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写真2）奈良平安時代の井戸枠に転用された丸木舟（新発田市曽根遺跡）＝底部に補修のチキリ材の痕跡がある。左のチキリも曽根遺跡出土
写真3）青田遺跡出土の4種類の櫂＝場所により使い分けたらしい
新潟県埋蔵文化財センターで開催されていた丸木舟の考古学展は今日が最終日。展示を企画監修された荒川氏が縄文時代の丸木舟に関して報告した。この展示自体は主として鎌倉時代以降の中世の丸木舟が主役で縄文時代の丸木舟は展示していないがこの企画のきっかけとなったのは荒川氏も発掘を行った青田遺跡出土の丸木舟だったことと、石戸東遺跡の井戸枠転用の丸木舟からさまざまな新しい知見が得られたことから今回の企画展になったが残りのよい丸木舟部材が出たために新しい発見が多々得られたと言う。中世の丸木舟を観察することで研究テーマだった縄文時代の丸木舟のよりいっそうの理解が深まったと言う。
荒川氏は青田遺跡の発掘調査のあと県歴博に移動し研究テーマを青田遺跡出土丸木舟として全国各地の縄文時代丸木舟を訪ねて実見し集成と再検討を行った。荒川氏によればこれまで丸木舟の研究は清水潤三氏の集成などがあるが意外と少ないと言う。またこれまで縄文時代の丸木舟にばかり関心が集中しそれ以外の丸木舟に注意を払わなかったが今回の展示で中世の丸木舟を観察することで縄文時代丸木舟に関して新たな視点でも考えるきっかけとなったと言う。また今回の展示に関して最近になって各地の研究者が見に来るようになり、石船戸東など残りの良い丸木舟に関心が深まったとう。
これまでの列島出土丸木舟の最古は千葉県雷下遺跡（縄文早期・7500年前ころ）で、旧石器時代も神津島（恩馳）に渡ったと考えられるがそれより古い船は今のところ出ていない。弥生時代には大阪市久宝寺遺跡などで準構造船と考えられる舷側版、竪板、船首財などが出土、構造船に関しては滋賀県塩津港遺跡から平安時代の部材が見つかり、従来より遡ることが分かった。
新潟県内の縄文丸木舟は青田遺跡が初めてだったが、全国では99遺跡、174艘が知られ、千葉県62、埼玉29、滋賀県29、福井県11、鳥取県７など、関東、琵琶湖周辺、北陸〜山陰が多い。これまで荒川氏は全国のリストの大半を見るつもりだったが、仕事が一層多忙になり、3分の一ほどしか果たせていないという。それでも当面これ以上時間が取れそうもないので、今の段階でわかっていることをまとめるつもりで、今日の発表はその中間報告だという。
1975年に丸木舟出土品を集成した清水の分類はよく知られているが、その時の分類は横断面・木取で3分類、船の形で4分類している。その後、準構造・構造船も含めて、出口昌子氏の分類もあるが、基本的には清水市の分類を踏襲しているようだ。しかし荒川氏は各地の丸木舟を観察し、分類数を6種類に増やしている。清水志乃分類ではA）舷側上部が丸太の中心より下の浅い船（河川あるいは湖などの内水面用）C）心より上の深い船（海用の可能性）、D)舷側が心より上だが、そこを削って平にしている船と3通りに分類、荒川氏はそれに加えて、A)タイプの船の底を削って平にしてさらに浅くしている船（B)で,三方五湖周辺の鳥浜貝塚やユリ遺跡で出土したタイプ、並の静かな汽水湖で使用されたようだ。E）タイプは原則とそこの三方を削り、さらに薄く浅く作られているー千葉県八日市場市米倉遺跡と青田遺跡（新潟県胎内市）で出土、浅い水深の内水面の通行に使われたようだ。
最後に問題なのが氷見市上久津呂中屋遺跡出土の芯より上の深い船でしかも三方を削っているもの、荒川氏はこれまでこうしたタイプは鋸などの鉄器が普及する鎌倉以降で少なくとも縄文にはないと考えていたが、この氷見市の遺跡で出土した船は縄文中期後葉＝およそ4000年前？＝ということだった（＝F類）。この船は舳先の部材鹿出土していないが、舷側や底部を削った跡があり、年代測定で4000年前くらいと出ている。荒川氏はこの部材の観察から深さがあり、かつ三方をけづっていると推定、縄文丸木舟としては異例のF類としている。場所柄から海で使用したものと考えられる。鉄器のある時代と異なり、磨製石斧で削ったものと考えられ、本当にF類だとすれば、縄文時代の船大工の技術の高さに驚かされる。富山県といえば、小矢部市の桜町遺跡では縄文後期〜晩期のほぞ穴などのある精巧な木製品部材が出土しているが、氷見市の丸木舟はそれより1500年も古い。北海道で数少ない丸木舟を出土した紅葉山遺跡ではほかにも精巧な技術で製作されたスプーンや船形容器などの木製容器や鮭捕獲施設と考えられるに列の木杭の構造物などで有名だ。こうした木材は大小の磨製石斧などで加工されたもののようだ。
丸木舟本体だけでなく、櫂などの関連の道具や補修技術などに関しても今回の展示は興味深い。展示される船は古代中世のものだが、櫂に関しては縄文晩期の青田遺跡の4種類の形の違う櫂なども展示されている。様々な場所、水系の環境の違いにより櫂を使い分けていると考えられる。新潟では内陸部の潟など浅瀬の多い水場の交通があり、櫂の形態もそれと関係しているようだ。先端の尖っている櫂は浅瀬にさして船を押し出して動かすように使用したらしい。また最も縄文丸木舟が多く出土している関東地方は丸木舟の変遷・進化の過程を考えるうえでも最も進んだ地域で、この地域の丸木舟の製作技術や丸木舟の形態進化が各地に影響を与えたのではないかというのが、各地の船を実見してきた荒川氏の感想だ。丸木舟研究の今後の進展に期待したいところだ。
