山の端に虹がうっすらとかかっている。思わず、明日の天気が良いことを念じながら、空を仰ぐ。
 次の日は、午前6時10分に古寺鉱泉朝暘旅館を出発。天気は期待した通り快晴だ。花抜峠から古寺山を経て小朝日岳のコースを取ろうと思っていたのだが、十分に道を確かめることなく歩き始めたので、しばらくして鳥原山経由の道をたどっていることに気付く。まあ、気にすることもあるまいと、そのまま登ることにする。いい気なものである。
 1100メートルまで高度を稼ぐと、四囲はすっかりブナ林である。田代沢の清水で、水を口に含むと、すがすがしい風が吹き渡ってきた。ブナの若葉のはずれの音も心地よい。ブナの幹はどちらかというと白っぽく、生い茂る葉も夏の光を浴びて、明るい雰囲気の尾根道である。しかし、山向こうの尾根の斜面をうずめるブナの森は、今までに見たことのないような規模の単相の森で、やや紫がかった緑の塊が幾重にも峰まで続いていて、山懐の大きさを感じさせる。
 午前9時には鳥原山、10時40分には小朝日岳、12時10分に銀玉水と快調に飛ばして、12時50分には大朝日小屋に着いた。銀玉水あたりから、朝特有のすがすがしい清輝さは消え失せ、小屋に着くころにはガスと風がひどくなってしまった。ツエルトを持参していたが、ここはのんびりと山小屋に泊まることにした。
 翌朝の天気は高曇り。午前5時10分に山小屋を出発する。稜線は、昨日とうって変わって実にアルペン的な雰囲気である。とても18000メートルの高さの山とは思えない。山の持つ風格に圧倒されながら気持ちよく歩く。午前7時10分には龍門小屋、9時10分には狐穴小屋に着いた。ここまで来ると、以東岳も間近に見える。ペースは至って快調だ。
 まさか1時間ほどもしないうちにと激しい雨が降りだそうなどとは知る由もなく、ここでのんびりと早めの昼食をとることにする。そうこうするうちに、東北の山にはちょっと場違いな印象を抱かせるうら若き女性3人組のパーティーにも追いつかれてしまった。
 これはいけないと、少し気を引き締めて再び歩き始める。ほどなくして雲間より大粒の雨が肩に降りかかってきた。今日も天は味方しないのかと残念に思う暇もなく、5メートル先も見えないほど激しい雨足の雨が襲ってきた。稜線上だから逃げ場もない。雨具を着てがむしゃら歩いていく。11時40分以東岳山頂、12時10分には以東小屋に着く。
 小屋で一息ついたが、いつまでも雨はやみそうもない。仕方なく重い腰を上げて、大鳥池を目指してぬかるむ急坂を下りていくと、突然パックと登山靴の底のビブラムがはがれてしまった。これには、さすがに参ってしまった。後は早く着けとひたすら念じながら黙々と歩く。午後1時30分、大鳥池のほとりにたどり着く。寂寥とした池のほとりでしばし呆然とたたずむ。そうこうするうちに雨も小雨になった。
 2時10分、大鳥小屋に到着。早速針金をもらって登山靴の修理に精を出していると、くだんの女性3人組がやってきた。2時間の差だが、たいしたものだ。よくあんな激しい雨の中を歩きとおしてきたものだと、思わず親しみがわいてきて、微笑みかける。
 山小屋はわずかの隙間もないほど登山者であふれかえっている。雨は相変わらず激しく、次の日は1日中足止めされてしまった。なんでも橋が流されたので、水が引くまで下山できないとのことである。
 【昭和51年(1976年)8月3日(火)から8月6日(金)にかけての山ノートの記録から】
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コメント

RE: 朝日岳から以東岳に 〜ブナ原生林に魅せられて〜
fengsanさんの日記拝見して,私自身の当時が懐かしく思い出されました。私が朝日連峰に出かけたのは,1978年8月11〜14日でした。1日目は山形駅からの始発バスで宮宿へ。宮宿から朝日鉱泉行きのバスで白滝下車。そこから鳥原山に取り付き,鳥原小屋のテン場泊。2日目は大朝日岳を越え竜門小屋(?)のテン場泊。3日目は以東岳を越え大鳥小屋で宿泊。4日目下山。(今はテン泊禁止なんですよね)
私たち(友人と2人)で行った時には幸いに天気もよく,縦走路が素晴らしかった想い出が残っています。すっきりとした大朝日岳,どっしりと重厚感のある以東岳など懐かしい。(一番大変だったのは,下山後に未舗装の道をバス停まで延々と歩いたことでした)。
私は記録などしていなかったので,fengsanさんの日記を拝見したおかげで,私の若い頃も思い出せました。感謝!
※そういえば,現在,登山靴のソールの張り替え依頼中です。
2019/6/20 10:32
RE: 朝日岳から以東岳に 〜ブナ原生林に魅せられて〜
 fushimiyさん、コメントありがとうございます。
 昔は、こまめに記録を取ったものです。ただ、その割に写真の枚数が少ないのに驚かされます。きっと、その頃はフイルム代や現像代がばかにならなかったのだと思います。べた焼きで済ますことも、ままありました。
 それに比べると、最近はデジカメで記録代わりに写真をとりまくっています。その分、野帳を持ち歩いていても、記録を取らずじまいということが、多くなってしまいました。それに、自動車などで出かけると、帰路にゆったりとその日の山行を振り返って、心に残ることを書き記しておくことができなくなってしまいました。これは、残念なことですね。
 しかし、ヤマレコは、広く多くの人が見るとはいえ、自然と自分のための記録を残すことができるわけですから、ありがたいものです。この点、今の若い人がうらやましい。。きっと、何十年後に在りし日の山登りに思いをはせるときに、便利でしょうね。
何だか、東北の山に登りたくなりました。
2019/6/20 21:36
RE: 朝日岳から以東岳に 〜ブナ原生林に魅せられて〜
確かに若い頃(おそらく私はfengsanさんの3歳ぐらい年下),写真は,フィルム代,現像代,プリント代がバカになりませんでしたよね。今のように頻繁にシャッターを切ることもなかったし,現像だけしてこれはと思うものだけプリントしていたことも多かったように記憶しています。
fengsanさんと違って私は若い頃も本格的な山登りをしていたわけではないのですが,はるか昔に登った東北の山に,今になって再度行ったりして楽しんでいます(実は週末に森吉山と秋田駒ケ岳にハイキングに出かける予定です)。
これからも「回想の山旅」楽しみにしています。
2019/6/21 0:59
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