|
|
|
また、田中澄江が昭和55年（1980）に世に出した「花の百名山」に選定されたことでも知られるように、霊仙びいきの登山者も多い。私の高校山岳部同期の山友もその一人である。
その彼が、数年前に柏原駅から霊仙山に登ってすごい光景に出会ったとメールで知らせてきた。なんでも、日の傾くのが早い秋の午後、山頂からの帰路経塚山の避難小屋から少し下がったところで、20数頭の鹿の群れがカルストの平原を疾走していたというのだ。早速、彼のブログをのぞいてみると、その大スペクタクルな光景を撮影した動画がリンクされていた。
私は、その迫力のある動画に心底圧倒されるとともに、なんだか信じがたい思いであった。私の霊仙山には、そんなイメージはなかったからである。
高校時代から、鈴鹿最北の魅惑的な山名が気になりながら、なかなか登れなかった霊仙。私が登ったのは実に51歳の平成12年（2000）の8月18日のことだった。仕事に追われていた時代、その年は久しぶりにお盆休みが取れて名古屋の実家に帰っていた。その一日、たまたま時間ができたので、実家にあった山道具を取り出して急遽出かけたのだった。
その時の記録と若干の写真が残っている。
「突然の計画だったので、準備に手間取り、普通列車で醒ヶ井駅に着いた時には結構いい時間になってしまった。当初、上丹生から漆が滝経由で周回コースをとろうなどと考えていたが、小雨がぱらつくあいにくの天気、結局、榑ヶ畑からピストンすることにした。醒ヶ井養鱒場まではバス。そこから歩いて榑ヶ畑の登山口に着いた時には、既に11時50分になってしまっていた。
汗拭き峠（二合目）より上のブナなどの広葉樹の森林地帯も気持ちよく，標高の割に奥深い山だと感じた。急坂を上りきって七合目までくると広々とした景観となる。山頂域は御池岳など鈴鹿北部と同様テレッとした笹原広がるカルスト台地状の地形で，避難小屋を点景とした見晴らしが素晴らしい。
霊仙山最高点には，背丈ほどの笹に行く手を阻まれて断念。高校時代の７月の夏合宿歩荷訓練山行の時、朝早く石榑峠から笹原をかき分けて竜ヶ岳に登り、朝露にニッカボッカーもニッカーホースもすっかりびっしょり濡れになって閉口したことを思い出した。午後2時に山頂。帰路も比較的急ぎ足で下りて榑ヶ畑登山口に戻ったのは午後3時40分だった。せっかくの機会、帰途に醒ヶ井養鱒場（入場料300円）を見学して帰る。」（注：その時の山行記録メモより）
残された写真を見てみても、八合目のお虎ヶ池の周囲はクマザサで深くおおわれているし、そこから山頂へ続く道も笹原につけられた道を忠実にたどっていく感じである。また、山頂部付近は、イネ科系の植物が生えており、わずかばかり石灰岩の露出が見られる状態である。
ところで、先日、件の高校山岳部の山友と今畑登山口から西南尾根を登り汗拭き峠に回るという今一番ポピュラーな周回コースを歩いた。およそ4半世紀ぶりの霊仙である。その目的は、近年恒例になっている春の花めぐりの一環として福寿草の花を楽しみたいということとともに、かつて一面広がっていた笹原の山頂域の景観の変化を肌で実感してみたいということであった。
笹峠から近江展望台に上る石灰岩の急登で既に十分感じ取っていたのだが、霊仙山最高点に続く稜線に至ると、もうそこは好き勝手にどこへなりと行けるのではないかと思わせるカルスト台地の大パロラマが広がっていた。
鹿が、あの笹原を食べつくしてしまったということなのか。霊仙山くまざさ再生プロジェクトの記事によると、「鹿は戦後の乱獲で激減し、１９４８年に雌鹿を狩猟獣から外す保護政策が始まり、１９７８年からは雄鹿の捕獲を一日一頭に制限され、この政策は１９９０年まで続きました。その間に鹿の個体数は飛躍的に増加しました。２０１４年に個体数を制限する捕獲を認める「鳥獣保護管理法」が出来ましたが時すでに遅しです。」とのことだ。（注�〇仮函�
先日の山行でも、八合目のお虎ヶ池あたりからは、草原状の台地に鹿道と思われる斜めの筋が幾重にも見えたし、現に十数頭にものぼる鹿が草を悠然と食んでいた。
私の心の中は、この日本離れした悠然たる山頂域の景観を好ましく思う気持ちと、それによって生じている生態系の変化や土壌流出のマイナス面との間で心揺れていた。たとえ福寿草が鹿の好まない植物として食害の直接的な被害を免れたとしても、食害によって福寿草を取り巻く生育環境が大きく損なわれれば、取り返しのつかない事態も考えられるのでないか。最近登山者を悩ませている雨後のぬかるみの泥道は山頂域の表土の流出と関連があるのではないか、また、この季節花をつけたオニシバリの木が全山で見られたのは、オニシバリが鹿の不嗜好植物の一つであることを知れば、心に暗澹たるものが残るのだった。
野生動物問題の複雑さと解決のむつかしさをあらためて感じた一日だった。
注� 崋�賀県米原市��霊仙山クマザサ再生��プロジェクト」
https://camp-fire.jp/projects/view/287126から引用
写真�，�虎ヶ池（2000年当時）
写真�∋劃困愨海�道（同上）
写真�Ｎ鄒膸海了劃此米云紂�
（参考� 烹�12（2000）.8.18 霊仙山山行記録 曇り一時小雨ぱらつく
11:50榑ヶ畑登山口→12:40五合目・見晴台→13:15お虎ヶ池（八合目）→13:35経塚山（九合目）→14:05山頂→14：35お虎ヶ池→15:00四合目→15:22カナヤ小屋→15:40榑ヶ畑登山口
（参考�◆法嵎ー�草咲き乱れる霊仙山 〜旧友と追憶の山を歩く〜」R5（2023）.3.30
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-5315184.html
霊仙に限らず、鈴鹿はどこも笹が無くなってしまいました。
雨乞はまだ残ってるみたいですが。
笹だけでなくヒロハアマナやニリンソウ等の草も食べられ、残ってるものも小さいものばかりです。
シカの増加はハンターの減少や温暖化の影響などと言われてますがよく分かってないみたいです。
コメントありがとうございます。１日違いの素晴らしいレコ拝見しました。
ヒロハアマナは、田中澄江が霊仙山を花の百名山に選んだ花ですよね。それによると、山頂部の枯れカヤトにいっぱい咲いていたようです。確かに今は幸せな出合いは、あまり期待できない感じです。
去年藤原の孫太尾根登った時、草木の手前でヒロハアマナを見かけて喜んだのを思い出しました。
笹の消滅と鹿の食害に関する件ですが、もし、鹿の食害によって、あの広大な笹原が亡くなった、とするならなぜ今、大切な食糧源を失ったシカは、生き延びているのでしょうか。笹枯れは、ササ植物のサイクルですよね。鹿の食害ではないと思います。
泥濘の登山道は、正に私達、登山者の責任です。雪解けの時期、滑るからといって､雪のほとんどない道をアイゼンやチェーンスパイク付けて歩くから、ぐちゃぐちゃになるんじゃないですか。
もう少し、自分自身が自然に及ぼしている影響を考えた方がいいと思います。
まあ、嫌ですよね。登山やハイキングが自然破壊になってる、って考えることは…。だからシカに責任を押し付けたい、…。
コメントありがとうございます。
笹原が消滅したままなことは、ショックなことではありますよね。その原因は複雑で、科学的厳密さで証明されていないことはおっしゃる通りです。
近年鹿が増えたことは、間違いないですから、笹枯れの後に笹原が自然復活しない原因に鹿の食害が何らか関係していると推論する人もいるようです。例えば、「geoid.gr.jp/asyu/miya」。
泥濘の登山道は、おっしゃる通りかもしれません。登山やハイキングも自然環境に一定の影響与えていることは確かな事実ですから。
昔を知っている・覚えているわけでもありませんが、最近奥多摩や奥武蔵の急に流れが緩やかになった地域の河川の周辺域に確認できることが多いことに気付きました。
海洋酸性化でサンゴが成長しないことと同様に、酸性雨あるいは炭酸ガスの増加が地下水の酸性化を引き起こし、石灰岩地域の石灰岩を溶かし出し、その後流れが緩やかになったところで河川中の藻などの光合成などの影響で河川中の炭酸ガス分圧が減少して石灰岩が再結晶する現象かと考えはじめたところです。まあ鍾乳洞の成り立ちと同様ですが、結晶化の発達が顕著でないようで短期間の現象かと思った次第です。
残念ながら、そのような観察をする機会はありませんでした。
話少しづれるのですが、登山口の数キロ手前に河内風穴と言うのがありました。いわゆる鍾乳洞で、一部観光用に公開されています。三重県側の方にも同じような風穴があって、そこと繋がっているとの伝説まであるようです。
太古より石灰岩盤が雨で侵食され、溶解されて形成されたものですね。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する