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2014年02月17日 05:00博物館、展示会、美術館など全体に公開

2月15日(土)オリエント博物館講演会「ティグリス川流域の新石器時代 ―定住から農耕へ―」

 午前中、雪かきをして大汗をかき、午後池袋の古代オリエント博物館に向かう。電車の中で「小林登志子氏の「シュメルー人類最古の文明」を読み、あらためてメソポタミアの復習をする。
 今日は博物館友の会主催講演会「ティグリス川流域の新石器時代―定住から農耕へ―」があるのだが、大雪で主催者は聴衆がどれくらい集まるか、心配していた。しかしかなりの人が集まり、大雪でも熱心な考古学ファンはいるものだーー。

 展示室ではミニ展示会「2月15日(土)オリエント博物館講演会「ティグリス川流域の新石器時代 ―定住から農耕へ―」も開催されていたが、時間がなく、講演前には底を見ることができずじまい。
 1時半、聴衆はそこそこ集まり、講演が始まる。講師は筑波大学の三宅裕氏。最初に、このチグリス川流域の発掘調査プロジェクトの説明ーーチグリス川とユーフラテス川上流域は実はトルコ国内になり、トルコのこの地域でのダム開発事業が現在続々と進行中で、そのために遺跡調査が急がれている。ダム建設を進めるためにも重要なのだ(環境アセスメントには遺跡調査も含まれる)。この地域はメソポタミアの都市国家成立に先立つ新石器時代の遺跡が多く眠っているようだ。紀元前1万年〜9千年あたりまでの先土器時代の定住集落遺跡と紀元前7000年ころの土器の出土する新石器時代―明らかに農耕と牧畜が発生しているがその間の移行期の遺跡はまだ出ていないようだ。トルコ東部のダム開発地域の考古学調査は筑波大学などの日本隊以外に、英国、ドイツなど多くの国が関係しているようだ。この地域の新石器時代の遺跡の研究が進み、周辺のメソポタミアの遺跡との関係の解明が期待されている。一方このティグリス・ユーフラテス両川河川上流のトルコ政府によるダム計画は、考古遺跡の水没、イラク側の深刻な水不足(実際に進行中)、クルド民族の土地の喪失、強制移住などで、スイス政府が資金提供から撤退するなど、国際的な反対運動や批判、抗議が起こっており、複雑な問題だーー。筑波大側はその点には触れていなかったが――。
 
 この大河流域は肥沃の三日月地帯と呼ばれ、小麦栽培の発祥、農耕牧畜発祥の地域として有名だ。しかしBC3千年ころの最初の王朝である 初期王朝時代のシュメル人がどのような民族であるのか、まだよくわかっていないらしい。したがって、それ以前の新石器時代の住民に関しても当然よくわかっていない。

 この現在、ウルス・ダム計画のための調査発掘中のBC1万年前後の先土器新石器時代(PPNA)のハッサン・ホユック遺跡は、その集落遺構から、定住生活が始まったと考えられている。出土品では釣針や鏃(やじり)などは出ているが、石鎌や石刀などは出ておらず、石皿ばかり出てきている。その隣のサラットジャーミー・ヤヌ遺跡はBC7千年以降の定着農耕段階であることが明白で、小麦や家畜を飼った証拠が出ている。定着農耕に至る2000年くらいの過程がまだ明らかにされていない。

 生業は明らかになっていないが、居住地は粘土を使った石積みの耐久性のある住居が出土しており、また埋葬された遺体や大量の石皿などが出てきているので、移動生活ではこのような住居跡は考えにくい。床下などから出土する動物の骨も野生のヒツジ、イノシシ、ヤギ、アカシカ、ガゼルなどであり、牛はほとんど出土しない。BC7千年以降の農耕時代の遺跡で見つかる家畜化した動物の骨は見つからないので、まだ農耕と牧畜時代以前と考えられる。発見される植物の痕跡は野生のピスタチオ、アーモンド、エノキの実、野生のレンズマメなどで小麦類はほとんど出ないようだ。西アジアの考古学では一般に石皿=小麦栽培、加工という常識はここでは当てはまらないのではということだ。またかつてこの辺りに湿地帯があり、カヤツリグサ系の実やドングリ系、イモ類などが利用できたかどうか、現在調査中とのことだーー。出土されたものから発見された植物の痕跡から夥しい種類の植物種が検出されているが、栽培種につながる小麦類などは少ないそうだ。

 G.チャイルドはかつて、「新石器革命」という言葉の中で農耕牧畜の開始が人類社会の進化に大きなインパクトを与えたことを論じたが、三宅氏は農耕牧畜が明確に始まる前に定住生活が始まると考えられるこの遺跡から、定住生活の重要性を示唆するが、その場合、昔ながらの狩猟採集経済であるはずはなく、定住を裏付ける生活資源の確保、資源管理があるはずだ。その解明は今後の発掘成果にかかっているだろうーー。

 また面白い遺跡の特色としては、彩色された人骨の出土で、世界的に似たような例がなくはないが、なぜ、どのようにして彩色されたのか、謎らしい。それぞれのテーマの詳細は若手研究者たちによって分析・研究中とのこと。


 講演が終了し、質疑を終えてから博物館内の展示会場に向かい、講演に関連する「ティグリス川流域の新石器時代 ―定住から農耕へ―」の展示会場に向かう。スライド上映された写真が並んでいた。
  
 人類がいかなる条件下で、移動生活から定住生活に入り、さらに栽培植物や動物の家畜化に成功するに至ったのか――その秘密は徐々に解き明かされつつあるが、まだまだ謎が多いところのようだ。

写真1:バグダッドが駐留にあるティグリス川上流はトルコ領で、現在多くのダム開発が進行中。
写真2:ハッサンケイフ・ホヤック遺跡の重なり合う集落跡
写真3:謎の彩色のある人骨


 
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