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これまで、宮崎監督の「風」に対するイメージは「大空に舞わせてくれる、希望の象徴」なのだとばかり思っていたが、この映画ではどうもそれだけではないようで「希望をじゃまする向い風、つかみ所がない空しさ」みたいな意味も込められているんじゃないかと思った。
堀辰雄の「風立ちぬ」の冒頭部分には「風立ちぬ、いざ生きめやも」とある。これは「風が吹いてきた。生きられるかなあ(生きられないなあ・・・)」という意味だ。
ここで言う「風」とは「逆風」以外のものではないだろう。
堀辰雄の当時も堀越二郎の時代も結核は隔離以外に治療法のない「不治の病」だった。サナトリウムでの恋は普通の人の恋物語よりもずっとはかないものだったに違いない。
だから「菜穂子さんを療養所に返しなさい。」という妹に「私たちに残された時間は少ないんだ。」という二郎の言葉にも説得力はある。
だが彼は妻となった菜穂子の看病に専念するわけではなく、生活のほとんどの時間を飛行機の設計に費やしていたようだ。療養所に戻った菜穂子の最期さえ看取らなかったかもしれない。
映画の最後に自分が設計した飛行機の、累々たる残骸の間を歩きながら「地獄かと思った。」という二郎。
飛行機とともに多くの飛行機乗り達を死なせ、自分の妻に死なれながら、現れた菜穂子に「生きて・・」と言われ「うん、うん」と頷く二郎はなんとも能天気な感じがする。
この映画を「飛行機設計に命をかけ、短くも美しい恋をした青年の話」と、少しくすぐったいような意味付けをすることもできそうだが、私は「時代に巻き込まれて自分が作る飛行機の意味も考えられず、妻をも失った悲しい男の話」のように思えてならない。
だが、それはどちらを感じるかは人それぞれでいい、それが「風」の二面性なのだと宮崎監督は言っているような気がする。
ただ、そんな二郎を導いてきたジャン・カプローニ伯爵が最後に「君は生きねばならぬ。」と言い、二郎の新しい人生のためにいいワインで祝杯をあげようと誘うのは、人間というものに対する宮崎監督の愛情なのだろう。
堀辰雄とは真逆の「風立ちぬ、いざ生きねばならぬ。」だ。
菜穂子が入っていた療養所は八ヶ岳の麓にある「富士見高原療養所」。
療養所が映し出される直前の山の景色(上図左)を見て思わずニンマリしてしまった。目に覚えのあるその景色は、西岳と編笠山に挟まれてギボシが見えるという、おそらく入笠山あたりから見た八ヶ岳だ。(上図右)
宮崎さん、本当に八ヶ岳がお好きですねえ。
pasocomさん、こんにちは。
八ヶ岳って、どこからみても大らかな感じのする山容を持ってますよね、でも近づくと猛々しくも神々しい感じです。感じっていうのは、まだ北八ヶ岳以外は入山していないからですけど。
どうも昔から、様々な要因で八ヶ岳っていうのは近寄りがたいのです。
「風立ちぬ」も「紅の豚」も、多くの飛行機乗りが天に昇っていくシーンがあります。
20代の頃に一緒に山に登っていた大先輩の「中尉」は、海軍航空隊から航空自衛隊までパイロットだった方ですが、空自時代の模擬空戦の話はされても「大東亜戦争」の話は一切されなかったです。
彼が「風立ちぬ」を観られたら、どんな感想をお持ちだったのか聞いてみたかったですね。
他にも「少佐」と「少尉」がいましたが、そこいらの話を日記に書いてみようかな?と思っている、ダン之助でした。
コメントありがとうございました。
私はdan_no_sukeさんとは逆に北八ツの方は遠いのであまり訪れたことがなく、八ツと言えばもっぱら南八ツばかりです。
そんな私の印象では八ツは「おおらか」というよりも「険しさ」を感じますね。特にギボシや赤岳、横岳周辺はそう思います。
また八ヶ岳は冬の風が強いのが特徴で、そのせいか「風が大好き」な宮崎駿氏は八ツにずいぶんと興味をお持ちのようです。
八ヶ岳と宮崎監督の関係についてはすでに何度か日記に書いているので、知っている方は「またか」という感じかもしれません。
こうしてみると、一度「八ヶ岳」という「山そのもの」に対して宮崎氏がどういう印象を持っているのか、登ったことがあるのか、など聞いてみたいものですね。
こんばんわ
「風立ちぬ」・・・私も地上波で放映されたものを録画して家内と最近観ました
2人のやりとりが何とも切なくて、最後は久々に涙しちゃいましたね
あの山々は八ヶ岳だったとは!
よくご覧になっていますね
我が家も八ヶ岳は大好きな山域で、この夏もまた出掛けると思います♪
・・・っていうか、日本アルプスを歩けるレベルじゃないから・・・しかも八ヶ岳と言っても北八つばかりですが(汗)
コメントありがとうございます。
「風立ちぬ」はもともとは堀辰雄の小説ですね。その舞台が富士見の療養所、サナトリウムでした。
宮崎駿氏はほとんどすべての映画のテーマが「風」であるほどの風好きですし、また八ヶ岳好きのようですから、「風」と「八ヶ岳」が絡んでいる「風立ちぬ」はずっと以前から映画化を狙っていたのではないでしょうか。
ただ映画化のためには、ただの「サナトリウム文学」では悲しすぎる。子供も楽しめません。そこに「堀越二郎」を重ね合わせるという着想があって、この映画ができたんじゃないかと想像します。
宮崎駿監督の作品には他にも八ヶ岳を感じるものが多い。たとえば「もののけ姫」のコケ世界は北八ツのものですね。
これらのことを知ると八ヶ岳を歩く時も別の楽しみが生まれます。
air_4224さんも今度八ツを歩く時は何か宮崎ワールドを捜して見て下さい。
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