クライミングジムなどで、必ずこういう注意書きを見かける。
「ビレイヤーは常にクライマーから目を離さないで下さい。よそ見をしたり他の方と話し込んだりするのはお止め下さい。」
人間が生きて行くためには、呼吸をしなくてはならないが、呼吸をするために話し込むのを止めたりする必要があるだろうか?
これは、基本なのだが、いわゆるマニュアル車のシフトチェンジは、呼吸をするのと同じ。ビレイもこれと同じことだと思う。
もちろん、よそ見はすべきでないが、いわゆる本チャンでは、落石があったり、スズメバチが飛んできたりとかいろいろある。
となりのお姉さんのムーブが気になったり、となりでグランドフォールなんかしてたり、たまにはそういうこともある (;・∀・) オイオイ
あと、他のパーティの動向も気になるところ。ちょっとぐらい気をそらしたぐらいでも、正しいロープワークができていれば、滑落は起こらない。
この逆を考えれば、これが正論であることは分かるだろう。クライマーに集中して、ロープワークに集中できないのは、恐ろしいことだ。
「両方に集中しろ!」そんなことはできない。人間の脳の仕組みがそうなっていないから。集中力の基本がわかっていない方のアドバイスには気をつけるべき。
こんなケースもある。たまにいるのだが、クライマーをガン見して、ロープを出さないやつ。
「落ちても大丈夫ですよ!しっかり握ってますよ!」
おい、オレ動けないんだけど。クライマーが動いたら、ロープにテンションかかるだろ!そこで、ロープ出さないでどうすんの?
クライマーの動きなんか、参考でいいんだよ。あんたが操作すんのは、ロープなの!
「見なくても分かるだろ!テンションかかってんだから!」
ロープのテンションが一定で、しっかり握ってれば、落ちないんだし。クライミングというのは、見えない場所にクライマーがいることも想定するのが、大前提である。ロープのテンションに鈍感では、ビレイヤーとして、成り立たない。
「クライマーが常に見える」という前提の施設の考え方は、「テーマパーク的考え」なので、注意が必要だと思う。
クライマーに集中するのが、どこが悪いのか、もう少し説明をする。
「コントロールできないものに集中するのは、基本的なまちがいである。」
例えば、テニスや野球で、「ボールをよく見ろ!」というアドバイスがある。確かに、それでいい結果を出している人も多いとは思うが、常に正しいとは限らない。
そもそも、「ボールを見る」と「ボールを打つ」のは、まったく違う動作であり、これを連動させる必要がある。
テニスをやっている人なら分かると思うが、ボールが来てから、どうやって打つか考える人いるよね(笑)
では、的確なアドバイスとは?それは、「ボールを打つポイントをものすごく意識する。」ことである。
はっきり言って、「ボールを打つポイント、タイミングを完璧にイメージできていれば」、ボールをまったく見る必要はないし、目をつぶっていたっていい。
まあ、それは現実的に無理だろう。ただ、「ボールを打つポイントをものすごく意識していれば」、自然とボールの弾道に意識が行く。
その時の感覚が「ボールを見る。」ということなのだ。
その逆は、つまりボールをしっかり見ていて、打つ段階になって、「さて、どうしよう。」ということだ(笑)
つまり、「ボールを見る」ことに集中していても、人によって違う結果が現れるのは、本質的でないアドバイスだからである。
「ボールを見る」よりは、「ボールを打つポイントをものすごく意識する」ことの方が本質に近い感覚だと思っている。
「ボールを見ることに集中していたから、ボールを打つ準備が遅れて、あたふたしている。」
こんなことが見抜けない指導者は、まぬけだと思う。
もちろん、実際にボールを打つ以前にフットワークとか、正確な打点をつかむのは、また、別な問題なので、それは別個に解決しておかないと正確なヒットができないのは、言うまでもない。
結局、集中するのは、ロープであり、ラケットの動作そのものであり、クライマーやボールは、参考にすぎない。集中の仕方、あるいは、動作の自動化は、工夫すべきだと思う。
「オレがそうやってきたし、みんなそうやってきたんだから、間違いない!」
こういう指導者が残念ながら、非常に多いと思う。確かに経験は大事だが、科学的トレーニングは常に勉強すべきだと思う。