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富士山は9月の声を聴くと早くも秋の気配が漂い、登る人も少なくなる。
裾野の別荘地は夏休みの華やぎが影を潜め、落ち着いた日常に戻る。
平日は人の気配が疎らになり、散歩する人も少ない。
棟ごとに趣のある建物を眺めながら歩いていると、「売り物件」の立て札が目に留まる。
電話番号だけが添えられた無機質な立て札を見ると一抹の淋しさが込み上げる。
震災や円高による不況で、持ち主に手放さざるを得ぬ事情が生じたのだろうか。
9月の裾野には夏の終りを象徴する祭りの後のような一抹の淋しさが漂うのだ。
ふと、マーマローサの演奏するピアノ曲、「コテージ・フォー・セール」を思い出した。
「別荘売ります」程度の意味だが、聴く者には曲名だけで淋しさを連想させる。
ジャズピアニスト、ドド・マーマローサは長い間、楽界から姿を消していたが1961年5月突然この録音でカムバックする。
ARGOレコードの「DODO'S BACK!」である。
内容は全10曲のピアノトリオだが、その2曲目が「COTTAGE FOR SALE」なのである。
彼はこのレコード1枚を世に送り出すと再び消息不明になり、2度と世に出ることがなかった。
文字通り不出世のジャズピアニストであった。
カムバックした彼の演奏は著しい変化を遂げていた。
録音された10曲全てに気だるい哀感が滲み、枯淡の気魄により叙情的に昇華され尽くしている。
円熟期、35歳の録音だが、三十五と言えば釈迦が悟りを開いた齢である。
消息を絶っていた間、彼はどのような生活をしていたのだろうか。
麻薬中毒の治療をしていたとの噂もあるが、この録音の時、マーマローサの心には無常の風が吹き渡っていたに違いない。
演奏を聴けば判るが、その無常観は尋常ではない。
全ての曲に滲み出る枯淡の想いは、詫び錆びの心を聴き手に湧上らせ、独特の美学を形成して見事という他はない。
私がこよなく愛聴するアルバムなのである。
録音の1961年といえば、私が登攀を引退し家庭を持った年である。
そして二度とゲレンデに戻ることがなかった。
だが、これだけ見事な演奏をしながら楽界に戻ることなく消えたマーマローサの心中は、私に理解できるものではない。
無常の風は彼の心中に吹き渡り続け、止むことがなかったのであろう。
山荘の居間の中央に立つ柱には、昔の持ち主の幼い子供達が背比べした印が刻んである。
それを見ていると一抹の侘びしさを感じる。
親の事情で手放されたこの山荘での背比べを、懐かしく想い出すこともあるだろう。
マーマローサのピアノは、当にそのような情感に溢れている。
アルバムのタイトルは「DODO'S BAGK!」だが、「COTTAGE FOR SALE」こそピッタリではないかとさえ思うのだ。
このアルバムは1997年に世界で初めて日本でCD化され販売された。
もののあはれ、わびさびの文化を愛する国民性の所以であろう。
相仲 廉 ainakaren
*Dodo Marmarosa / Mellow Mood
こんにちわ、ainakarenさん
youtubeで検索しましたが、dodo marmarosa版はヒットしませんでした。
ぜひ、聴いてみたかったのに残念でした!!!
tabioさん、こんにちは。
LPレコードの入手は困難ですがCDなら中古市場にあると思います。
一聴をお薦めします。ren
tabioさん
マーマローサの演奏、他の盤(40年代)ならば冒頭部がユーチューブで聴くことができるようです。
よく探せばこの盤もあるのかも〜。ren
ありがとうございます。
46年のチャーリーパーカーとの「Ornithology」と
62年のジーンアモンズとの「The Moody Blues」は見つけられました。
あと、バーニーケッセルと・・・
これだけでも60年代がそれ以前に比べて落ち着いているように聞こえますね。
>気だるい哀感が滲み・・・
そう言う演奏が特に好きなんでCD探してみます。
情報色々ありがとうございました。
ちなみに「Ornithology」って、愛称のバードのイメージから取ったんですかね?(笑)
tabioさん、お早うございます。
62年のセッション参加がありましたか。
私も聴いてみたいと思います。
Ornithologyはチャーリイ・パーカーの渾名へのあてこすりでしょうね。
バードだから鳥類学なのですね。
ジャズのアルバムタイトルにはユーモアたっぷりのものが多いですね。ren
*追記
後日、ユーチューブにアップされましたので日記本文に2曲を追記します。
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