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著者の過去の救助活動を記録した『奥多摩登山考』『金副隊長の山岳救助隊日誌』『すぐそこにある遭難事故』から現代にも通じる遭難事例を選び新編にて構成してます。骨のある良書。
以前、読みました『「おかえり」と言える、その日まで』とは毛色が異なります。おかえりは、民間捜索機関の代表が著者。侮るなの著者は、元山岳救助隊員。つまり、警察官。見つかるまで探してくれる民間捜索は、それはそれでよいかと思いますけども、無償ではないわけで。読後になにか釈然としないものがありまして、ガチガチの山岳救助隊員が書いたこちらを読んでみたわけです。
一言。凄い。最初の事例では、午後8時40分に遭難の一報を受けて、その30分後には、近場に住んでいる5名の隊員と共に、ヘッドランプの灯りだけを頼りに暗闇の山に登っていき、午前零時を回って、一旦、捜索打ち切り。翌朝の午前6時から、人数を増やして捜索開始。連日、歩き回って捜索し、1日に2度3度と同じ山に登頂し、藪を歩いて、沢を遡行し、見つかるまで探す。いつ寝てるのか。頭が下がります。
民間が、この対応をしてくれるとは思えない。それが仕事だから当然か。どうしても発見できず、生存が期待できない一定期間が経過すると、公的な捜索は打ち切られる。打ち切り後に、せめて遺品だけでも家族の元にと、自身が休みの日に山に入る隊員もいる。彼らの行動は単に給料のためだけとは思えない。生きて必ず見つけ出す。執念にも似た信念とも思える。
この結果が、統計上の行方不明者数を遭難者全体の1%未満に抑えている結果なのだとよく分かりました。
▼警察庁による令和3年度の山岳遭難件数統計
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/chiiki/r03sangakusounan_gaikyou.pdf
全遭難者 3075人
うち 死者 255人
行方不明者 28人 ←見つからなかった人は、28人
負傷者 1157人
無事救助 1635人
無事に救助された人もいれば、そうでなかった人も。種々様々な事例から、著者なりの何故そうなったかの推測と本来取るべき措置。対処法。登山靴の選び方が書いてある入門書を読むより、価値があると思います。
20年間、山岳救助の第一線で活躍された著者の印象的な言葉が随所に出てきます。
『自然を甘く見る人間は、何年登山をやっていてもベテランとは呼べない』
『登山が、他のスポーツと決定的に違うのは、負けは死を意味する』
同感です。東京都の最高峰である雲取山は標高2017mで、都道府県別最高峰の順位では、全国15位。谷は深く尾根は急峻。奥多摩でも転落、滑落する危険性のある個所はいくらでもある。東京の山にスニーカーやジーパンで登る人はいても、穂高にスニーカーで登る人はいない。100mも転落すれば、結果は同じなのに。著者の言わんとしている主眼はここですね。
その際、行きそびれていた日原森林館で職員の方が金さんから聞いた話しをしてくれました
本にも載っていましたが、天祖山の尾根道はダブルストックで歩くもんじゃないと話されていたそうです
私は天祖山ではなくタワ尾根しか(しかも少しだけ)歩いた事がありませんが、ダブルストックどころか手をついてへっぴり腰で下りました
あそこを駆け抜ける山岳救助隊の方を心底凄いと思いました
著者自身も登りではストックを使うこともあるとのことで、ストックの使用を否定していませんけども、下山時の使用は否定してますね。尾根道でも場所によっては、ストックをしまったほうが安全な場合もあります。杖は、登山に必須のモノではないし、場合によっては邪魔になりなすから、その都度、使用の的確な判断ができるようになりたいものです。
99%以上の遭難者が、山岳救助隊によって早期発見されてますけども、簡単に見つかるのではなくて、発見に至るまで並々ならぬ労苦があるのだと、本書を通じて知ることができました。ほんと、頭が下がります。
すぐそこにある遭難事故は読みました。羽根田さんのレポートとはタイプが違う。
こちらの本も読んでみたいと思います。
想像力が貧弱なので、このような本で想定すべきリスク、そして小さなことでもリスク回避のヒントを得たい。
「すぐそこにある遭難事故」で、崖から落ちた人の、その滑落ルートを辿り、この木にチェストベルトが引っかかった、など検証していたと思います。チェストベルトはやはりキチンと留めないと、と思いました。
こちらは、ガチの山岳救助隊員による書となりますので、毛色は違うと思います。羽根田さんの本は、以前、読んだことがあります。
身が引き締まります。こんなにも真摯に救助活動に専念されているとは。単に仕事だから、生活のためだからということだけでは、ないのだと思います。必ず生きて見つけ出すという使命感みたいなものが、ひしひしと伝わってきます。彼らに迷惑をかけないようにするには、どうしたらいいかを、常々考えて行動したいと思いました。この気持ちを持てただけでも、十分に読む価値のある良書と思います。
本書は、過去に出版された3冊からの抜粋なのですけども、全て読んでみたくなりました。
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