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以前、知床五湖を散策したところ、色褪せ朽ちたパネルがあり、そこに「ソーセージの悲しい最後」という物語が写真付きで紹介されていました。1998年に観光客が投げ与えたソーセージの味を覚えた1頭のヒグマが、やがて人間に近づくようになり、ついには、小学校の近くで死んだ鹿の肉を食べるようになってしまい、このままではニンゲンが襲われるのは時間の問題と、ついには射殺されるという物語です。
9月1日の知床財団の調査速報第2報では、羅臼岳でヒトを襲った羆に関連して、7月29日に岩尾別地区においてヒグマに餌付けを行ったと疑われる事案が確認されたと発表がありました。岩尾別地区というのは、知床公園線沿いの辺りですかね。観光客が車でよく通る辺りです。被害者は何故、襲われたのか。トレランしていたからとか、スプレーが噴射されなかったとか。そもそも熊の密集地域で登山してるからだとか。そんな程度の理由では、しっくりこないんですよ。
▼知床財団【第2報】2025年羅臼岳登山道におけるヒグマ人身事故に関する調査速報
https://www.shiretoko.or.jp/news/8788.html
知床は世界的に見ても稀なほどにヒグマの密集生息地域。連日のように目撃があり、そこらじゅうにいます。私も知床の硫黄山に登った時には、10mくらいの距離で遭遇しました。爆音の鈴を付けていても。つまり、人間を忌避しない個体がいることは事実。人間を忌避せず、追い払っても、後をつけてくる。車道に出てきて、車に寄ってくるのは何故ですか。ニンゲンに何かを期待しての行動でしょうか。何かを学習してしまった結果ではないのですか。
春に生まれた子狐は、夏の間に狩りを覚えます。観光客から餌を貰うことだけを覚え、狩りを学ばなかった個体は、冬に観光客がいなくなると、狩りが出来ずに餓死します。観光客がヒグマに餌付けするのは、全くのゼロではないでしょう。過去には実際に起きているし。
そもそも。北海道では、ヒグマへの餌やりは条例で禁止されているし、知床では、ヒグマへのえさやり禁止キャンペーンまで行われています。これは、クマに餌付けする行為が、恒常的に行われているということの裏返しとも言えるのではないでしょうか。
▼ヒグマえさやり禁止キャンペーン
https://shiretokodata-center.env.go.jp/esakin/
かつて知床国立公園では、ヒグマを見たいがためにカメラマンや観光客が餌でヒグマをおびき寄せるという問題行為が多発しました。知床財団は、ヒグマに餌付けしてる観光客がいるという現実と、その行為がもたらす結末を大々的に発表すべきではないでしょうか。多言語で餌付け禁止の警告看板を、知床公園線沿いを中心に設置すべきではないでしょうか。知床公園線の入口にゲートを設けて、知床に入る者全てにヒグマに関するレクチャーを義務付けるべきではないでしょうか。無責任極まりないルール違反者には、厳格に厳罰を科すべきでしょう。観光客からは手荷物検査で食べ物を取り上げたっていい。想定しうる最悪の事態が起きてしまった今、知床で人の命を守るためには、そこまでやらないとならない段階まで来てしまっていると言わざるを得ません。
先の7月29日の餌付けが疑われる事案てのは、何ですか。おそらく、餌付けはこれ1回きりではないでしょう。ヒグマの映える写真てのは、その大きさが分かるように可能な限り近づいて撮った写真だと思います。知床でヒグマの映える写真や動画を撮りたいがために、知床公園道路沿いで自身は安全な車内にいながら、食べ物を車窓から投げ与えた者がいたのであれば、被害者の命を奪ったのは、一体、誰だ。人や車に近づけば、食べ物を貰えるとヒグマに教えたのは、一体、誰だ。仮に野生のヒグマに一度でも餌をあげた者がいたならば、羅臼岳で人の命が奪われたことと関係ないような顔はしないでもらいたい。直接の原因なのだから。
クマは学習能力の高い動物です。知能では、人間の2歳児くらいと同等と言われてます。クマは好き好んで人間に寄ってくることはありません。人間を忌避しない熊は、何度か人間と遭遇するうちに「人間は無害」ということを学習してしまった結果です。敢えて寄ってくる熊は「人間は食べ物をくれる」ということを学習してしまった結果です。
これまで餌付け対策は取られてきたとは思いますが、観光客などによる餌付けを撲滅できなかった「結果」が、起こるべくして起こっただけではないでしょうか。お金を使ってくれる観光客と、たいしてお金を使わない登山客。地元への経済効果と人の命を天秤にかけますか。観光客は神様ではありません。近年の富士山登山を見習って下さい。ルールを守れないなら、追い払うくらいの気概が必要ではないでしょうか。今回のことは、かつて北米の国立公園で起きた熊による人的被害が、まったく同じ状況で起きてしまったということではないのですか。
「岩尾別の母さん」なんて愛称で呼ばれている個体が、今回のヒグマと同一かどうか知りませんが、野生動物に愛称が付くほど、人間との距離が近くなっていたことが、問題の根本原因でしょう。野生動物は、愛称で呼ばれるような愛玩動物ではありません。人間との間には明確な境界線があります。自然を愛するのであれば、自然の中で生きるもの及びその生き方を敬い、境界線を人間が越えることがあってはならないのではないでしょうか。
歩いてようが走ってようが、亡くなられた被害者には、非はありません。射殺されたヒグマ3頭も、ある意味では被害者です。敢えて被害者という言葉を使います。それも人災と言い切れます。クマ対策で最も難しいのは、ニンゲン対策であるという現実を、関係各氏は改めて目の前に突きつけられたのではないでしょうか。
羅臼岳のヒグマ被害について、何か書くつもりは毛頭なかったのですが、日が経つにつれ思うところが沸々と湧き上がってきましたので書かせていただきました。何故、子熊を含めた3頭のヒグマを射殺しなければならなくなったのか! 地元のハンターであれば、原因は分かっていたはず。ライフル銃を使わざるを得なくなったハンターの心中をお察しします。そして、同じく山を愛する者として、亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り致します。