著者のふるさと徳山村がダム湖に沈む話が再燃してから、当時61歳だった増山たづ子さんは、ピッカリコニカを手に猛然と消えゆく故郷の写真を撮り始め、その枚数たるや7万枚あまり。その中から、選び抜かれた徳山村の写真が本書にはわんさか載ってます。
写真は徳山村の何気ない日常生活そのものを写しています。畑仕事やら、中学校の卒業式、運動会から葬式まで。畑仕事が多いですけど、野良仕事の合間にカメラを向けられた農夫が、手を休めてレンズに向かってニッコリ。その顔が、どれも素晴らしい。著者が同郷に住む近所の人だからこそ、この表情が自然と出るのでしょう。単に美しい自然を撮りに来た、普段は都会に住んでる写真屋さんには、この表情は撮れないでしょうね。
能郷白山に登った時に、前山からは徳山ダムがよく見えていました。逆もまた然りなんでしょう。写真に写られている方々は、著者も含めて既に会うことはできず、写真に写っている風景を見に行くことも永遠に不可能ですけど、徳山ダムの岸辺に立ってみたいと、この写真集を見返して思いました。次は、冠山に登った際に、徳山ダムを訪れてみようかと考えています。何するわけでもないですけど。