「化学分析で読み取る縄文時代の食生活」

2015年04月25日 18:49講演会・研究会全体に公開

新宿歴博の「縄文人現る」展にちなむ三回シリーズの講演会、前回は早大講師の樋泉氏の動物考古学、今回は人骨などの化学分析から見た縄文人の食生態人類学だ。前回は縄文遺跡、貝塚などから出る動物や魚介類の骨などから縄文人の生活を考えたが、今回はさらにハイテクを駆使して人骨のコラーゲンの化学分析から、食生活の歴史を解明する新しい科学の話しだ。わずかな人骨から死亡10年前までの食生活の歴史がわかるというスゴ技だ。講師の米田先生は東京大学総合博物館の放射性炭素年代測定室の教授だが、専門は放射性炭素測定よりも炭素１３などの放射性でない炭素や窒素の同位体の分析による食生態学的分析だ。これは最先端人類学、考古学の分野に属し、中々貴重で興味深い内容だったが、何せ短い時間の中で多くの情報を提供しようということで、早口でスライドを次々に紹介したので、一つ一つを咀嚼する暇がなく、終了。まあ、時間があってもそう簡単に理解できる領域ではないかもしれないーーただ、こうした研究手法は今後ますます重要性を増すことは確実で、良い勉強になったということにしておこう。
　縄文貝塚などに残された遺物だけから縄文人たちの生活を十分描くことは難しい。貝殻やいくつかの動物や魚の骨が出土したとして、それは全体の本の一部でしかない。とけて失われてしまった骨、また跡が残らない植物など、わかっていないことの方が多い。残された遺物だけの情報では十分でないのだ。しかし骨の化学分析からは、その人の死から10年ほど前までの食生活の情報をかなりの精度で復元することが可能なのだ。面白いのは、これまで出た縄文人骨から、北海道。琉球、本土ｄ、明確な食生活の違いが出ていることだ。北海道では、魚介類の消費が他地域に比べて比率が高く、また海獣の良く食べられていた。本土では植物食の比率が相対的に高いこと、朝鮮半島から水稲耕作が伝わる以前から、本土では植物食が普及し、縄文の植物食がコメに入れ替わっていったこと、北海道では続縄文文化（魚介類、海獣を含む狩猟採集文化の継続）、琉球では縄文の後は貝塚文化が継続したという。骨の分析からは、そうした文化の違いが裏打ちされるようだ。さらに、東京湾沿岸の下総、上総、さらに今回の新宿区市ヶ谷加賀町遺跡出土の人骨などを比較すると、同じ地域内でも、海岸付近と内陸、または家族、個人単位でも食生活の違いがあるという。魚介類、植物、動物などの食生活上の比率が異なる場合が少なくないというのだ。毎日、浜や海に出かけて海産物を取得できる海岸付近の地域と内陸とで食生活が異なるのは理解できるが、家族や個人単位で異なるというのはどういうことか？階層性があるのかーーあるいは、女性の場合だと、内陸の集落から海辺の集落に嫁入りして10年以内に亡くなり、かつての内陸の食習慣の痕跡が骨に残ったものか？ーー骨の化学分析、恐るべしーーそういえば、以前、群馬の金井東裏遺跡で出た「鎧を着た古墳人」の遺跡から出た人骨の化学分析で、女性人骨では白亜紀の地層のある場所が出身地であることーーおそらく飯田市周辺の古代の牧を管理した一族関係者ーーということがわかったのだ。その夫の人骨は朝鮮半島出身者かその子孫ということだった。

　また帰宅後見たNHKの大英博物館のドキュメンタリーでは、大英博物館の科学者が、エジプトの庶民の人骨から、その食生活を分析、羊などの肉とパンなどの穀物を食べ、出土したワイン壺などから、かなり贅沢な食生活を謳歌していたことがわかり、これまでのファラオ以外は奴隷的な生活を強いられていたというようなエジプト社会観がくつがえされた。こうして、骨の化学分析は多くの古代社会観の書き換えを迫っているということだ。

　NHKの大英博物館の番組は大変面白く、東京美術館で始まった「大英博物館」展も見なければと思いました。

また今日は東北地方の縄文遺跡を調べるのに、新宿歴史博物館の図書館も利用してみた。

2015-04-13 インドの仏ー東博の特別展と講演

2015-05-03 NHK「知られざる大英博物館ー

お気に入りした人

人

拍手で応援

拍手した人

拍手

訪問者数：559人