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凄いだの、非道いだの、是非見習いたいだのといった感想は、水上勉や春ちゃんの解説、感想の方が意味があるのでここではこの際、置く。
読んで私がイの一番に思ったのが、20年前の旅行中に出会った秋山氏の事だった。
その風貌とノッソリとした語り口調から、心の内では「パンダ氏」と呼んでいた。
あの旅行中では、何故だったのかは解からないけれど、明治大学卒の旅行者たちと不思議と縁があった。この方もその内の一人で、私の一回り上の世代で妻子持ち、ジャズ好き、作家志望、劇団主催、そして劇団員と浮気中。
多分、読んでいたことと思う。「火宅の人」を。
お名前を検索すると白樺派の文豪・里見��(とん)をはじめとする鎌倉文士についての書き下ろしの話からしても興味関心が近い。
手紙のやり取りがあった当時は、あのフォーク界のレジェンド・高田渡【自分のライブ中に居眠りをこいて許されるのは、高田渡と志ん生位なものだと言われた】との親密な付き合いがあったそうで、「生活の柄」の話なんぞしたものだ。
パンダ氏とは地球一周のとば口、上海の浦江飯店で出会った。強い飲酒癖、時計の秒針音が気になる聴覚過敏、独特の会話口調そして容姿と、印象に残る方だった。氏は以降、飛行機でチベットのラサを目指し、その後雲南省最南端の西双版納(シーサンパンナ)(の竹林)でのんびりするとのことで、陸路チベットを目指す私とラサで合流しようという話で一旦別れた。
ラサの安宿で合流後も、免税品のジャックダニエルビッグを差しつ差されつあれやこれやと話した。横濱ジャズプロムナードの話に始まって、学生結婚、出産、浮気話、開高健、、、、旅行中に主催劇団が解散した話も薄い空気の下聞いたはずだ。その後私はヒマラヤを陸路で越え、氏は宿の旅行者たちを募ってツアーを組んでチョモランマのベースまで行くとの事で、日本での再会を期してここで別れた。
一周後、帰国して鎌倉は材木座のご自宅に寄せてもらった。イイトコだったな。
よく通うジャズ喫茶「エアジン」にも連れてもらって意気血気共に盛んな店主とも話した。そこで剛腕ピアニスト、板橋文夫の話も聞いた。
チョモランマ行の最中、私も知った同行女性とまたしても「外れたみち行き」となって今も続いているとの話を聞くにつけ、最早この人は行為以前に”スタイル”そのものに魅入られているに過ぎないことを知る。この女性との不倫行で出かけた旅先で現地人の儲け話にのせられて購入したルビーの原石が偽物で、実の母親だけに顛末を話して代金を補填して貰った話まで聞くともう、ヤレヤレだった。
21世紀の今の時代なら、某かの依存症と診断されるのかもしれない。
いや、今パンダ氏との会話を不意に思い出した。
「私はマリア様のような、全てを丸ごと許してくれる女性を永遠に探し続けているのかもしれない。」
「火宅の人」の表紙だが、単行本の装画が抽象画家のサム・フランシスであり、文庫版表紙が、ヘンリー・ミラーなのはきっと意味を含ませてのことなのだろう。
【火宅（かたく）】
仏教用語。人々が，実際はこの世が苦しみの世界であるのに，それを悟らないで享楽にふけっていることを，焼けつつある家屋 (火宅) の中で，子供が喜び戯れているのにたとえた言葉。『法華経』の七喩の一つ。
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