|
|
|
これまでは新潟の弥生時代に関する展示が多かったが、今回は中世がテーマで新潟平野の低湿地で発見された馬場屋敷遺跡など、中世の木製品などが大量に出土したことから、「木製品から見た中世のくらしー南区の低湿地遺跡ー」という企画展示で、その関連講演会として「中世越後平野における材木の生産・流通ー木津のルーツに迫る」を聴講する。私としてはさらにより古い古代や古墳時代、さらには弥生時代などの木材に関して知りたいが、それを知る手掛かりは少ないので、まずは文献資料も含め、手掛かりの多い中世の木材について理解を深めることが目的だ。しかし中世にしても近世ほどの文献資料は残されておらず、限られた荘園関係の資料や木簡などの他、残された考古資料から推測するしかない。近年出土した木製品、木簡や関連する文献などから様々なことがわかってきた。
古代以前と中世以降の人の暮らしと木材との関係の違いは様々あるが、一つは漆器の器、食器が普及したこと、寺社建築や都市建設などで木材の大量消費が始まったこと、しかも、鉄生産加工技術の発達で、規格化した材木製品（規格化された角材など）が産地周辺で加工され、産地から川を筏を組んで流し、木津などをへて、港から港へと移動し、消費地へと送られるシステムが徐々に確立していった事だろう。センターの中に入ると、まず馬場屋敷遺跡から出土した田下駄・足駄（写真１）・草履芯・紡錘具・鋤や鎌の柄・曲げ物・茅通し針など、様々な木製品が並んでいる。茅とおし針に関しては、講師の武蔵大学の高橋一樹氏から、鎌倉時代以降出てくる茅札・種子札・などのお話もあった。荘園における茅場の住民利用の許可に関する文書などが残っているようだ。また出土した木簡・木札の中に「しろわせ（写真３）」と書いてあるものがあり、当初は意味が分からずにいたが、講師の高橋氏がその後歴博で仕事をしているときに近世史の専門家と話をしているときに、それは江戸時代の文献に出てくる「稲の品種名」だとわかり、「しろわせ」というイネの品種が古代から江戸時代まで存在していたことが分かったという。こうした木簡が出るということは、品種はほかにもいろいろあったと考えられる。品種改良の歴史は古代あるいはそれ以前から始まっていたようだ。中世の木材の流通に関しては、なかなか文献資料で出てくることがないが、「木津」という地名は鎌倉時代の文献に見え、１２世紀までは遡るようだ。「木津」というのは、「木材を扱う港」という意味で、阿賀野川流域には「木津」や「金津」という地名があり、木材や金属製品が生産されて積み出す港があったことを示している。「木津」に関しては畿内の淀川流域の木津川の例や尼崎の「大物浦（だいもつがうら＝大物とは大きな材木のこと＝つまり材木港のことか？）」など木材流通にかかわる地名や地形・場所などの話、京都・奈良などの寺社建設、修復、維持管理で継続的に大量の良材を必要としたために、古代・中世における新潟の荘園からの木材調達（寺社領荘園では水田のみならず木材取得のための山林地があり、水田のほとんどない山林主体の荘園というケースもあるという。各地の木材集散地・流通拠点と荘園、寺社などとの関係を文献や絵図、考古遺物などから解きほぐしていく。鎌倉時代以降、木材調達は材木市場からの買い付けが主流となるという。寺社や都造営のための巨大な柱などの特別な材木は、特定の山林から良材を探して伐採、搬出する「特注品」として別の流通になる。
また鎌倉時代の「松崎天神縁起絵巻」の北野社造営の図では「ばんじょう」という大工の棟梁が指揮を執って大きな材木を大工たちが扱う図では、４・５寸木、７・８寸木などの製剤が描かれており、その先端には穴があけられ、そこに紐をつけては運び出すような製材品の流通が始まっている証拠とされた。材木が商品として売買の対象となるには、断面の寸法や長さが一定の規格品かされねばならないが、鎌倉時代になると、各種ののこぎりや木材加工用の鉄製品が普及したためにこうした木材流通革命がおこったようだ。こうした道具の変化は、新神戸駅近くにある竹中大工道具館で見たことがある。高性能の刃物、鋸が出現して初めて、木材を効率的に切り出し、かつ直線的な製剤を得ることができるようになったのだ。
また中世が古代と異なるポイントとして取り上げた漆器の普及は、高性能の刃物による木の器の素材に柿渋の下塗りに黒漆などを塗布するより安価な漆器の登場によるという（写真２：浦廻遺跡の漆器椀や脚付膳）。さらに木材流通は素材の流通から、建築部材や扇の柄など加工度の高い商品が消費地近くばかりでなく木材産地や木材港周辺でも生産され、流通するようになるという。現代の木材産業に近いような形態になっていくようだ。こうした事例が淀川や尼崎（桶生産）、小松島（扇の柄）、琵琶湖、若狭湾周辺など様々な事例から明らかにされていく。
最後に新潟における木津氏や新津氏など、中世越後の武士による領主支配と木材流通との関係について論じ、講演を終えた。近世以降と異なり、まだまだ文献や高考古資料は少なく、不明点は多いが、高橋氏などの文献学者や考古学者の連携でこれまで知られなかった中世の木材生産の姿が少しづつ明らかになっていく様子はとても興味深いものだった。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する