晩秋の穂高連峰縦走


- GPS
- 56:00
- 距離
- 28.5km
- 登り
- 2,055m
- 下り
- 2,059m
コースタイム
上高地BT8:30⇒明神9:20⇒10:05徳澤園10:45⇒11:30横尾11:45⇒14:40涸沢小屋(泊)
10月29日(土)
涸沢小屋07:15⇒09:55北穂高岳10:40⇒13:20涸沢岳13:45⇒14:00穂高岳山荘(泊)
10月30(日)
穂高岳山荘7:20⇒8:00奥穂高岳8:10⇒9:30紀美子平9:40⇒11:00岳沢小屋11:15⇒13:00上高地
天候 | 10月28日(金)晴れ 10月29日(土)晴れ 10月30日(日)小雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2011年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
予約できる山小屋 |
横尾山荘
|
写真
感想
北アルプスの短い秋が終わるころ
あの夏の賑わいが夢のようである
そんな季節に行くのも良いものだ
10月28日(金) 天候晴れ
8:30、上高地を行く
霜で固くなった落ち葉を踏めば乾いた音がする
見れば青空より大きい穂高岳
雪は無く緑も無い岩色の山塊
素肌を出した穂高はとても淋しそうだ
徳澤園で早めの昼食をし横尾で休憩する
天候は快晴で昼寝日和である
”今日はのんびり行こう”
つり橋を渡り沢の音を耳に森林を行く
葉が落ちた木々は陽光を遮ることはない
”とても暖かいな”
屏風岩を眺め、沢を渡る
日陰に入ればとても涼しい
”やっぱり秋だ”
ナナカマドの赤い実が青空と重なる
穂高の峰々が姿を現わせば涸沢は近い
上空をヘリが何度も往復している
冬に備え小屋は忙しい
14:50、涸沢小屋に入る
テラスでビールを飲みながらヘリの飛行を楽しむ
北穂から入れば旋回し涸沢小屋へ
前穂から入れば涸沢ヒュッテとコースが決まっている
離陸後は涸沢岳方向へ飛び旋回し上高地へ消えていく
素泊まりのKさんと会話する
今日は雪渓を登り前穂北尾根の3峰のコルで昼寝をし戻ったという
御本人曰く74才だそうだ
”この人、すごいな”
同じルートを登ってきたOさんと話がはずむ
涸沢のことを色々教えてもらった
夕食は4名のみ
無口なYさん、明日は大キレット行くSさん、仲間同然のOさん、自分
明日も天気が良いとの事で話がはずむ
食後にテラスで一服する
峰々に囲まれた涸沢は母親の胎内に居るかのようで温かい
無口なYさんが口を開いた
「涸沢にくるのは40数年ぶりで凄く懐かしいです。
若い頃、冬の前穂山頂にテントをはり北尾根を降りました。
1人づつ降りるで全員が終えるには1つの峰を1日かかったものです。
当時はナイロン製のザイルではなく、麻でしたから濡れてはよく凍ったものですよ(笑)」
私は言葉を失った
「凄いですね」としか返せない
穂高を登り続ける大先輩の多くは熟練者が実に多い
”穂高って凄いな”
Yさんは滝谷を降りるためザイルを持参していた
小屋の御主人から壁は凍っているとの情報で諦めたという
明日は白出沢へ降りるとのこと
今まで自分は何を登ってきたのか疑問に思った
”この山で何かを得たい”
そう感じずにはいられなかった
10月29日(金) 天候晴れ
7:15、独り北穂を目指す
無風快晴で気分上々である
重い三脚を担いだ先輩達とすれ違う
返り見すれば絶景が広がる
”素晴らしい眺めだ。富士山が見える”
究極の雨男に富士が姿を現した
9:57、北穂高岳山頂に立つ
まるで北アルプスの王様であるかのように槍ヶ岳がある
”鉾先がほこらしいね”
目線は大好きな黒部五郎に向ける
黒岳いわく水晶は本当に黒い
手前の白い鷲羽とは対照的だ
薬師は本当に幅広で大きい
左を見れば笠ヶ岳
かつて登頂した山々に挨拶する
常念山脈、後立山連峰も確認できる
”白馬、待ってろよ。いつか登頂するからな”
しかし王様のせいで立山と剱が見えない
見下ろせば大キレット
早朝に出発したSさんの白いヘルメットが見えた
”無事に飛騨泣きを降下したようだ”
ハイな気分になっていた私は「ガンバレー!」と叫ぶ
しかしこの時、本当に頑張らなければならないのは自分であることをまだ自覚していない
北穂高岳山荘にて横尾で出会った青年と会話する
山荘に知り合いがおり昨日中に登頂したとのこと
素晴らしい眺めの北穂を後にする
北穂南峰を過ぎると様相は一変する
迫力ある滝谷を横目にルートを慎重に行く
事前に本やネットで情報は仕入れていたが
ここまで危険な場所とは思わなかった
切り立った絶壁に足を確保する
錆びたクサリは目印程度にしかならない
誤って滑ったら200mは落ちる
簡単に死ねる場所を行っている
滝谷ドームを巻く
奥壁バンドの長いクサリ場を下る
最低のコルは、狭く本当に最低である
涸沢槍付近が核心部で本当に怖い
活躍の場の無いアイゼンとピッケルを背負った重い荷が自分を苦しめる
”穂高をあまく見ていた”
D沢のコルで一服し疲れをとった
登山歴6年目の私は日本のアルピニズムの聖地を生身で感じた
恐怖というよりも難所をクリアする度に安堵感と自信を得る
”これは麻薬だ”
厳しさと優しさと美しさを持つ穂高は、正にアルピニストを産み育てる日本アルプスの母である
2時間半の格闘後、涸沢岳の稜線に出た
無風かつ快晴ゆえ登れたと言える
達成感と素晴らしい眺めに喜びは満ちた
奥穂側のなだらかな道を降りて穂高岳山荘に到着する
消灯時間まで同じルートを来た3人組と話が盛り上がった
10月29日(金) 天候小雨
8:00、奥穂高岳に登頂
独り淋しい山頂にて自分で自分を写す
小雨がみぞれに変わった
しかしこんな天気でも富士が見える
”幸せ者だ”
吊尾根に滝雲が流れていく
風が増し冷えるため下山する
しばらく行くと人が立っていた
山荘で会話した山ガールである
「前方が真っ白になり怖かったので戻ってきました」
既にガスは消え見晴らしは良好に転じていた
彼女と一緒に降ることとになった
いつも単独行ゆえ会話をしながら山を行くのは久しぶりだ
彼女は横浜から来て明神館で働いているという
初めは流行りの山ガールだと思っていたが違った
Kさんのルートファイティングは実に上手く軽快に行く
”自分よりベテランだな”
紀美子平に着くと明神岳で一夜を過ごした人が降りてきた
大きく重いザックを背負う初老の彼は笑顔に満ちていた
”穂高に決まった登山道など無いんだ”
私は地図上の登山道を行くが自分の穂高を持つ者はどこへでも登るのである
みぞれは本格的な雪に変わった
下ろしたザックは数秒で白くなる
”この天候のなか往復50分で戻れるのだろうか”
前穂が見えなくなった
眺めの利かない頂に許せない自分がいた
”前穂は諦めよう。次回の楽しみにとっておこう”
再びKさんと供に下山する
遥か下に小さく見えた岳沢小屋が大きくなってきた
返り見すれば2時間前に居た山頂部は真っ白である
”穂高にながい冬がやってきたか”
上高地でKさんと握手し別れる
「ヤマレコで会いましょう!」
彼女のおかげで楽しい思い出が一つ増えた
冷え切った身体を温泉で温めれば筋肉痛となる
”こんなの久しぶりだ。穂高って凄いな。”
乗車したバスが釜トンネルに入った
見えないはずの峰々が鮮明に蘇る
”ああ穂高よ、穂高よ、穂高よさらば”
完
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「穂高よさらば」
作曲者 古関 裕而 作詞者 田村 扇吉 歌 芹 洋子
http://www.youtube.com/watch?v=sXICMcJorWE
1、穂高よさらば 又来る日まで
奥穂に映ゆる あかね雲
返り見すれば 遠ざかる
まぶたに残る ジャンダルム
2、滝谷さらば 又来る日まで
北穂へ続く 雪の道
返り見すれば 遠ざかる
まぶたに残る 槍ヶ岳
3、涸沢さらば 又来る日まで
横尾へ続く 雪の道
返り見すれば 遠ざかる
まぶたに残る 屏風岩
4、岳沢さらば 又来る日まで
前穂を後に 河童橋
返り見すれば 遠ざかる
まぶたに残る 畳岩
どもども。
いやー相変わらずの旅情型山行記録。堪能させていただきました。写真が今回は少なめですが、臨場感あふれる日記、堪能です。季節は冬に変わりつつあるんですね。
麻薬。そうです、山はそうなのです。
makさん
堪能していただき有り難うございます。
写真増やしました
穂高の地形は複雑で何度見ても飽きないですね。
混雑時を避けてまた行きたいと思います。
御一緒に大キレット踏破しましょう!
sada
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