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驚くほどの軽装で積雪期の山にも入るし、足元は長靴とか地下足袋だったり。獲物を求めて1日に数十キロも藪山の中を歩き回るためには、どんな装備でどんな歩き方をすればよいのかとか。マタギの七つ道具の紹介では、夏山ではこれだけの携行品だけで、獲物を求めて山の中で何日も過ごすとか。
山の中で長大な距離を歩き回るには、服装や携行品を必要最小限度にする必要がある。必要最小限度の携行品とは何か。それがマタギ七つ道具。現地で調達できるモノは現地で調達するという発想。そうすることで、荷物を減らす。歩き方に気を遣えば無駄な体力消耗を抑えられ、食料の消費も抑えられる。では効率的な歩き方とは。飲める水と飲めない水の見分け方。知識として知っていればできる荷物の軽量化の知恵。
マタギは雪山にテントもシュラフもストーブも持って行かない。いくら薄着が軽快に動けるとはいえ、常人が彼らと同じスタイルで雪山に登れば、たちまち不幸な結果になると思います。しかし、マタギはそうならない。何故か。それが、マタギの知恵なんです。限られた道具だけで魚を獲って焼いて食べ、必要最小限度の寝床を造って雨露をしのぐ。それがあれば、そりゃあ、便利で快適だろうけど、持ち歩くには重いよねっていう道具が溢れ返っている昨今、「ない」からスタートしているマタギの知恵には目から鱗です。ウルトラ・ライトを突き詰めるということは、必要な道具だけを持ち、必要なモノは必要なだけ現地で調達するということなのかもしれない。
さらに。緊急時の対処法として大いに役立つ知識が詰め込まれています。山の中で日が暮れた、ヘッドランプの電池が切れた壊れた、道に迷った、食べるものが無くなった、熊に出会った、蜂に襲われた、蛇に咬まれた、出血した、骨折した、寒くてどうしようもない…マタギたちが実践しているその対処法が載ってます。発想の根底にあるのは、山にあるもので対処するということ。現代では困っても携帯電話で一発のポンよといったところで、電波の通じないトコロでは? 岩にぶっつけて壊したら? バッテリーが切れたら? 水没させたら? 失くしたら? そもそも持ってくるのを忘れたら? ってトコだと思います。道具は持ち忘れることがあっても、知識は忘れない限り常に持ち歩けます。結局ところ、本当に困った時に頼れるのは自分だけ。本書はその知恵の塊。非常時の対処法は登山技術そのものと思います。
電波が届かないなら、尾根まで出れば電波が届くかも? そこまで歩ければいいですなあ。そもそも尾根まで歩ける体力があるなら、どこかに連絡する必要はないですね。救助要請をしたところで、日没後の救助活動はありえません。翌日に太陽が出てからになります。電話をすれば3分後に救助隊が到着するんじゃないんです。歩いてきますから。だいたい何かある時は悪天候なんですが。悪天候ではヘリも飛びません。夜の山の中は想像以上に冷えますでー。まして骨折でもしていようものなら、何時間も痛いのを我慢することになります。もしもの時に生きて山を下りられるかどうかの差は紙一重と言われています。そんな時に、マタギの暖の取り方、ビバークの仕方を知っているか否かは、紙一重の差となりうると私は思います。
困った時のために、あれもこれもと山に持ち込めば、そりゃあ、安心でしょうけど、軽快に歩くこととは矛盾します。重量が増せばバランスを崩しやすくなって、逆に危ないシーンもあったりします。いかに万全の準備をしたつもりでも、想像もつかないことが起こりうるのが山。起こりうる事態を想定してリスクを減らしてみたところで、ニンゲンである以上、どこかに落とし穴があるやもしれません。まずは不幸な事態に陥らない方法を身に着けることも大事ですが、そのくらいのことは、特段、マニュアル本を読まずとも、山に登っていれば次第に身についてくること。本当に重要なことは、命の危険が差し迫った事態に直面した時、他人の力を借りずに対処できるかどうか。山とはそうなりうる場所。困ったとしても誰かが近くにいるなら、そこまで深刻な事態ではないでしょう。そこらの里山だって、不幸な事故が起きているのが現状。山は街の中にある管理の目が行き届いたレジャー施設ではないのです。文句を言ったところで、聞いてくれるヒトはいません。
食料の確保の仕方を一つだけ紹介すれば、マタギは山で魚を釣って食べます。しかし、持って行くのは釣り針と糸だけ。釣り竿は木の枝を使い、エサは朽ちた倒木をほじればミミズが出てくる…って具合。釣り針と糸だけなら、常に携行しても苦にならないので、もしもの時のために救急用品と一緒に入れておいても損はないかと思います。
他、熊についてのこと。熊を狩猟の対象として追い求めてきた彼らだからこそ、熊の習性について熟知しているわけで、いちいちその言葉には説得力があります。興味深いのはマタギだって熊に襲われるって話。熊はチシマザサの中を音も立てずに移動する話。三大危険熊とか。熊に出会った時、襲われた時の対処法。そもそも出会わない方法とか。
少し前の本になりますけども、別に古めかしさは感じません。元々、紹介しているのは古来からの英知ですし。むしろ新鮮味すら感じます。この日記を書くにあたって読み返してみると、本書は自分の登山スタイルに色濃く影響を与えていたんだなと思います。山専用品以外の物品を執拗に山に持ち込んでは、自分に合った道具を模索するスタイルは、本書が原点のような気がします。マタギを知る資料としても価値ある一冊ですし、知恵の紹介とともに普段垣間見ることのできないマタギの世界の話も出てくるので読み物としても面白いです。実用性一点張りの本書は、つまるところ、登山靴の選び方とかが書いてあるマニュアル本より、はるかに役立ちます。本来、職業である彼らの技術、その全てを取り入れることはできなくても、読み終えた頃には何かしら得るモノがある良書です。
写真・左 表紙
中 阿仁マタギの戦前頃までの狩猟スタイル(かっこいい)
右 マタギ七つ道具
興味深い本の紹介をありがとうございます。
arukuecotourさん、コメントありがとうございます。
面白い切り口の本だと思います。登山において当たり前と思っていることを、別の角度から見ることによって、自分の登山スタイルや山道具に対する意識を再構築するのに大変、役立っています。
私が持っている本は、1991年の第1版なので表紙が違いますが、著者や写真が同じですので内容は変わっていないと思います。
最新の装備が無くても、山で凌ぐ事の出来るマタギの知恵は本当に参考になりますね。
今風のカッコよさやスマートさはないけど、こうした知識や自術は、何時の時代になっても役に立ちますよね。
ただ、マタギの技術を実践するには、それなりの体力と精神力が必要ですね。
その辺りに不安のある私は、最近の装備も加えています。
guchi999さん、コメントありがとうございます。
古い表紙のもありますね。新しいのは改訂版かと思いましたけども、内容的にも同じですか。年数は経過しても、古さは感じないですね。元々古い知識ですから。まさに温故知新を地でいっているような内容です。
マタギはウルトラライトを志向してますけども、その考え方が元から違うというのが面白いところだと思います。実際に技術が使えるかどうかは別として、知っていて損はないでしょうし、むしろ、逆にスマートだったりするかもしれません。
そのまま取り入れられるものは取り入れて、そのままでは実践困難なことは、自分なりにアレンジして取り入れる。アレとコレを付け足して、自分独自のスタイルを構築する。本書は、そのヒントの宝庫と思います。
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