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母親が智恵子のファンであったので、実家には高太郎の詩集があった。「あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。」や「阿多多羅山の山の上に毎日出てゐる青い空が智恵子のほんとの空だといふ。」といったフレーズが安達太良山のイメージを形作っていたのだった。
その安達太良山には、大学を卒業して東京に出てきた年（1973年）の秋11月初旬に登った。どういう経緯かすっかり忘れてしまったが、東京の大学生だった弟と一緒に登ろうということになった。ところが、肝心の弟が約束の時間に上野駅に現れない。1、2本列車を遅らせて待ったが、現れる気配がない。最後にはしびれを切らして、駅の伝言板に「先に行く」とのみ記して車中の人となったのだった。携帯電話などない時代、待ち人来らずとなると最後の連絡手段として活用されていたのが、駅の伝言板だった。黒板にチョークで伝言を書き残す。一定の時間がたつとその伝言は、駅員によって消去される仕組みであった。
上野駅の夜行列車といえば、「上野発の夜行列車〜」で始まる歌謡曲、「津軽海峡・冬景色」を誰もが連想するが、石川さゆりが紅白歌合戦で歌ったのが、1977年。当時は夜行列車の全盛時代で、1978年のころは多い日には46本もあったという。青森駅向かう夜行列車だけで19本あった時代、仙台行きや山形行きとなれば23時台、0時台にもあった。後で聞くと、弟は遅い時間の夜行列車で二本松に行って、一人で安達太良山に登ったのだという。
残念なことに、その時の山行記録は残っていないが、いろいろ探してみたらスライドが10枚ほど残っていた。それらからコースを推測すると、意外とマイナーな道をたどったようだ。
塩沢温泉から登り始めて、沢沿いに三階滝、八幡滝、霧降滝などを楽しみながら、僧悟台へ。そこから鉄山、馬の背を歩いて山頂に登ったようだ。もっとも、沢登りをした記憶はないから、沢沿いにあった登山道をたどったのだろう。（注：調べたら、今は八幡滝から僧悟台までは廃道のようだ。）
朧に記憶に残っているのは、残念ながら紅葉はすっかり終わっていたこと、沼の平を見下ろす荒涼とした風景が印象的だったことだ。
その晩は、二本松で小さな日本式の旅館に泊まった。次の日は、午前中城跡公園の菊人形をのんびり見た記憶がある。
なんということもない話だが、昭和を感じさせるエピソードなので、記録しておくことにした。
写真�〇鯵�滝
写真��八幡滝
写真�Ｌ弦濛�
(参考)
「山は呼んでいる 〜夜行列車の思い出 その１〜」
https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-245139
「山は呼んでいる 〜夜行列車の思い出その２〜」
https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-247343
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