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見た瞬間に白目をむいて後頭部から無防備に倒れてしまいそうになるチャッチー・アイテムがページをめくるごとに所狭しと並べ立てられている。しかも、巻末の関係者インタビューを除いては全てがフルカラーで哀しいまでに当時の原色のまま。それらは、どこかしら見たことがあるような、ないような。確実に忘却の彼方へと消し去ってしまっても悔いは全く無いほどの、いたいけな幼少期の負の記憶。
それは確かに存在し、成長する過程でいつしか忘れ去られ社会そのものからも消えていったガチャガチャメーカーコスモス。まさかの埼玉県の会社だったんですね。知らなかったなあ。最盛期には全国にフランチャイズ展開していたからご存じの方も多いはず。まあ、幼少期にコスモスがどこの会社だろうと気にはしませんでしたけど、まさに私は御膝元だったんですね。言うなれば、コスモス直轄の天領で育ったというわけです。その密度の濃すぎるくらいのコスモス文化に欺罔され続けて育った私は、何事につけても疑り深く慎重に慎重を重ねる大人へと成長することができました。登山においても、少しでも危険を感じたら引き返すということの原点は、まさにコスモスのおかげだったのかもしれません。
ヒトは簡単に信用するな。甘い話には必ず裏があるぞ。純真無垢だった子供たちは、コスモスの毒牙にかけられることによって、社会の理ともいうべき人生哲学を自然と学びとっていたのでしょう。何が出てくるか分からないガチャガチャは、ある種の賭博ともいうべきもの。今現在、私が一切のギャンブルをやらないのは、おそらくはガチャガチャで幾度となく苦渋を味わってきたことが根深く影響していると言えます。
ハッキリ言って、万人受けする本ではないと思います。ツボにハマった人だけが楽しめる本というか写真集というか。黄金の武具だって? こんなのあったなあ。いや、持っていたぞ。このバトルアックスみたいなの。どこやったかな。いつの間にか捨てられたのかな。ひょっとしたら押入れの奥に眠っているかもしれないな。80年代最大のカルチャー・ショックを時空を超えて再び体現したい方にのみオススメです。
僕が欲しかったのは、こんなのじゃなかった!!
ガチャガチャ。正確な名称は知らないが、皆こう呼んでいた。
なにやら楽しげな絵柄のついたボックスの中には、少年たちの心躍らす”オモチャらしきモノ”が不思議な丸いプラスチック・カプセルに入れられて販売されていた。たいがい値段は100円だったような気がする。当時の少年たちにとって、100円は大金であったが奇妙なオモチャたちが放つ誘惑には勝てずに、大枚は現金投入口へと滑り込んでいく。期待と不安をない交ぜにした酸味の効いた願望を指先に込めて力強くレバーをガチャリと回す。ゴロリと出てきた丸いカプセル。はて!? 半分は透明のプラスチックケースなために、蓋を開ける前からなんとなく見えている中身に不信を抱き、動悸と焦燥感を懸命に抑えながら、ケースを開く。
な、なんじゃあ、こりゃあ!!
ケースから出てきた説明不可能な物体エックスに、誰しもが閉口し絶望した。説明書きみたいな紙片が入っているぞ。え、なに? おとしまえチョコ? えーショック死注意だって!? こんなプラスチック製の指先だけがチョコレートの包み紙を開いた中から出てきたからといって、ショック死する人がいるのか! 物体エックスを手に帰宅し、朝まで枕を濡らした少年たちの落胆と慙愧の念は計り知れない。そんな物体エックスの製造元である株式会社コスモス。あえて語られる必要はないであろう、多くの人にとってどうでもいいコスモスという会社のことがヌケヌケと語られています。
「ロッチ事件」 昭和少年史上、最大の闇に迫る
へ、へ、ヘラクライスト?
どこかで聞いてことあるなあ。腰が抜けてどこかに転がっていってしまいそうなネーミング・センス。我々の世代にとって、現在の妖怪ウォッチともいうべき幼少期の思い出は、まさにビックリマンシールでありました。かつて私の友人が見たこともないビックリマンシールを自慢げに見せびらかしていたことがある。確かに誰も見たことがない。こんなシールをどこで手に入れたのか、皆が不思議がっていたが、裏面を見てみるとメーカー名である本来「ロッテ」と印字されている箇所が「ロッチ」となっていた。皆は口々に言う、それはニセモノではないかと。後日。その友人は、再び話題騒然のロッチ事件の渦中にあった同じシールを持ち出し、本物だと言い張る。なにをと皆はまた裏面を見る。
ああっ!
「ロッチ」となっていたところが「ロッテ」になっているではないか。
しかし!?
よく見てみれば「テ」の字の一部分を削って加工してあるではないか。元は「チ」の字そのものだったわけだ。友人Kは、やっぱりニセモノじゃないかと非難を浴びたのだった。ビックリマンシールの偽物とはいえ、ビックリシール(ビックリマンではない)はある意味ではコスモスのオリジナルであり、当時の子供たちのコミュニケーションを円滑にし、30年以上を経過した今日でも、私には友人Kのロッチ・エピソードとして、切り取って捨てても損はない幼少期の思い出の一部となって脳幹に突き刺さっていることもまた事実である。
懐かしい思い出とともに蘇る、誰しもが知らなくても差し支えの無いどうでもいいロッチ事件の真相が当時のコスモス営業マンから赤裸々に語られて明るみに出ています。巻末にインタビューを収録して、その真相に迫っているというより、元社員にコスモスの話をきいたら勝手にしゃべりだしたみたいな感じですが、あえて知らなくてもよかったことには違いありません。「当時のコスモス工場に精巧なビックリマンシールの模造品を造る技術なんてなかったんだよ」という元社員の言葉は印象的だったなあ。
実はこの本、コスモス本の第二段なんです。第一段のコスモス大全を買ったつもりが、間違って先に第二段を買ってしまいました。元々第二段も買うつもりだったからよいのですけど、第一段のコスモス大全から楽しみたかったです。第一段と勘違いして、第二段を買ってしまったというのは、ある意味コスモス的ではありますけど。で。第一弾との違いは、第二段のほうが掲載されている著者であるワッキー貝山氏のコレクション写真が膨大な点ということです。ま、パラパラとめくっているだけでも楽しめる本ではあります。ドラえもん風、ガンダム風、なめ猫風、ウルトラマン風、ファミコン風…ほぼ全てがニセモノかコピー商品とはいえ、見事なまでに当時の世相を如実に反映していると思います。こんな芸人いたなあ、あんなギャグが流行ってたなあ。それらは一体なにが面白かったんだろ? とか。私と同世代の人であれば、見たことのあるアイテムが必ず見つかるはず。私には、はやうちトレーニングマシンなんてツボでしたね。スプリング入りのファミコン風A・Bボタンだけの逸品にそういう名称があったのかと。写真を見た瞬間に吹き出しましたよ。高橋名人よろしく16連射の練習用ですってさ。いくらソレで練習しても16連射はできるようにはならなかったな。いや、16連射は神技だから容易には習得できないのでしょう。よく見ると「見本以外の商品が出る場合もあります。」なんて書いてあったり。いちいち面白すぎるフレーズ。見本以外の商品というのは、つまりハズレということかな。ということは。出てくるのは、ほとんどハズレじゃあないか。そもそも見本もハズレと大差がないし。これって、この会社が造ってたんだみたいな、あらためて気づく必要のなかった発見の数々にヒトシキリ閉口しました。
当初、本書で罪深きコスモスの罪過を数え上げてやろうかと鼻息を荒げていたところが、読み進めていくうちに、こみあげてくるだろうと予想されていた幼少期における「怒り」や「哀しみ」といった感情が全くなく、むしろインチキ商品へのくすんだ郷愁とドス黒く澱んだ愛がドロッと溢れ出てきてしまったよ。よくぞ、これだけのインチキ商品を保管、コレクションしていたワッキー貝山氏には、はずれた顎が元に戻らなくて困るばかり。そして、何より。調べてみれば。コスモスは倒産すれども、姿を変え社名を変えて今でもコスモス魂は存続しているということ。つまり、購入可能なコスモス自販機が栃木県と群馬県東部に残っているらしいです。次回の山行のおりにでも、立ち寄ってみるかな。久しぶりに、あのカプセルが出てくる前の甘酸っぱい高揚感と出てきた後の苦み走った絶望感を味わってみたくなってきたことだし。
最後にあえて言おう。僕が欲しかったのは、こんな本だ!!
こんにちは、moglessさん(^^)v
コスモス、というか今回の日記に登場したワード概ねとても懐かしいです。
ワタシも生まれも育ちもコスモス直下でしたから、よくあのデカイ自販機みたいなガチャガチャは街角で見掛けておりました。
が、たぶん回したのは1・2回くらいしか記憶がありません。
自販機の上部?に一部の商品の写真が貼ってあったように記憶しておりますが、その商品のラインナップに幼少期ながら何か得たいの知れない怖さを感じておりました(^-^;
100円は幼少期のワタシには高価でしたから、ギャンブル性が強すぎたせいもありますが…
ああ!ロッチってコスモスと関係していたのですねぇ(゜ロ゜)
そのニセシールの存在を知らなかった頃、友達とのシール交換後、裏面を確認して「テ」が繋がったシールだと知り、泣きが入った思い出があります。
ビックリマン関係のせいで、ワタシの回りから仲の良かった友達が二人くらいいなくなったような(^-^;
そう言えば昔「ダンガム」なんていうパクり商品もありましたけど、あれもコスモスの仕業なんですかねぇ。。
笑いの真髄はやはり郷愁ですね、moglessさんの日記で過去の思い出が甦りましたが、大爆笑でした。
kamasenninさん、コメントありがとうございました。
私は埼玉の野田舎に住んでいたわけなので、いわゆる駄菓子屋らしき地域密着型の商店がありまして、その商店の裏庭みたいなところに、ガチャガチャが並んでいました。まー具体的に何回くらいレバーを回したのか記憶にありませんが、確実に回していた幼少期でした。なにしろ、この本に載っている商品をいくつも持っていたのだから。
しかし、コスモスのガチャガチャは、つっこみどころしかないような商品ばかりですね。ある意味、指摘されるためだけに存在しているともいえなくもないです。
ニセシールをめぐっては、少なからず思い出がありますねというか、それはトラウマですか?
この本によりますと、当時のビックリマンブームにのっかって、ニセシールを造っていたのは、コスモスだけでなく複数社あるらしいです。「ロッチ」は確かにコスモスの仕業のようですけど、ニセモノとしては、かなり後発のようですね。で。ロッチシールをめぐって、コスモスから逮捕者が出たことで、ニセシールのコスモスと有名になったようです。
ダンガム! まさに、コスモスの仕業です。
ちなみにダンガムのパイロットはアロムです(アムロではない)。今、ガンダム風のページを開いて、うーむと唸ってました。よくもまあ、これだけ細かいものを次から次へと造りだしたものだと思います。このエネルギーを真っ当な方向へ向かわせることができれば、あるいは、帯にあるようにコスモスはバンダイになれたのかもしれません。
思い出さなくても全く困らない思い出を思い出させてしまったようで恐縮でした。
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