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2017年03月30日 21:27全体に公開

山に「訓練」はいらない

ラッセル訓練、雪崩救助訓練、ビバーク訓練。「訓練」は山登り初心者に必須で、ビーコンや無線機を持っていないということが冬山登山をする資格がない程の落ち度になるのだろうか?大きな事故になると、そういう角度からの責任追及がよくあります。違和感あります。
私自身の経験では40年の山行歴で「訓練」を受けた記憶はほとんどありません。
高校生の頃は、山に行きたい、その一心で一人で冬山に登りました。
大学の山岳部では、軍隊じゃあるまいし訓練というものはしませんでした。ただそれぞれ少人数で組んだパーティーで、雪山でも沢でも、人に会わない静かな山にひたすら登って、トラブルは自分たちで考え、解決してきました。
多人数の遭難事故は、多人数のツアー登山や講習会や「訓練」の時に起きることが多いです。
何かを学ぼうとか何かを得ようという初心者としての自覚はもちろん皆十分だと思います。しかし、訓練や講習では、この講師を、このガイドを、このリーダーを、この連隊長の判断に従って良いのか否か?ここなら私はこう考える、という所まで期待されない場合が多いと思います。相手がベテランや格上のときはなおさらに。
講習生や初心者なんだから当たり前だ、と思うかもしれませんが、本当にそうでしょうか?その思考放棄が被害者意識を生むのではないでしょうか。

私は高校時代に山岳部に所属せず、一人で冬山を始めたので、見たこともない雪崩や、うわさに聞く道迷いが本当に怖かったです。一人だからこそ常にその可能性を想像し、見えない手さぐりの命綱を心の中でビレイして行動しました。
その後進んだ大学の山岳部では、リーダーはたった数年上の先輩です。当然過ちを犯したり実力オーバーになる事態も時にありました。下級生といえども先輩を頼らず、地図読みも体調管理も各自が行うことがむしろ求められ、パーティーの進退決定の議論も必ず全員で討論をするのが伝統でした。これは少人数だからできることです。
沢登りの足取りひとつでも、各自が前を歩く人とはたとえ20センチでも違う足場を故意に選ぼうと欲します。前の人が行き詰まれば横を抜かして前に出ます。人と同じ所をまねしませんでした。これは、人に頼らず、ルート取りの目を養い、危機は各自で察知すること、各自で考える習慣を持つことが山では大切だと思うからです。
頼もしいガイド引率の多人数の山行では、多分各自はこういう心構えをおろそかにするだろうし、そうでないとバラバラで、リーダーも困る面もあるかもしれません。1902年に八甲田で遭難死した青森第五連隊の200人は、各自の判断を禁止されていただろうと思います。
経験豊か(と思われる)なリーダー、ガイドが率いる多人数の山の集まりに「参加」する人は、危機の判断、事故の責任は、引率者がとってくれると油断してはいないだろうか。責任なんて、本当の意味では他の誰もとることはできません。だから自分で判断することを怠ってはいけないと思います。まして裁判で訴えても解決はありません。
高校のスポーツ部活動というのは、頼もしい指導者が、未熟な生徒を引率、指導、教育するという形が一般的で、山岳部もその常識の中に入れられてしまうことが多いです。社会のほとんども、当然そう見なしていることが多いと思います。しかし、山登りは競技スポーツではないと私は思います。他の競技スポーツのように、監督役の指導に身をまかせきる習慣にしていては、危機に際し、致命傷になると私は思います。
山登りというものは講習会で受け身で始めるものではなく、まず大切なことは、個人が自力で手さぐりで始めて、固有の危機の手触りの感触を自分の中にまず育て、そのうえで学びたければ講習会なり訓練なりに臨むべきものではないかと思います。講習会は、技術は学べますが、危機に対する感知能力は、孤独な自作の経験からしか芽生えないと思うからです。
高校生の冬山登山を禁止するのではなく、まずは個人として山を前にし、危機の予兆(たとえば傾斜の長く続く、滑り面の上にたった一晩で30センチの新雪というような)について自分で考え、感知する力を身につけるべきではないのか?そういう習慣は催しに参加する姿勢ではなく、この山に自分一人で登るなら、このルートはどうだろう、何時にどこで最後の判断をしよう、ということを自分で考えていないと身に付かない習慣です。
竹内洋岳氏が著書の中で、何故、登校中の児童の列に車が突っ込む事故がなくならないのかを考える一節があり、人の後ろをついて歩くとき、人は危機を察知する力が衰えているのではないか?というようなことを書いていました(登山の哲学2013)。
安全のためにと列を作り、安全のためにと講習を開き、安全のためにとプロガイドの講習に通うことが、却って自立した能力を妨げる事があると思います。
高校生で未熟だから事故にあったのではない。リーダーが判断を間違えたから事故になっただけでもない。
高校生にそれを問うのは酷でしょうか?本来はそんなことはないと思います。ほんとうは、16歳、17歳にはその能力は十分にあるはず。大人だってもちろんです。それができないのは、16,17歳どころか大人にさえ自立と自治と自己決定を求めず、規制と禁止と管理ばかりを進める今の社会の甘さのせいだと思います。
世間や警察や報道や遺族の一部はだれかの判断責任やあるいは装備の不備を問うかもしれません。それが今の社会のよくある解決方法でしょう。しかし、「山では、他の誰にも危機管理の責任を任せるわけにはいかない」ということを少なくとも山に登る人には知ってほしいと思います。
全て山を歩く人は、一刻もはやく自立することを目標にすべきだと思います。
5人以上で山に行くような時は、そのこと自体が危険なことなのだと私は思います。山がそんなに怖いところだと思わなかった、というなら、山登りはしないほうが良いでしょう。でもそれを言うなら、高速道路の運転のほうが、ずっと怖いと私は思います。
全国各県の県教育委員会が高校山岳部の雪山登山を禁止するしかないならするが良い。しかし、高校生の自主的な冬山登山は禁止してはいけないと思います。責任を先生にとってくれとは言わない、若き日の山野井泰史みたいな高校生は必ずいるはずだと思います。
今は「訓練」当たり前のプロガイドか、初心者かの二極化が激しく、その中間のセミプロの登山熟練者が激減の時代です。旧来の、セミプロベテラン教員が頼りだった高校山岳部というシステムの、今回のようなほころびを受けて、今後は責任明快、判断確実なプロに任せてしまう流れになるかもしれません。死亡事故は減り安全は高まるかもしれませんが、アマチュア高校生登山家が、真の危機認識能力を磨く機会は、教えてもらう「訓練」だけからは皮肉なことに減っていくかもしれません。
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コメント

RE: 山に「訓練」はいらない
「訓練」ではなく「訓令戦術」ですね
2017/3/30 21:42
RE: 山に「訓練」はいらない
 賛成 まさにご最も
 世相を反映してますね、わかる気がする〜
>
人は危機を察知する力が衰えているのではないか
この例えが、特に同感ですね〜”自分身は自分で守れ”これ鉄則です。交通事故でたとえるならば、もらい事故でも気分悪いし、どっちがいい、悪いではなくて、起こすことが損?であって、起こさないのが一番です。yoneちゃん、また的はずれてる・・・?
2017/3/31 6:19
RE: 山に「訓練」はいらない
思った事・・
 晴れていれば那須岳に登る・・
 その時は、ビーコンは持ったのかな〜・・?
2017/3/31 6:23
RE: 山に「訓練」はいらない
いろいろ情報が明らかになってきてますね。

ビーコン、登山届け云々の話ではありませんね。
どんな年齢、どんな立場であろうとも思考停止をしてはならない。これは鉄則です。

冬山禁止という安易な結論に逃げることなく、検証が行われることを切に望みます。
2017/3/31 14:31
RE: 山に「訓練」はいらない
yoneyama さま

日頃実践してることと、感じたままで すが すみません。

絶対に悲しい事故を生ま無い楽しみ(遊び?)って無いですよね
山でも、空でも(空は経験ありません )、自転車でも、走でも、海でも。。。。

夫々のお楽しみで心行くまで遊べるようになるための練習(訓練?)は、座学含めてみなさま欲するままに当然にやってると思ってます。
だから山でも、自転車でも、、、基本的な学習と練習(訓練)は死なないために必要だと思ってます。
特に自転車の座学は道交法ですかね
学んでても残念な事故ばっかりですが、、、

貴兄も経験を重ねたことと、座学での勉強は相当にされていた(これからも)と感じております。

で、ポイントは、小生やはり引率という立場になる場合は、事前の下見が鉄則ではないかと。これだけは実践しております。
緊急事態となった時に、その事象が起きた場所でどう対応できるのか。道具の有り無し含めて。
多くの引率者がそのシーンを想像できるためには、、、現場百篇ではありませんがそれを想像できる心に残った映像と知識、環境を経験していることが欲しいかなと。
また、イベントが恒例となっているような場合は、引率者全員の入れ替わりが無きよう、経験者がより複数いるようなそんな環境づくりがやはり心強く望まれると。
贅沢なことですが、そのためにはそれを維持する努力(説明と皆さんの協力を得る)を続けることが、そのことを理解していただけることではないかと。。。

山も、空も、海も、自転車も、走も、、、座学だけの学習塾とはちがいますよね


「冒険〇〇のすすめ」 のレスもしないままに数か月
今宵は少量

(後で追記)事前の下見は当日の環境とは違うこを理解してる上であります。
2017/3/31 22:33
RE: 山に「訓練」はいらない
こんにちは。数か月前に登山を始めました。遭難関係の本はいろいろ読みました。こちらの日記を拝読して、聖職の碑の元になった学校登山遭難、高校生の冬山スキー訓練雪崩遭難、更にはミニャ・コンガで、隊員達と隊長に年齢や考え方のギャップがあり、隊長は登頂隊の音信不通で現場を確かめもせずさっさと見殺しにして下山帰国した事などが思い起こされました。
トムラウシ大量遭難も同様ですが、軍隊式の行動様式が現代でも特に疑問も無く存在し続けていると言えますかね・・。構成員たちが意見を出し合いディスカッションして方向性を決めるのを禁止するような、隊長以下の者には意見するのを認めない的な。個人の意見を飲み込むことが「大人の対応」「空気を読む」みたいな。
2021/7/2 20:49
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