猪谷氏の著書、「雪に生きる」(昭和18年刊)がうちの書庫にあり、改めて読んでみた。上州赤城山で育ち、スキー雪面求めて樺太、国後、志賀高原と転々。この一家のスキー特訓人生が淡々と描かれている。自宅の小屋も、もちろんスキーも、靴下の編み方に至るまで自分で創意工夫し滑降雪面も木を伐り岩をどけ、延々土木工事を自力でしてスキーだけのために生きる。この本自体は古書だけど、その後評伝なども多くある。
先日、そのいがやスキー場の、もと小屋のあったところと思われるあたりを歩いてみた。残雪の乗鞍の見える標高1350m。スキー場は何年か前に廃止。一面草原の斜面になっていた。ここはいま「乗鞍高原の中心」になっている観光案内所やペンション、温泉のある一帯(標高1500m)より少し手前の標高の低い「番所(ばんどこ)」というところで、戦前はこの番所や更にもう一段下の「大野川」(標高1200m)が住民の住める範囲で、上の方は冬厳しいから牧草地だったようだ。「乗鞍高原」は戦後、観光地としてどんどん標高が上がっていった。大野川には小中学校があり、その脇の小さな祠のある沼の佇まいが往時の鬱蒼とした森を思い浮かべさせる。ここは神聖な場所で、松本平の農民も雨乞い神事に登って来たとある。こういうところは大抵、山に行くとき車でぴゅっと通り過ぎてしまう。
歴史を知ると風景は違って見える。
乗鞍って松本から近いのにスキー場だけの印象だったけど、御岳と同じく山麓には広大な無人地帯と、数多くの静かな山頂と谷があり、新鮮だ。中腹を遠望したら、雪解けの今だけ現れるという、かなり大きな滝もあった。
登山愛好人生に、或る山に飽きてしまうということは無い。
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