記録ID: 3576707
全員に公開
沢登り
槍・穂高・乗鞍
日程 | 2021年09月22日(水) ~ 2021年09月26日(日) |
---|---|
メンバー | |
天候 | 9/22 寒冷前線が通過 → 9/23 一時的に西高型となり強風 → 9/24-25 移動性高気圧が北日本を移動する間は晴れ → 9/26 再び強い寒気流入で雨 https://tenki.jp/past/2021/09/chart/ |
アクセス |
利用交通機関
市営新穂高第3駐車場(P5 登山者用・無料)
車・バイク
https://www.okuhida.or.jp/archives/5001
経路を調べる(Google Transit)
|




地図/標高グラフ


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コースタイム [注]
- 1日目
- 山行
- 3時間59分
- 休憩
- 11分
- 合計
- 4時間10分
- 2日目
- 山行
- 8時間24分
- 休憩
- 16分
- 合計
- 8時間40分
- 3日目
- 山行
- 10時間53分
- 休憩
- 0分
- 合計
- 10時間53分
- 4日目
- 山行
- 9時間48分
- 休憩
- 59分
- 合計
- 10時間47分
- 5日目
- 山行
- 9時間4分
- 休憩
- 38分
- 合計
- 9時間42分
コースタイムの見方:
歩行時間
到着時刻通過点の地名出発時刻
3日目は竿出してのんびり。
コース状況/ 危険箇所等 | モミ沢はゴーロ沢で問題なく下れる。湯俣川の下りも前半は河原で左岸を進むのが楽。魚影は濃い。硫黄沢出合に近づくとミニゴルジュから巨石連瀑帯となり連続で高巻く。下降で1箇所1ピッチザイル使用。遡行なら問題ない。湧水は至る所に見られるが、鉄の味がする所もある。 硫黄沢が合わさってからは両岸ボロボロのV字谷となり、鉱泉水で魚もいない。渡渉は深い所で腰下程度。湯俣温泉から遡るよりは水量が少ない。今年の全体的水量は多め。 伊藤新道の歴史と現在 https://kumonodaira.net/tokushu/itoshindou.html コース状況の詳細は感想/記録にて。 |
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その他周辺情報 | 奥飛騨の湯はラスト入館17時まで。大人900円。毎月26日は500円。 |
過去天気図(気象庁) |
2021年09月の天気図 [pdf] |
写真
感想/記録
by taksizm
9/22(水) 曇りのち雷雨
お昼、新穂高温泉で登山届を投函して出発。5日間のんびり楽しもうと食糧には生野菜、缶ビール数本(県の要請で槍平テン泊は購入不可)ザイル、渓流足袋それに釣り竿など20kgは超えていてザックがパンパン。大汗かいて槍平が近づいた頃ザーッと強い雨。止んだ隙きに設営し夜シュラフに潜る。ピカッと稲妻が走る。沢が大増水しないことを願いつつ眠りに落ちた。
9/23(木) 曇り時々晴れ
起きるとテントはびしょ濡れ。バサバサしたり拭いてたら出発遅くなった。朝方ガスっていたのが、7時台から急に晴れてきて槍の穂先が一瞬顔を出す。嬉しい。千丈沢乗越に上がり、風の強い西鎌尾根を槍とは逆方向に歩く。左俣岳を超えると右手眼下に硫黄沢が見えた。硫化ガスの影響で不毛のようだ。樅沢岳は双耳峰の形をしていて、その中間コルから登山道を外す。傍目からしたら遭難者と間違われるかも知れないので、一応ザイル巻いて下降開始した。
鷲羽岳を真正面に一直線のガレ場下りが続く。モミ沢は足跡が所々残っていた。浮石は剱の池ノ谷ガリーに似てるけど、斜度は緩く下から人も来ない分安心して踏み出せる。ガレを大分下りてから最初の湧き水が出てきた。ザイルはザックに仕舞って、背負っていた水を捨てて渓流足袋にチェンジ。泉から下流は水が増えてゴーロの小川となった。気持ち良く下る。
その後双六小屋から大きな沢が合わさった。一箇所小滝があるも簡単に降りれた。しかし荷物が重いので浮石の処理は鈍く、樅沢は見えていて遠い。あたりには原生林が広がり、とても奥深い雰囲気を感じる。この森は双六〜三俣の登山道からは全く想像つかない。兎とか熊とか沢山いそうな深い森だ。そうか、これが黒部の山賊の舞台なんだ。早くも感動してしまった。樅沢出合、湯俣川本流に着いた。渡渉は膝程度。全く問題なかった。出合の下流右岸に絶好のテン場を見つけたので今日はここまで。
瀞を眺めると岩魚が悠々と泳いでいる。定本「黒部の山賊」によるとその昔、山賊が黒部源流で釣った岩魚を手桶の水を替え替え、樅沢まで運んで放流した子孫という。少し巻き降りて岩陰からルアーをキャストすると何と一投目でヒット。七寸岩魚。歓喜のあまり一人叫び声を上げた。ラーメンと共に夕食には一匹で十分。塩焼きにして山の恵みを美味しくいただく。こんな山旅を夢見ていたが、とうとう実現したのだった。
9/24(金) 快晴のち曇り
谷間の朝は遅い。今日は急ぐこともあるまい。岸を巻きつつ竿を出しながら、のんびり行こう。重いザックを背負ってゴーロ沢を歩く。左岸が巻きやすく、要所要所で微かな杣道が出てきた。上手く小滝の滝壺に出れたら竿を出す。あっという間に3匹連続キャッチ&リリース。こんなに遊んでくれるとは。山賊時代の岩魚そのものの香りがした。ふと気がつくと時計は10時を回っていた。竿仕舞い。沢床もクリアに見えてキラキラ眩しい。
太陽の眩しい昼下がり。左岸を行く。単調なゴーロに飽きたころ足元からブクブク泡が出ている。足袋にほんわりと温もりを感じる。その後も真っ赤な鉄分やクリーム色の硫黄の湧出部を通過した。これも北アルプスだ。大きな赤茶けた崩壊地が出てくるようになり、やがて両岸が立ってきてゴルジュとなった。轟音を轟かせて水流が連瀑帯へと向かう。核心に入る。左岸を探ると高巻く杣道が見つかった。下降は重荷と草付きで不安だったので1ピッチ立ち木でザイルを出した。支点も1mm細引で回収した。その後も迫力ある小滝が続く。左岸から巻いて降りれるが、どれも巨岩で2-3mクライムダウンが必要だった。空身で降りてザック回収を何度も繰り返す。パーティ遡行なら肩車で越せるが、単独での下降なので時間がかかった。左岸が行き詰まり腰下渡渉。水勢が強い。巨岩滝が続き下れないので右岸も高巻く。深い藪を漕いで行くと湿地があり小さな沢に出た。真水だ。ここが最後の水場に違いない。2L汲んだ。そこから湯俣川に降りると、硫黄尾根の荒々しい絶壁が目の前に立ちはだかっていた。
硫黄沢が合わさり渓相は一変。岩の墓場のような不毛地帯になった。川は乳白色に混濁し、やはり凄い水量でドドーンと滝を形作っている。滝壺はマリンブルー。両岸は見事絶壁で赤茶けた岩峰が連なっていて、写真でも伝わりきらない圧迫感。再び膝上渡渉し左岸を進む。ラバーソールがよく効く。今にも崩れそうな岩礫斜面からは硫黄の冷泉が至る所に湧き出ている。人が入れるサイズの青灰色の湯舟があったので行ってみる。微妙で水温25°Cくらい。どこかに温泉が在りそうだ。その先にはエイリアンのような硫黄の塊。白い水が滴り落ちる。岩礫や巨岩のほかにボロボロの岩屑が出てきた。これにはラバーも無力で急斜面トラバースはかなり際どい。外傾したザレで滑ったらお終いの恐ろしい所があった。ホッと胸を撫で下ろす。目下にある真っ黒の湯溜りから渡渉。赤岳から発する沢の出合、岬に出た。幕営跡が並ぶ。砂漠地帯のキャニオンのような絶景が広がる。それにしても何故これほどテン場が、と不思議に思って岬の背を登って行くと、湯気の立ち込めるエメラルドの泉があった。湯温は上が熱くて底はヌルい。湯の華がフカフカのクッションになっていて完璧過ぎる。ザックを放り投げて衣類を脱ぎ捨て、500mlビールを片手にザブン。ヒャッハー!!
30分ほど長湯してしまった。もうこの先進む気力はなく、野湯の真横にある大きな幕営跡に設営した。他の物件も見回ったがどこも落石の危険は免れないので、先週の飛騨での余震が再発しないことを祈るばかりだ。それ抜きにすればこのテン場は最高過ぎた。夕食はクスクスにたっぷり野菜を入れてタジン鍋にした。荒涼とした風景とマッチして、サハラ砂漠の谷にいるようだった。
9/25(土) 快晴のち曇り
地震は来ず平和な朝を迎えた。テントのジッパーを開けると、湯けむりの漂う野湯までは数歩。足を冷たい沢水で濡らす朝の儀式も、今日に限っては足湯の贅沢。しかし朝一に昨日積み残した課題が待ち受けていた。最後の湯俣川渡渉だ。岬の先端は大きな滝の落口になっている。まずは滝の右岸を進むルートを模索したが、絶壁をへつるバンドが外傾し岩屑が乗っている。崖下には空色の滝壺が唸りを上げる。次に上流へ戻って左岸を高巻く踏み跡を対岸に探すも、急なザレでカモシカなら通れるレベル。覚悟を決めて滝の落口の急流に踏み入れる。水中のスタンスは岩の上ではなく、上流側の岩の付け根に置く。強い水圧に押されてポジションが安定した。よし。これをストック三点支持で一歩一歩進めて渡りきった。
もう難所はない。赤沢出合に着くと初めてマーキングを見た。大岩に「アカサワ」と書かれている。やった。伊藤新道だ。赤沢に入渓し最初の滝を巻き上がる。小さなゴーロ沢で楽に登っていけた。正面、赤茶け大崩壊した谷に朝日が当たってグランドキャニオンのよう。やがて岩ペンキの ◯→ が黄色と白色の2種類出てきたが白は茶屋に行く方だろう。黄を辿っていく。3つ目の黄 ◯→ から踏み跡の通り赤沢を離れ、右岸へ這い上がって行くとホース発見。そして急峻な藪っぽい尾根をジグザグと急登して行く。最初は人気沢の滝の巻き跡に近い感じで、腕を使い強引に身体を上げる所もあった。やがて刈払されトラロープや木梯子も出てくる。展望地が多く、高度を上げるにつれて硫黄沢の素晴らしい絶景が広がった。槍の穂先が出ているから北アルプスと分かるものの、そうでなければチベットのよう。まさに秘境の谷と思った。
尾根にのって標高2000mを超えると道幅は広くなり踏まれ、一般コースと変わらない登山道となった。展望台の先で三俣山荘のスタッフたちとスライドした。コース維持のためスタッフ自ら通っているという。人が通らず踏まれない道はあっという間に消える。そして伊藤新道の復活が近い話も伺った。本当に感謝しかない。一方で今年、この秘境を一人存分に味わえたことは密かな幸せだった。三俣蓮華カールの紅葉を眺めつつ、鷲羽岳の山腹を一文字に横切って行き正午、三俣山荘に到着。そして予約を入れておいた雲ノ平テント場に向かった。雲ノ平はどこを見渡しても絵になる地だ。でも、伊藤新道から登ってくると不思議と、踏み乱れた跡や木道などオーバーユースも目についてしまった。登山ブームの隆盛を経て、コロナ禍で山小屋も苦境に立たされた2021年。黒部の山賊にはもう会えないけど、彼らの幻影を追って岩魚を釣り沢を下ったことで、山賊たちから大事なことを教わった気がした。これからどう変化していくのか分からないけど、伊藤新道は100年の時を経ても、永遠のクラシックルートであることに変わりはないと思った。
お昼、新穂高温泉で登山届を投函して出発。5日間のんびり楽しもうと食糧には生野菜、缶ビール数本(県の要請で槍平テン泊は購入不可)ザイル、渓流足袋それに釣り竿など20kgは超えていてザックがパンパン。大汗かいて槍平が近づいた頃ザーッと強い雨。止んだ隙きに設営し夜シュラフに潜る。ピカッと稲妻が走る。沢が大増水しないことを願いつつ眠りに落ちた。
9/23(木) 曇り時々晴れ
起きるとテントはびしょ濡れ。バサバサしたり拭いてたら出発遅くなった。朝方ガスっていたのが、7時台から急に晴れてきて槍の穂先が一瞬顔を出す。嬉しい。千丈沢乗越に上がり、風の強い西鎌尾根を槍とは逆方向に歩く。左俣岳を超えると右手眼下に硫黄沢が見えた。硫化ガスの影響で不毛のようだ。樅沢岳は双耳峰の形をしていて、その中間コルから登山道を外す。傍目からしたら遭難者と間違われるかも知れないので、一応ザイル巻いて下降開始した。
鷲羽岳を真正面に一直線のガレ場下りが続く。モミ沢は足跡が所々残っていた。浮石は剱の池ノ谷ガリーに似てるけど、斜度は緩く下から人も来ない分安心して踏み出せる。ガレを大分下りてから最初の湧き水が出てきた。ザイルはザックに仕舞って、背負っていた水を捨てて渓流足袋にチェンジ。泉から下流は水が増えてゴーロの小川となった。気持ち良く下る。
その後双六小屋から大きな沢が合わさった。一箇所小滝があるも簡単に降りれた。しかし荷物が重いので浮石の処理は鈍く、樅沢は見えていて遠い。あたりには原生林が広がり、とても奥深い雰囲気を感じる。この森は双六〜三俣の登山道からは全く想像つかない。兎とか熊とか沢山いそうな深い森だ。そうか、これが黒部の山賊の舞台なんだ。早くも感動してしまった。樅沢出合、湯俣川本流に着いた。渡渉は膝程度。全く問題なかった。出合の下流右岸に絶好のテン場を見つけたので今日はここまで。
瀞を眺めると岩魚が悠々と泳いでいる。定本「黒部の山賊」によるとその昔、山賊が黒部源流で釣った岩魚を手桶の水を替え替え、樅沢まで運んで放流した子孫という。少し巻き降りて岩陰からルアーをキャストすると何と一投目でヒット。七寸岩魚。歓喜のあまり一人叫び声を上げた。ラーメンと共に夕食には一匹で十分。塩焼きにして山の恵みを美味しくいただく。こんな山旅を夢見ていたが、とうとう実現したのだった。
9/24(金) 快晴のち曇り
谷間の朝は遅い。今日は急ぐこともあるまい。岸を巻きつつ竿を出しながら、のんびり行こう。重いザックを背負ってゴーロ沢を歩く。左岸が巻きやすく、要所要所で微かな杣道が出てきた。上手く小滝の滝壺に出れたら竿を出す。あっという間に3匹連続キャッチ&リリース。こんなに遊んでくれるとは。山賊時代の岩魚そのものの香りがした。ふと気がつくと時計は10時を回っていた。竿仕舞い。沢床もクリアに見えてキラキラ眩しい。
太陽の眩しい昼下がり。左岸を行く。単調なゴーロに飽きたころ足元からブクブク泡が出ている。足袋にほんわりと温もりを感じる。その後も真っ赤な鉄分やクリーム色の硫黄の湧出部を通過した。これも北アルプスだ。大きな赤茶けた崩壊地が出てくるようになり、やがて両岸が立ってきてゴルジュとなった。轟音を轟かせて水流が連瀑帯へと向かう。核心に入る。左岸を探ると高巻く杣道が見つかった。下降は重荷と草付きで不安だったので1ピッチ立ち木でザイルを出した。支点も1mm細引で回収した。その後も迫力ある小滝が続く。左岸から巻いて降りれるが、どれも巨岩で2-3mクライムダウンが必要だった。空身で降りてザック回収を何度も繰り返す。パーティ遡行なら肩車で越せるが、単独での下降なので時間がかかった。左岸が行き詰まり腰下渡渉。水勢が強い。巨岩滝が続き下れないので右岸も高巻く。深い藪を漕いで行くと湿地があり小さな沢に出た。真水だ。ここが最後の水場に違いない。2L汲んだ。そこから湯俣川に降りると、硫黄尾根の荒々しい絶壁が目の前に立ちはだかっていた。
硫黄沢が合わさり渓相は一変。岩の墓場のような不毛地帯になった。川は乳白色に混濁し、やはり凄い水量でドドーンと滝を形作っている。滝壺はマリンブルー。両岸は見事絶壁で赤茶けた岩峰が連なっていて、写真でも伝わりきらない圧迫感。再び膝上渡渉し左岸を進む。ラバーソールがよく効く。今にも崩れそうな岩礫斜面からは硫黄の冷泉が至る所に湧き出ている。人が入れるサイズの青灰色の湯舟があったので行ってみる。微妙で水温25°Cくらい。どこかに温泉が在りそうだ。その先にはエイリアンのような硫黄の塊。白い水が滴り落ちる。岩礫や巨岩のほかにボロボロの岩屑が出てきた。これにはラバーも無力で急斜面トラバースはかなり際どい。外傾したザレで滑ったらお終いの恐ろしい所があった。ホッと胸を撫で下ろす。目下にある真っ黒の湯溜りから渡渉。赤岳から発する沢の出合、岬に出た。幕営跡が並ぶ。砂漠地帯のキャニオンのような絶景が広がる。それにしても何故これほどテン場が、と不思議に思って岬の背を登って行くと、湯気の立ち込めるエメラルドの泉があった。湯温は上が熱くて底はヌルい。湯の華がフカフカのクッションになっていて完璧過ぎる。ザックを放り投げて衣類を脱ぎ捨て、500mlビールを片手にザブン。ヒャッハー!!
30分ほど長湯してしまった。もうこの先進む気力はなく、野湯の真横にある大きな幕営跡に設営した。他の物件も見回ったがどこも落石の危険は免れないので、先週の飛騨での余震が再発しないことを祈るばかりだ。それ抜きにすればこのテン場は最高過ぎた。夕食はクスクスにたっぷり野菜を入れてタジン鍋にした。荒涼とした風景とマッチして、サハラ砂漠の谷にいるようだった。
9/25(土) 快晴のち曇り
地震は来ず平和な朝を迎えた。テントのジッパーを開けると、湯けむりの漂う野湯までは数歩。足を冷たい沢水で濡らす朝の儀式も、今日に限っては足湯の贅沢。しかし朝一に昨日積み残した課題が待ち受けていた。最後の湯俣川渡渉だ。岬の先端は大きな滝の落口になっている。まずは滝の右岸を進むルートを模索したが、絶壁をへつるバンドが外傾し岩屑が乗っている。崖下には空色の滝壺が唸りを上げる。次に上流へ戻って左岸を高巻く踏み跡を対岸に探すも、急なザレでカモシカなら通れるレベル。覚悟を決めて滝の落口の急流に踏み入れる。水中のスタンスは岩の上ではなく、上流側の岩の付け根に置く。強い水圧に押されてポジションが安定した。よし。これをストック三点支持で一歩一歩進めて渡りきった。
もう難所はない。赤沢出合に着くと初めてマーキングを見た。大岩に「アカサワ」と書かれている。やった。伊藤新道だ。赤沢に入渓し最初の滝を巻き上がる。小さなゴーロ沢で楽に登っていけた。正面、赤茶け大崩壊した谷に朝日が当たってグランドキャニオンのよう。やがて岩ペンキの ◯→ が黄色と白色の2種類出てきたが白は茶屋に行く方だろう。黄を辿っていく。3つ目の黄 ◯→ から踏み跡の通り赤沢を離れ、右岸へ這い上がって行くとホース発見。そして急峻な藪っぽい尾根をジグザグと急登して行く。最初は人気沢の滝の巻き跡に近い感じで、腕を使い強引に身体を上げる所もあった。やがて刈払されトラロープや木梯子も出てくる。展望地が多く、高度を上げるにつれて硫黄沢の素晴らしい絶景が広がった。槍の穂先が出ているから北アルプスと分かるものの、そうでなければチベットのよう。まさに秘境の谷と思った。
尾根にのって標高2000mを超えると道幅は広くなり踏まれ、一般コースと変わらない登山道となった。展望台の先で三俣山荘のスタッフたちとスライドした。コース維持のためスタッフ自ら通っているという。人が通らず踏まれない道はあっという間に消える。そして伊藤新道の復活が近い話も伺った。本当に感謝しかない。一方で今年、この秘境を一人存分に味わえたことは密かな幸せだった。三俣蓮華カールの紅葉を眺めつつ、鷲羽岳の山腹を一文字に横切って行き正午、三俣山荘に到着。そして予約を入れておいた雲ノ平テント場に向かった。雲ノ平はどこを見渡しても絵になる地だ。でも、伊藤新道から登ってくると不思議と、踏み乱れた跡や木道などオーバーユースも目についてしまった。登山ブームの隆盛を経て、コロナ禍で山小屋も苦境に立たされた2021年。黒部の山賊にはもう会えないけど、彼らの幻影を追って岩魚を釣り沢を下ったことで、山賊たちから大事なことを教わった気がした。これからどう変化していくのか分からないけど、伊藤新道は100年の時を経ても、永遠のクラシックルートであることに変わりはないと思った。
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トレッキング | クライミング | 富士山 | 高尾山 | 日本百名山 |
登山口から逸れるドキドキ感わかります。いま達成感も半端ないでしょうね。おめでとうございます。
ボクはもうジジイになってしまったので、このような山行はできなくなってしまったので、うらやましい限りです。
登攀具ですが、ペツルのRADロープに、ATCはエーデルリッドのマイクロジュル・・・同じものをお持ちなので笑ってしまいました。この組み合わせは最軽量でかつ最強です。
『黒部の山賊』もいいですが、森村誠一の『虚無の道標(みちしるべ)』って読みましたか? もしまだでしたら是非!伊藤新道の物語ですが、多少エロチックです(笑)。
クマ
巻き巻きで釣り下ったので、沢歩きってジャンルってあればそっちに登録してました
過去レコ拝見しましたがスキーヤーズオートルート、チェルビーノ、、いいなあ。コロナ禍の前は行く夢見てました。
登攀具は私の場合ソロでガシガシ使う感じではなく、軽さで6-7mmシステムですね。ジュルの自動ブレーキはカラビナの位置がデリケートですけど、逆にしてプルージックとセットでも使えるし、仰るとおりラド最強と思います。
『虚無の道標(みちしるべ)』は伊藤新道とは知りませんでした!!早速ポチってみます
マイクロジュルのカラビナ位置について同感です。ブレーキ量が大幅に変わってきますよね。いま調べてみたら、ブラックダイヤモンドから、細ロープ対応の『ATCアルパインガイド』というのが新しくでていました。これだと『ATCガイド』同様に素直に使えそうです。
ご参考まで・・・
クマ
即レス&情報ありがとうございます。
最適径が若干気になるところではありますが、8mmで揃えるならBDに軍配上がりそうですね。
ほぼザックの中で時折出す範疇を脱したら(ないかもですが...)ぜひ検討してみようと思います
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