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写真２）本ノ木遺跡出土の石槍群
写真３）東京考古資料陳列館の「模型」
恒例の列島発掘展２０１８を見に久しぶりに江戸東京博物館を訪ねる。今日は特に並行して開催されている「東京郷土資料陳列館」の展示解説もあるので、今回はそれを中心に見に行く。時間の余裕がないので発掘展はもう一度見に行くつもり。展示解説が始まるまで発掘展を見る。今回はさまざまな見所がある。昨年特別史跡に指定された加曾利貝塚に関する展示―これは特に新しいものは少ないが、指定に合わせて新しい発掘や研究があり、加曾利博物館の展示内容も大幅に改定されつつある。展示では大きな階層の剥ぎ取り資料の展示、埋葬された犬の骨、貴重な貝輪等の展示などがあるが、この貝塚遺跡が特別史跡に選ばれたのは、遺跡や出土品・遺構そのものの重要性に加えてその学史上および遺跡保護の観点からの重要性だ。明治２０年代以来、様々な著名学者を含む人々により調査され、戦後、開発の波が押し寄せる中で昭和３０年代には来た貝塚、南貝塚が発掘調査され、その重要性にかんがみ、保護の必要が叫ばれ、大きな市民運動となって国会でも取り上げられ、開発課保全か、大きな議論を呼んだ。奈良の平城京などの遺跡の保全に関しては国会の議論の余地もなく保全の必要が理解されたが、東京湾の貝塚の保全がなぜ必要か国会で長々と議論された結果、保全が決まり、国指定史跡（遺物でいえば重要文化財）となり、さらに今回特別委史跡（遺物でいえば国宝）となった。国会の記録は永久保存されることから通常の議論の記録とは性格が大きく異なる。こうして重要遺跡とは何か、何をどのように保存すべきかについて、一つの基準となる見解が示されたのだった。そうした背景を踏まえての特別史跡指定だった。貝塚では東海地方・渥美半島の保美貝塚の展示もある。近年の調査を含め、大量の人骨の発見や外からの土器の出土が多く、広域的な交流の拠点として、当時の人々の交流の姿を知ることのできる貝塚であり地域だという。また本の木遺跡は信濃川と清津川合流点近くの津南河岸段丘上の縄文草創期の遺跡の一つで、旧石器時代と縄文時代の境目は何かという大きなテーマで論争の起こった重要遺跡で、旧石器時代に終わりを告げる美しい石槍などがきれいに展示されている。これらの押圧縄文土器片などが共伴していたことから縄文時代の始まりはいつかが議論されたのだった。このほか、群馬県の話題になった鎧を着た古墳人の金井東浦遺跡出土品や熊本などの壁画古墳の展示もあった。今回は時間がないので、次回またほかの展示を詳しく見ることにして、東京郷土資料陳列館の展示解説に移動する。
江戸博の展示にかんするHP によると
｛1934年（昭和9）11月に開園した有栖川宮記念公園内に、東京市による「東京郷土資料陳列館」（以下、「陳列館」）が同時開館しました。東京における公立歴史博物館のルーツともいえる「陳列館」は年中無休、入場無料で、主に公園利用者と東京市内の小学生が来館しました。 本展では、江戸東京博物館のルーツでもある陳列館を紹介し、当時の調査で収集された考古資料、初代学芸員片倉かたくら信光のぶみつの活動、片倉が収集したと思われる考古模型標本（土偶、埴輪、須恵器等）などに着目して、当時の東京市における博物館活動と考古資料展示の一端を探ります。、
１ 東京郷土資料陳列館と考古資料
1934年（昭和9）1月、高松宮たかまつのみや宣仁のぶひと親王より御用地の一部が公園地として東京市に寄付され、東京市は「有栖川宮記念公園」として整備し、同年11月開園しました。この公園地の東部、大広場の記念碑裏（現在の都立中央図書館脇）に、東京市の自然環境、歴史、市政の概要を展示公開する、建坪40坪木造平屋建ての「東京郷土資料陳列館」（以下、「陳列館」）が同時開館しました。開館当初、将来的に敷地100坪2階建ての本館を建築する予定と公表しましたが、日中戦争の戦局の悪化等により実現しなかったものと思われます。
江戸東京たてもの園の前身である武蔵野郷土館が「有栖川資料」として「陳列館」から引き継いだ資料は、考古資料、複製を含む版画、大判紙焼写真、石碑拓本、ガラス原版、化石類など約900点にのぼり、その約3割を考古資料が占めています。旧石器、縄文、弥生、古墳各時代の資料があるなかで、焼塩壷、擂鉢片、泥めんこなど、江戸遺跡出土資料を含んでいる点は注目に値します。
2 初代学芸員片倉信光かたくらのぶみつと考古学模型標本
「陳列館」の初代学芸員、片倉信光（後に旧白石藩片倉家15代当主）は國學院大学で鳥居龍蔵とりいりゅうぞうのもと考古学を学び、上代文化研究会、東京考古学会に所属し、機関誌『上代文化』や『考古学』の編集にたずさわりました。 また、宮城県白石市郡山こおりやま横穴古墳群（白石市指定史跡）や大田区久ヶ原横穴墓群など、古墳時代後期から終末期の横穴墓を多く調査しています。そのほか、武蔵野文化協会の前身である武蔵野会にも所属し、同会発行の『武蔵野』に数回寄稿しており、その記事等から片倉が学芸員として活動する様子がうかがえます。
片倉はその後白石に戻り、仙台の斉藤報恩会博物館の学芸員となり、父の逝去に伴い爵位も継承しました。戦時中、東京から白石に集団疎開した子供達に郷土史や民話をまとめた小冊子を発行したことも知られています。白石では奥州白石郷土工芸研究所を創立し、江戸時代、城下の主要産業であった紙布、紙衣づくりの復活の研究に半生を捧げました。
考古学模型標本は、明治末期から大正初期にかけて学校教材として製作・販売されたもので、多くは考古学者が監修にあたっています。郷土教育がさかんとなった1930年代には、様々な学校教材会社が模型標本を製作・販売していることがわかっています。1934年開館の「陳列館」旧蔵資料の中にも、考古学模型標本が10点あまりみられます。これらは、考古学を専門とする片倉が収集したものと思われます。完全な形で発掘されることが少ない遺物や、出土例が珍しい資料などをわかりやすく展示するために考古学模型標本を活用したことがうかがえます。
などとあり、この「陳列館」が江戸東京博物館のルーツともいえるものであることがわかる。残念なのは、現在の江戸博が近世以降のモノしか扱わず、それ以前の考古＋歴史資料を展示する場所が東京都にはないことだ。国立博物館や区立資料館などはあるが、東京都自身が持っている膨大な考古資料は埋蔵文化財センターなどの収蔵され、それらを展示するスペースはごくわずかしかない。これは都民にとっても国民全体にとっても大きな損失だ。東京ほど大規模に土地が発掘された場所はないのだから――その出土品は広く公開される必要があるはずだーー。現在多摩センターの埋文で開催されている東京都の伊豆諸島の考古展「蒼海を渡る人々」も本邦初公開の貴重な考古資料がいくつも展示されている。こうした東京都の実情はほとんど理解されていないと思われ、残念だ。最後に印象的だったのは、陳列館が島津製作所に依頼して作らせた模型標本だ。小中学生に理解できるように土偶や埴輪、須恵器など多くの模型を作成し、カタログで全国の学校などに販売したという。そうした東京市の考古資料の発掘調査・研究と普及の歴史を振り返ることはとても意義のあることと思い、今日の東京都を取り巻く考古資料の保存と普及の問題を考えさせられる展示と解説だった。
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