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2013年06月06日 14:01自然と人文レビュー(書籍)全体に公開

『ウラシマ・タロウの死』

 慣れ親しんだ地を離れ、人が旅に出るとは如何なる事か〜?
「行方」とか「行先」という言葉には、人の「行く末」を表す語彙もある。
英語での「行先」は人の「運命」と全くの同語彙でもある。

はたしてウラシマ・タロウの行く末、運命とは何か〜?
人間は外面性、慣習、人種や体型の相違、そして言語の違いまでも剥ぎ取られたときに、真の人間的出会いや相互理解が生まれると信じられるのだろうか。
肌の色の異なる異国の人が不思議な国「日本」で、裸の出会いがはたして可能なのだろうか。
此れが、ミステリー小説『ウラシマ・タロウの死』の本質的な問いかけであると思う。

この書籍は1980年に新潮社が刊行した異色のミステリー小説である。
*ロジャー・パルバース著、越智道雄訳 『ウラシマ・タロウの死』

古い書籍であるが、ネタバレを避けたいので粗筋には触れない。
代わって物語の巻頭の前書き全文を下記に引用する。

>>「 浦島太郎、日本の伝説に登場する主人公。海亀の背に乗って海の底の世界におもむき、そこの宮殿でまじりけなしの快楽と恍惚の三年を送る。陸の世界へ帰るとき、一つの箱をみやげとして贈られるが、絶対にそれを開いてはならないと釘を刺された。
いざ故郷へ戻ってみると、一切が変りはてている。見知った顔、見慣れたもの、なにひとつ残っていない。かれは例の箱を開いた。その中から白煙がたち昇る。その煙に包まれると、かれは一人の老爺に変っていた。」

1944年8月5日早朝、日本兵捕虜千百余名、ニューサウスウエールズ州カウラの戦時捕虜収容所脱走。
脱走時に死亡した捕虜の多くは、現在カウラの日本人墓地に葬られている。捕虜の中には、虜囚の恥を痛感するあまり、収容所当局に偽名を名乗っていた者が多数いた。
カウラ墓地には、ウラシマ・タロウの墓が存在する。<<

西洋人である主人公が極東の不思議な国「日本」で異俗奇習に充ちた人間関係の罠に陥っていくのだが、その恐怖には実体がなく、日本的恐怖の中心は想定されぬ別の処に存在する事実を発いている見地から、従来の白人作家の手によって書かれてきた極東や日本を舞台にしたスリラーやミステリーとは著しく異なる。
前半に謎めいた事件の連続発生、後半にその謎解きをする推理小説の定石を踏みながら、謎解きが謎の緊張を解くことなく、逆に一層不可解になっていく点で極め付きの異色作と言い得る。
スリラーとミステリーは概要を紹介しないのが建前だが、主人公のプロフィールだけを明らかにしておく。

彼はオーストラリア放送協会の代理人として東京に滞在し、1944年8月5日早朝シドニー西方の田舎町カウラ近郊の戦時捕虜収容所から、千百余名の日本兵捕虜が決行した自決覚悟の集団脱走(死者231名)をドキュメンタリー作品にする企画を抱えて、堪能な日本語を駆使して日本側の協力をとりつけるため、あちこち巡り歩いて交渉を続けているプロデューサーである。

そして物語は、彼自身の係わる衝撃的な大事件の発生で唐突に終わっている。
謎は謎のまま残り、問いかけの答は見出せぬ儘である。ainakaren
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コメント

RE: 『ウラシマ・タロウの死』
ainaka様 ご無沙汰いたしております。

3月、サクラをテーマにしたワイン会を開催しました。
カウラの名前と集団脱走の話を聞いていましたので、内容から即ワインに結びつきました。

そのとき、試飲したワインです。
ウィンダウリー ウッドブロック サクラ シラーズ2010
産地国 :オーストラリア
生産地域 :ニューサウスウェールズ/カウラ
ブドウ品種 :シラーズ100%
アルコール度:13%
資料のコメントから
「第二次世界大戦中、オーストラリアカウラで捕虜になっていた日本兵が大脱走を企て200名以上が命を落とし、“集団自決”と言われた事件が起こりました。収容所では、どちらかと言えば自由な暮らしをしていたにもかかわらず、当時の≪捕虜として生きるなら死をえらぶ≫という日本軍の考え方、戦争が引き起こした悲しい事件でした。カウラの人々はこの犠牲者を手厚く葬り日本との友好関係を深めるために南半球最大の美しい日本庭園や日本文化センターをつくりました。さらに日本人墓地から日本庭園までに2000本のサクラを植え、毎年サクラ祭りが行われています。この美しいサクラをモチーフにしたのがこのサクラシラーズです。」

時代は遠く過ぎ去ろうとしても歴史は脈々と受け継がれていることを知る機会になりました。

僭越なヨコレスで申し訳ございません。
2013/6/6 14:52
『ウラシマ・タロウの死』
calliopeさん、こんにちは。
コメント深謝です。

カウラ産のワインが有ったのですか。
異国の地カウラの戦死者への献杯に相応しいワインですね。
心して味わってみたいと思いました。

この本は30年以上も前の東京が舞台ですが、今読んでも興味深いものがあります。
朝廷文化と武家文化が並立してきた歴史の、独特の思想と日本文化の闇の部分が外国人にどのように映って見えるのか、其処には雅から葉隠れまで思想的な存在が見え隠れします。
まして戦中の1944年、下って1980年には現在に増してその闇が色濃かったのでしょう。
平和な世を願わずにはいられませんね。ren
2013/6/6 15:59
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