山岳信仰と天狗

八ヶ岳のあちらこちらに置かれている石碑を調べ、その山岳信仰を追究していくと必ずのように「天狗」に行き当たる。
八ヶ岳にはその名も天狗岳という山があり、また天狗尾根、大天狗、小天狗などという地名もある。
「天狗」と「山岳信仰」は切っても切れない関係なのだった。
ネットで天狗について調べていくと、世の中には「天狗マニア」という人がいるようだ。あれこれ調べて天狗に詳しくなると私もその仲間入りをしてしまいそうだが・・・。
それでも、今後の「調べてわかってきた」シリーズのために、この辺で天狗についてまとめておこうと思う。

「天狗」とは「天の狗（いぬ）」という意味だ。その起源は中国で「流れ星」のことだったとか。
その概念が日本に入ってきて平安時代頃に山に住む妖怪みたいなものと結びついたらしい。天狗で有名なのは、かの牛若丸（後の源義経）が若い頃鞍馬山で天狗に剣術を教わったと言う話。この頃の天狗の姿は背中に翼があり、嘴が尖っていて、現在いうところの「カラス天狗」だったようだ。
で、この天狗は「妖怪」の一種だから尊敬されるような対象ではなく、むしろ敬遠される「もののけ」みたいな位置付けだったらしい。

それが、室町時代頃になって山岳信仰が盛んになり、山中で修験者（山伏）などが修行するようになると、こういう理解はできないけれどなんだか偉そうな人、というのが天狗に結びついた。その天狗の姿は頭には「頭襟（ときん」という小さな帽子をかぶり、高下駄を履き、羽団扇を持つという姿だ。こちらも天狗の姿としてはごく馴染みなもの。鼻が高くなり「鼻高天狗」と呼ばれる天狗が生まれたのもこの頃らしい。
山岳信仰に結びついた天狗は、およそ後者の修験者の姿の天狗の方だろう。八ヶ岳はじめいろんな山は「○○行者開山」などとされている。この行者は「修行者＝修験者」のことだ。
やがてそういう天狗そのものを信仰する「天狗信仰」が盛んになり、先の日記で書いたように「飯綱三郎」などという天狗になったらしい。
（それでも飯綱三郎はカラス天狗の姿であり、珍しいらしい。）

さらに天狗界にも序列があることとなり、「日本八天狗」が最高位だそうだが、その下に「大天狗」と呼ばれる部長級？な天狗、さらに「小天狗」、「木の葉天狗」なんてのまでいたようだ。
一般的に「鼻高天狗＝大天狗」で「カラス天狗＝小天狗」のようだが、飯縄三郎のようにカラス天狗の姿で大天狗以上の地位にあるものもあって一概には決めつけられないとか。
こうしてみると八ヶ岳の「大天狗」「小天狗」とは、ただ天狗の大小ではなく、ちゃんと序列としての上の天狗、下の天狗の意味なのだろう。

文献を当たると、昔は「天狗」を「天宮」と書くこともあったようだ。「天宮・・・荒法師の姿に成り行けるを、・・・」（染殿后為天宮被焼乱語第七）などとも書かれている。
どうも「白天宮」は「白天狗」で間違いなさそうだ。

上写真）高尾山にある「大天狗（右）と小天狗（左）」の像
　大天狗は「鼻高」で羽団扇を持つ。小天狗は嘴のあるカラス天狗のようだ。
　大天狗にも翼があるのは高尾山の天狗が「飯縄三郎」だからだろうか・・・

コメント

sirius

RE: 山岳信仰と天狗
こんにちは。

大天狗と小天狗、ちゃんと意味が
あるんですね。
でも、第一岩峰とか第二岩峰とか
ありきたりでなくて良かった。
あれだけ目立つ存在ですから、
「天狗尾根の大天狗と小天狗」が
似合ってますね。

pasocom

RE:siriusさん/ 山岳信仰と天狗
コメントありがとうございます。
「天狗尾根」の岩峰には「大天狗」「小天狗」と命名されていますね。
ツルネ東稜で下降するときにはこの二つの岩峰が間近になって、あたかも天狗様に見下ろされているような気分になったものでした。
これに対して、阿弥陀南稜のP1〜P4というようなナンバー振りはちょっと味気ないですね。

山口耀久氏の「八ヶ岳挽歌」の横岳の項を思い出しました。
当時（終戦直後？）横岳西壁には稜線（リッジ）にも岩溝（ルンゼ）にも名前が付いていなかったそうです。そこで便宜上名前をつけなければいけないということになったものの、「第一ルンゼ」「第二ルンゼ」とか「第一尾根」「第二尾根」じゃいかにも味気ない。で「石尊稜」とか「日ノ岳ルンゼ」とかいう命名を苦労して考えたんだそうです。
今もこの命名が生きているようで、よかったですね。

「大天狗」「小天狗」は県界尾根にも地点名として残っています。隣り合った尾根に同じ名前があるのは混乱ですが、それほどに「天狗」が身近であったという証拠のような気もするのでした。

Casumin51

RE: 山岳信仰と天狗
pasocomさん、こんばんは＾＾

どうも「白天宮」は「白天狗」で間違いなさそうだ。
↑
解決？良かったですね。

大天狗・小天狗といえば、私がよく行く栃木県足利市の「大小山」は、昔、大天狗・小天狗がいいた事に由来するとか。
天の狗の起源は中国で「流れ星」！
流れ星は狗が天を駆け巡ってる様子からですか。素敵ですう~♪

pasocom

RE:Casuminさん/ 山岳信仰と天狗
コメントありがとうございます。
「天の狗の起源は中国で「流れ星」！」だそうです。それも普通のではなくて希にある「火球」という火の玉のような大きな流れ星のようです。昔の人はそれを見てさぞかし驚いたことでしょう。

「大小山」については、足利市のHPを見ると「この文字板は、大小山麓の阿夫利神社（あぶりじんじゃ）に祭られている『大天狗』『小天狗』にちなみ・・・」と説明されていますね。やはり天狗がらみです。
今度行かれたらぜひ、「大天狗」と「小天狗」の姿の違いに着目して、この天狗像も見てきて下さい。
ところで「阿夫利神社」というと丹沢の大山の神社を思い出しますね。いろんな信仰が混然となっているようです。

「白天宮」については、もし「黒天宮（黒天狗）」という石碑でも見つかればさらに確定的になると思います。36童子碑などとともに探索していきたいものです。