ぢばらく忙しくてご無沙汰していたサントリー美術館、ふとHPを見ると。「高野山の秘宝」展がもうすぐ終わる。こ、りゃいけないと慌ててスケジュールを見て、学芸員の「フレンドリートーク」のある土曜日午前中に出かけた。高野山はまだ行ったことがないが、数百のお寺があり、町全体が高野山という僧侶の町という。かつては男性僧侶しか生活しておらず、賄いからなにからすべて男性僧侶が行ったらしい。明治時代半ばまでは女人禁制が続いたが、やがて僧侶の妻帯が許され、普通に男女が暮らせる街になったらしい。高野山も俗化したということかーー。平安時代に高野山を開山した空海というお坊さんも、奥の深い人で、あまり高貴な家柄出身ではなく、苦学して唐に渡り、当時の中国の密教を正式に継承する地位を得た。仏教というのは当時、出世コースからはずれた人々が出世する数少ない道だった。東寺密教はすでに日本に渡来していたが、いわゆる「雑密」で空海がもたらした「正式」の密教はたちまち広がっていく。密教はインド、チベット、中国などを通過して日本に来るまでに様々な歴史と民族の神様や世界観が組み込まれている。密教の「密」は祈祷を中心とする秘密仏教という意味とされるが、ソグド語（ペルシャ・イラン系）の「太陽（神）」を意味するミールの音訳という見方もあるらしい。いずれにしても、当時の仏教伝来で苦しむ「神官」や地方豪族の状況と御釈迦様の代わりに最高神「大日如来」がお経を語る大日経を持ち、インドやチベット・道教起源の様々な神様が登場するこの奇妙な教えがぴったり符合して、瞬く間に受け入れられたそうだ。日本仏教史上、いや日本史上の大天才、空海率いる高野山は、その後も様々な人々、鎌倉や室町、徳川家など多くの権力者の庇護のもと、高野山の光を保ち続けて、今日見るような様々な「秘宝」を持つに至ったのだろう。
展示は弘法大師像、大日如来像や美しい寺で有名な書の数々、金剛峰寺縁起や曼陀羅などのほか、快慶の執金剛神立像、四天王像、運慶の八大童子像などが今回の目玉だ。そのほとんどが国宝か重文だ。このうち、四天王像は快慶が制作し、その後消失して今はない東大寺の四天王像の原型といわれ、大変貴重なものだ。また執金剛神立像はこれまで快慶作ではないのではという見解が多かったが、近年修復の際にその証拠に当たるものが見つかり、改めて快慶作となり重文に指定されたという。４階から始まり、３階に降りていくと、最初に現れるのが快慶の「孔雀明王坐像」（重文）でこれも素晴らしい像だ。クジャクは害虫や毒蛇などを食べることから人々の苦痛を取り除くありがたい神様で、真言密教の孔雀教法による祈祷は鎮護国家の大法として、重視されたという。さて、孔雀明王の部屋の次、最後に現れるのが運慶作の「八部童子像」、最大の目玉だ。高野山でもこの八大童子像が一挙にみられる機会はほとんどないそうだ。制多迦（せいたか）童子はポスターにも使われるほど有名で人気のある像だが、矜羯羅（こんがら）童子などもやんちゃ坊主のようで可愛らしい。八部童子とは不動明王に使えるもので、童子の形をした神像ということだ。これらの像は構成の作である二体を覗いて国宝に指定されており、高野山でも数年に一度、二体ずつ公開されるというような形で今回八体揃って見られるというのは、大変貴重なものだった。私の時代ではこれが見納めだろう。
展示を見終わり、美術館の前にある平田牧場レストランでトンカツを食べて英気を養い、次の東博に向かう。
写真：平田牧場レストランのトンカツ１３０ｇ
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