昭和の山エッセン　～朝食編～

2022年04月14日 21:02昭和の山旅考全体に公開

　私の日本アルプス初体験は、昭和41年の高校2年の7泊8日の夏山テント縦走だった。後立山連峰を北から南へ、平岩の七本かずらから入山し、朝日岳、雪倉岳、白馬岳、白馬鑓ヶ岳、不帰の嶮、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、爺が岳、針ノ木岳、蓮華岳と踏破して、最後は信濃大町の扇沢に下りた。顧問の先生やOBを含め13人の大所帯だった。
　この夏合宿の食料計画は、用意周到で極めて有能なエッセン長が綿密に立てたもので、部誌に記録をして残している。それを眺めていると、昭和の山旅の食料事情が目に浮かんできた。まずは、朝食から回想してみることにしたい。

　夏の出立は早い。毎日ほぼ3時起床、5時前には出発。この季節の北アルプス稜線の日の出時刻は4時半ぐらいだから、暗いうちに起きて、明るくなったらできるだけ早く出立しようというのだった。五竜山荘から五竜岳、鹿島槍ヶ岳を越えて種池まで歩いた日は、2時半に起床、4時10分出発だったから、足元がほのかに明るさを感じられるやいなや歩き始めたに違いない。
　要するに、2時間ほどのわずかな時間内に、眠気眼で頭がボーとした状態の中で朝食を済ませ、テントを撤収し、パッキングなど出発準備を完了させなければならない。それも大所帯だから、毎日がまさに時間との闘いであった。
　したがって、朝食の基本は、調理時間のかからない即席ラーメンとなる。この合宿でも、入山2日目のアルファ米、5日目と下山日のうどんを除けば、「朝はラーメン」だった。
　私は、即席ラーメンはてっきりパッキングがしやすく、かさばらない棒状ラーメンだったと思っていたが、エッセン長の記憶では、縮れ麺で、サッポロ一番(1966年1月発売)やエースコックの即席ワンタンメン（1963年発売）、チキンラーメン(1958年発売）などだったようだ。大学時代の岳友は、縮れ面をパッケージごとわざと潰してパッキングしやすくして山に持って行ったと言うのだから、食糧の軽量化とコンパクト化には皆苦労していたと思われる。
　具には、玉ねぎ、それに魚肉ソーセージが付いた。よく飽きもせず食べたものだ。ただ、入山2日目の最初の朝食は、ソーセージでなく「卵」とある。生卵を何とか割れないように工夫して持ち込んだのだろう。また、エッセン長に言わせれば、当時クジラ肉のベーコンが安かったのでよく使ったというから、時代背景が分かろうというものだ。
　入山3日目の朝のアルファ米は、調理時間の短縮化と軽量化など考慮したに違いない。それには、大根・豆腐・あげの味噌汁にソーセージとある。当時のアルファ米は、いわゆる商品パッケージに入っているようなものでなく、確か、素っ気ないビニール袋に入っていた。それにお湯を注いで蒸らして食べた。古代の旅人が寂しさに涙流しながら食べた干飯もこんなものだっただろうと思わせる代物で、実に味気なく、とても好きになれないものだった。もっとも、我々山岳部員にとってアルファ米初体験の試みだったと記録にあるから、進取の気性を大いに評価しなければならない。
　1980年代に入ったころだっただろうか、袋の内側がアルミ箔でラミネートされたチャック付きのパッケージのアルファ米が登場し、しかも「山菜おこわ」、「五目ごはん」といった味付きものが出た。これは実に画期的な出来事で、結構値が張ったが、早速物は試しと使ってみた。結果は、雪山でも保温性に問題なく、味がついているから食べやすく、何とうまいものだと痛く感心した。それからは、水も雪を溶かして作る積雪期登山では、燃料が大いに節約できるとあって、常用したものだ。それが、今では災害備蓄品としてどの家庭でもあるのだから、感慨深い。

（参考）昭和41年（1966年）の高校山岳部の北ア夏合宿の記録
「後立山連峰テント大縦走　～昔の高校山岳部は半端じゃないの巻～」
https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-201342

7月22日（金）
　4:27松本、大糸線乗り換え、7:10信濃平岩着。2時間ほどバス待ち。8:55発、10:33七本かずら10:50発、　（昼食）、　蓮華温泉、15:00瀬戸川モッコの渡し16:00、17:20白高地沢出合着
7月23日（土）
　3:00起床、5:08発、針金渡し、樹林帯、展望開ける、カモシカ平三角点、雪渓、雨降りだす、14:05避難小屋跡（朝日岳山頂やや下）
7月24日（日）
　3:25起床、5:30発、5:40朝日岳山頂5:45、10:30雪倉岳11:12、13:45三国境、白馬岳山頂テントサイト
7月25日（月）
　4:30起床、4;45山頂アタック、5:15白馬岳山頂、6:30朝食、9:00出発、10:47白馬鑓ヶ岳着（昼食）11:30同発、12:03天狗、12:20自由時間、15:00雪上訓練
7月26日（火）
　3:05起床、4:44発、5:20天狗の大下り、6:26不帰Ⅰ峰、7:52不帰Ⅱ峰、8:32不帰Ⅲ峰、8:45唐松岳9:00，9:48五竜小屋
7月27日（水）
　2:30起床、4:15発、5:15五竜岳5:30，8:31キレッド、10:15吊り尾根11:20、11:40鹿島槍ヶ岳、12:58冷池13:21、14:50爺が岳、16:45種池テント地
7月28日（木）
　3:00起床、4:53発、7:08新越乗越、鳴沢岳、赤沢岳、スバリ岳、針の木岳、テント地
7月29日（金）
　3:10起床、4:25蓮華岳アタック、5:08蓮華岳山頂、5:45テント地着、6:30同発、10:25扇沢着　（バス）　11:52信濃大町駅発

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