「財務省に勤める広岡栄城には三人の息子があった。長男の省一は冬山の単独行で遭難した。次男の進吾は東大コースを歩み商事会社に勤めていた。三男の栄介は東大をめざして猛勉強の最中であった。栄城は妻たかとの結婚を押し切ったため出世がおくれたと思いこんでいる男である。大学の同期の高橋は局次長の娘を妻にして、今では財務省の次官候補にまであげられていた。栄城は自分が毎日味わう屈辱感を、息子達にはさせまいと、何時しか出世主義を息子達に押しつけていた。省一には、婚約者として高橋の娘美沙が決っていたが、省一が遭難したため、栄城は次男の進吾に彼女を当てようと図った。人形のように扱われるのを嫌った美沙は、進吾と会って結婚の話を断った。若い進吾も勿論この話に賛成だった。淡白な進吾の態度に美沙は心惹かれるのを感じた。折も折、進吾が所属する山岳クラブでは、劒岳にある「黒いジャンダルム」へ挑む計画があった。進吾は、益々重苦しく覆いかぶさる父母の重圧から逃れるためもあって、この困難な計画を実行した。その結果−−右足切断というみじめな敗北に終った。栄介は難関の東大に入学した。或る日、栄介が省一の哲学ノートを探している時、省一の日記を発見し、兄の死の真相を知った。封建的な家庭と官僚生活によって歪められてゆく自分を、もう一度人間らしく復活させたいため兄達が山に登ることを知った。栄介は入学祝に父から貰った金で登山道具を買った。両親は必死になって反対した。栄介の登山を心から喜び、激励するのは進吾達のクラブがある運動具店の店員節子だった。節子と栄介は恋人だ。栄介は自分が山で勝利を収めることが、両親を目覚めさせ、絶望の進吾を救うことだと確信した。進吾は弟に、彼愛用のザイルを送った。栄介は泣いてとめる母を振り切って山へ出発するのだった。」
昭和30年代の日本社会の中の世代対立、その対立を象徴するするものの一つが、
「登山」という行為だったこの時代。エリート官僚候補だった兄が突然、冬山に行って死ぬのは、やや不自然な感じがするが、その理由は残されたノートに書かれている。次男は、親の反対を押し切って山に登る登山家、しかし冬山で直前のひざの負傷の影響で、滑落し、足を切断することになる。遭難死した長兄の残したノートを見つけた弟も親の生き方に反発し、またもや山に向かうことになる。結局、急速に高度成長へと向かう当時の社会の価値観への反発を、登山という行為で表現していたわけで、当時の若き篠田監督自身の思いの表現だったようだ。
映画の後、上野に出て東洋館地下のシアターでキトラ古墳壁画に関するVR作品を見る。本館ではやはり数百人の行列があり、キトラ古墳壁画展では館内に入るのに60分、館内で展示を見るのに30〜40分待の状態だったが、VR作品の方は全く混んでいない。
最初に飛鳥時代の時代背景から始まり、飛鳥・藤原京と古墳群の位置、 高松塚やキトラ古墳の位置、概要、外観が示される。そして発見のエピソードから発掘された石室について映像が示され、それから一枚一枚の東西南北の壁画、天井画の解説がなされる。また漆喰や壁画の状態が悪かったために、どのように保存修復すべきか、様々な検討の末、現地保存をあきらめて、取り出して修復保存することになったこと。そのために、漆喰や壁画の状態や、修復のための絵具やその他の材料に関する調査を、可視光+赤外線スキャニング、テラヘルツ波イメージング、絵具などの蛍光X線元素分析、斜光によるデジカメ高画素接写など、様々な非破壊的な検査方法で、壁画の詳細再現、状態把握などに努める様子が映像でわかりやすく紹介されている。実際の展示は見るまでに二時間近く行列して待たねばならないので、まず行の映像を見ることをお勧めする。
また表敬館では、タッチパネル式の展示で、キトラ古墳の壁画を紹介し、また高松塚古墳壁画との比較をしている。このタッチパネルでは赤外線、接写など、様々な再現画像を見ることができるので、これも実際の展示を見る前に見るべきだろう。解説者が二人もついているので、事前に下調べをすれば、様々な質問に答えてくれるので、大変参考になる。
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