北ア/穂高・横尾本谷右俣〜槍ヶ岳
- GPS
- 56:00
- 距離
- 36.0km
- 登り
- 2,101m
- 下り
- 2,097m
コースタイム
6/14(火)横尾右俣カール8:30−南岳稜線・横尾尾根出合12:00−中岳13:40−
大喰岳14:45−15:30槍ケ岳肩ノ小屋−槍ケ岳往復(山荘泊)
6/15(水)槍ケ岳肩ノ小屋6:48−槍沢ロッジ9:25−横尾10:50−13:45上高地
アクセス | |
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コース状況/ 危険箇所等 |
横尾本谷コースは一般道ではなくバリエーションルートです。 |
写真
感想
6/12夜、夜行アルプスにて新宿駅を発つ。I氏がビールを土産に見送りに来てく
れた。大学後輩の気遣いに感謝である。翌13日早朝4時過ぎに大阪から7時間かけて
来た福山と合流、松本電鉄で新島々駅に向かう。待っていたバスに乗り込み約1時間で
上高地着。天候は雨。予報では行程中はすべて雨である。パッキングの手が重くなる。
雨具を着込み雨の上高地を出発。十数名の登山者がいたが、装備から見て本格的に槍
や穂高に入るのは数名か。横尾まで平坦な歩きやすい梓川添いの道を行く。
11時頃ゆっくりと横尾着。ここから本格的な登山道だ。雲底は割と高く屏風岩の頭
まで見えている。雨も小降りになってきた。屏風を巻いて本谷橋に出る。11年前に訪
れた時から何ら変わらぬ風景に疲れよりも懐かしさが先にたつ。
涸沢へと続く正規ルートを離れ、横尾本谷のガレ場を登ると、もうここからは雪渓
だ。途中のクレパスを慎重に避けながら、細い急登の雪渓を登っていく。アイゼンとピ
ッケルの雪に食い込む音が誰もいない谷に響き、まるで我々の進入を拒むように次第に
雨脚が強くなり始めた。雲に飲み込まれた屏風の頭とほぼ同じ高さになり始めた頃、細
い雪渓からようやく広い圏谷(カール)に出る。今日の目的地まであと一踏ん張りだ。
この横尾本谷ルートは一年を通じてこの時期が一番歩きやすいかもしれない。夏はひ
どいガレ場で相当な体力を要するし、冬や春は雪崩が多発する。よって雪崩もおさま
り、なおかつ雪渓の状態を保っている6月がよいのだそうだ。勿論、地図にルートの記
載はない。
割合平坦なカールの中央部に着く。高度を見ると2,400m。疲れているが、まずこの雨
風から身を守るテントを設営しなければならない。雪上のテン張りは夏のように楽では
ない。スコップとピッケルでテントを設営する場所を掘り、平らにして雪を踏み固め
る。夕方の高所は気温が著しく低下し、おまけに風雨も強く体温が奪われていく。「早
くテントを建てなければ・・・」
ようやく設営完了。濡れた衣類を脱いでランタンとコンロで乾かす。夕食はα米とレト
ルトハンバーグ。「ささにしき」と書かれても、やはりα米はあまりいただけない。夜9
時には寝始めるが、テントをたたく雨と風に時折眼を覚ましてしまう。明日の予報も悪
い。「このまま下ってしまうのか」あきらめの溜め息が漏れる。
明け方まで風雨は強かった。外が静かになったことで逆に目が覚める。入口から頭を
出すと、頭上の南岳上空に何と青空が。「おい、西の方から晴れてきたぞ!」見る見る
うちに青い部分が天空の大半を占め、雪の照り返しが眩しくなってきた。「さあ、メシ
を食べて撤収だ!」
少々行動が遅くなったが、8時半に登攀開始。40度以上の雪壁を一歩一歩刻む。先
頭のHは同ルート3回目でトップを歩く。後続者が歩きやすいように確実にトレース
をつけてくれる。セカンドはF山。短パンの下にストッキングを履き、奇抜な服装で難
ルートを攻める。実にファッショナブルな山ノボラーだ。ラストはKAMOG。最近ちょっと
重たくなってきたので、この3日間で体を虐げようと考えている。自分で言うのも何だ
が、今年に入ってスタミナだけはついてきたようだ。
縦走路と横尾尾根が合流する手前のコル(鞍部)は近くに見えるものの、なかなか到
達できない。最後の稜線直下では雪庇がほぼ垂直の壁になっており、両手両足でやっと
乗り越えた。高度差約600mの右俣大カールに実に3時間半近く費やした。南岳北部の稜
線は風もなく穏やかである。天に我々の祈りが通じたのだ。アイゼンを外し、ようやく
一般縦走ルートを北進する。槍ケ岳までに途中、3,000m級の中岳と大喰岳を乗り越え、
午後3時半、眼前に槍ケ岳(3,180m)を望める肩ノ小屋に着いた。その途上、営巣の時
期にあたるライチョウの夫婦が目の前に姿を見せたりもした。
ザックを小屋に置いて槍の穂先へと登る。鎖やハシゴを越え、意外と早く頂上に着
く。さすがに他の山と違い、周りとの高度差があって足がすくむ。頂上からの展望は最
高だ!難所の北鎌尾根もはるか下に見えるが、夏季は足場が悪そうだ。笠ケ岳や双六、
常念、大天井に燕岳「ここにいられるだけで幸福だ・・・」素直にそう思える。
山荘の宿泊客は我々を含め5人だけ。夕食のメニューは白身フライに唐揚げのあんか
けとご飯、味噌汁。最近よく思うが、昔と比べ飯が異常に旨い。単独で74歳のおじい
さんが来ていた。話を伺うと年間100日は山に入って、もう100日はスキーをして
いてほとんど家にいないという。すごいスタミナ、そして何よりもよく喋る。自分も歳
をとったらこんな風になりたい。9時消灯。今夜はよく眠れそうだ。
6月15日、4時10分、外の白みに気づき床を出る。外へ出ると思ったより暖かい。
快晴。まさかご来光が拝めると夢にも思わなかった。Hは寝たままであったが、F山
と小屋の南部の岩場に陣を取る。その日の朝日は希に見る素晴らしさであった。6月と
いう季節は晴れれば空気が澄んでいるのである。遠く富士山、南アルプス、八ケ岳、奥
秩父、浅間、眼下には西岳山荘と東鎌尾根、その下にまだ眠っている槍沢と二ノ俣谷、
振り返れば後立山連峰と遙かに白山の勇姿が見える。紅の光が槍の斜面を染める。ヒト
は生きていると感じさせる一時のモーメント。過酷な闘いと背中合わせの山が持つ優し
さの一面を覗かせてくれる。
6時に朝食。メニューはご飯、味噌汁、卵焼きそして鰆の照焼である。6時48分山
荘を後にして槍沢の下りに入る。ハプニングはその時起きた。山荘直下の急峻な雪渓に
ラストのKAMOGは足をとられ約20m滑落。ピッケルを立てる暇もなく、前方を下ってい
たF山を蹴りとばしてしまう。F山はお尻を打ち、KAMOGは掌を傷つける。一瞬の油断が
死を招くことを改めて痛感させられた。幸い小雪渓だからよかったが、厳冬期のアイス
バーンを思うとぞっとする。下りこそ慎重に・・・だ。
槍沢の大雪渓は時間稼ぎのためシリセードで下降する。トップ堀内は安定した滑りで
他を寄せつけない。F山も最初は手こずっていたようだが、慣れてくると見事な滑りを
披露し出した。太陽の照り返しはかなりきつく肌が灼ける。ようやく雪渓を終え、快適
な槍沢ルートを下る。川の水がキラキラ光る。槍沢ロッジを過ぎ、横尾にあと50mと
迫った所で、前方を歩く堀内の足が止まった。「おいシカだ!カモシカだ!」何と行く
手を拒むように道の真ん中に大きなカモシカが立っていた。逃げずにジッとこちらを見
ている。こんなに大きなカモシカを見たのは初めてだ。カメラを構えるとシカは林中に
消えていった。
午後1時45分、快晴の中を観光客が群がる上高地に着く。その途上、我々は完全な
アルパイン・ガイドであった。「あの山は何というんですか?」「常念ってどれな
の?」・・・(まぁ仕方ないけれども)。上高地バスターミナルでシャワーを浴び、一
路松本へ向かう。大学時代から愛用している駅前の定食屋「江戸屋」で腹を満たした。
やはり穂高・槍は日本登山の代表格であろう。僕にとっては梅雨の間隙を縫った心の
洗われる久々の山行であった。(KAMOG)
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