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自由が丘駅に近い居酒屋Kの片隅の花瓶には、いつも白い霞草に紅い薔薇が二、三輪〜、常連客、狂四郎の女将への心づくしの花だ。
薔薇の紅の暗いベルベットのような色は、狂四郎の好みだった。
狂四郎とは女将が付けた渾名である。
常連客の渾名は全て女将がつける。
客同士、渾名で呼び合い誰も本名を知らない。
狂四郎は呑みながら居眠りばかりしていた。
眠りの旦那から狂四郎の渾名になった。
狂四郎は、霞草が枯れてしまう前に必ず花束を携えて店に現れた。
ある日、狂四郎は30代の若さで急逝した。
脳内出血だった。
淋しくなったが、それでも客の誰かしらが霞草を持ってきて活けていた。
だが、紅い薔薇の色は明るい赤色へ微妙に変化した。
数年後、居酒屋は閉店になり入院した女将が亡くなって、マスターが一人きりになってしまった。
居酒屋の開店は、もう無かった。
霞草には紅い薔薇がよく似合う。
以来、自分も時折家で活けるようになった。
昨秋、女将の7回忌があり、法事の後の食事会の流れは親しい常連客とマスターの呑み会になった。
女将ばかりでなく狂四郎の想い出話も盛んに語られた。
マスターも機嫌よく呑んだが、少し淋しそうに見えた。
霞草は淋しげな花だが薔薇の花に風情を与え、よく調和する。
春になったら霞草に紅い薔薇の花束を持って、一人暮らしのマスターを訪ねてみよう。
相仲 廉(ainakaren)
*かすみそう「霞草」ナデシコ科の観賞用植物。
普通、一年生のものをいい、コーカサス・小アジア原産。
多年生の宿根霞草は地中海沿岸に分布。
園芸品種が多く、いずれも良く分枝、白・紅などの小花の咲くさまが霞がかかったように見える。
切花用。<季・春>・・広辞苑・・
ainakarenさん、こんにちわ。
良い話ですねえ、情景が浮かんできます。
私にも30年の付き合いがある居酒屋がありますが、常連の客にでもこんなに温かさを感じたことはないです。
これもドラマですね。
やはり野におけ霞草といいますが、紅い色や青色との組み合わせは綺麗ですね。
daikokuさん・こんにちは。
かすみ草は淋しげな花ですね。
花屋さんでは見かけによらず高価なんですよ。
確かに薔薇に良く合います。
Kのようなカウンターだけの居酒屋も少なくなり、チェーン店ばかりが増えましたね。
昔の人間には世間が狭くなりました。廉
ainakarenさんこんにちは。
私の父は、銀座でカウンターだけの小さなバーでマスターをしていました。
3年前引退しましたが、霞草と紅い薔薇のようなドラマがあったのかな?
そっと飾られるその花たちが思い浮かぶ、素敵な日記ですね。
yuki_G_Kさん・お久しぶりです。
若いときから呑ん兵衛ですから、酒に纏わる話が山ほどあります。
霞草のような花だと人間臭いエピソードになりますね。
豪華な胡蝶蘭の鉢植えでは、話にはなりません。
ほろりと人間臭いことには、すぐ感じてしまうのです。
お父様のバーにも、きっとそうした話の一つや二つあったに違いありませんよ。廉
おはようございます。
いやぁ、思わずほろりとさせられる良い話ですねぇ。
>豪華な蘭の鉢植えでは話にはなりません。
renさんのお人柄がにじみ出ています。
kenpapaさん・こんにちは。
私は居酒屋Kに20年以上通った常連客でした。
女将が主催する常連客達との行事が色々あって皆、其処でも酒を楽しんでいました。
親睦会の名は女将とマスターの苗字の一文字に因んで「杉風会」(サンプウカイ)と皆で名付けていました。
花見会や温泉一泊の紅葉狩りをしたり、日帰りで江ノ島鎌倉見物をしたこともありました。
常連の個人データは女将だけが管理していましたから、お互いの職業など知らずに一緒に楽しく酒を飲みました。
亡くなった常連客の葬儀に女将と一緒に出て、初めて渾名で気安く呼んで馬鹿話しをしていた人が社会的地位の高い偉い人だったりしました。
大病院の院長や放送業界の大物などもおりましたが、私のような平凡なサラリーマンも職人も居て、それが皆一常連客として平等に楽しく呑んだり話したりしていたのです。
大勢の人の中にあって、あれほど心許せる時間と空間を私は他に知りません。
懐かしい人達です。
私の生涯に、もうそうした機会は無いでしょう。
それだけに今ではヤマレコ・サイトが大切な存在なのです。
個人的なお話ばかりで申し訳ありませんでした。
相仲 廉
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