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2025年09月28日 15:07登山全体に公開

滝沢大滝を攀って

 上高地は河童橋からの"例の"眺めのその真ん中に位置し、また側に山小屋もあって随分な数の登山者がすぐ近くを通過しているというのに、その大滝に手を掛けた登ったという話を長く聞かない、私にとっては気になる対象だった「滝沢大滝」。川内下田山塊のガンガラシバナの大滝や、黒部のサンナビキ谷左俣大滝のように奥まった場所に垂れるわけでなし、アクセス極めて良好にも関わらず、誰も手を出さない。
 勿論、今と違って自らの登山欲に忠実な"真の"登山人口の多かった昭和時代には多くのクライマーを迎えたことと想像する。実際、そんな残置(軟鉄)ハーケンを見掛けたし、あんなにも目立つ存在なのだから登ってみたいと思わない訳がない。そんな時代を経て流行廃りの結果、いつしか記録は途絶え、情報が蔓延する現代だからこそ無い情報にはアクセス出来ず、誰かが登らないと手を掛けられもしなかったようだ。
 今回の滝沢大滝は、沢登りというには余りに露出度高く、私がこれまであまりやってこなかった類の純然たるアルパインクライミングだった。剣岳の八ッ峰で大学時代に登った残置ハーケンありきのルート(Cface RCC右ルート、Dface久留米大ルート等)なんぞ、今回を思えば子供に毛の生えたような登攀だった。紀伊半島で登った大滝の方が残置支点も無く、余程アルパインだった。
 墜落に備えた間違いのない確保点の構築、不確実なムーブに耐えるランニングビレイ、時におまじないのような支点も交えて垂直を獲得していくクライミングという行為を真に体感した気がする。何と危険な! 昭和時代には、カム類を使用しないプアな支点で墜落し、損なわれた命が数多あったことが想像された。私がチベットで会った、アルパインクライマーだった望月氏の父君が唐沢岳幕岩で墜死したのもそんな一つの事例だったろう(加藤三郎著「嵐と灯」に登場する)。
 柱状節理という崩落するばかりの慣れない岩の形状で、その岩がどれほど信頼の置ける強度なのか判然としない中"落ちてはならない"クライミングを継続する精神の消耗といったら、リードした本人にしか理解できない世界だろう。フォロー役の私が言うのも何だが、その時我々が置かれた環境が如何に危険な状況に晒されているのかを客観視すると正直、身震いがした。すぐ上の柱状ブロックがトップの墜落によって崩落しようものならロープを巻き込んで二人共に墜落し、命はなかったろう。若しくは骨折血塗れだったか。アングルハーケンを打つ際、回収する際に節理の隙間から小石がポロポロ落ちてきては肝を冷やした。オイオイ。
 上段70m滝の、落ち口へと抜ける最後の一手が至近頭上に見えていた。Iida君は暫し逡巡した後、スタンスへと左足を伸ばし吼えながら右足を切って乗り込む瞬間、ビレイヤーの私は思わず首を竦めた。この高度感、露出度でソレをやるかよ! 次の瞬間、手に墜落の衝撃!はなく、ちょっと凄いモノをみたな、と思った。後続して「自然の好意」としかとても思えないあの絶妙な位置のホールドを、思わずナデナデした(更にもう一つ!)。尚、直前の二つの支点は墜落に耐え得るものではなかった(と本人も認識していた)。ルートセンス全開の、好ラインの完成だった。見下ろした滝の落口から70m真下、4時間前の我々に手を振ってみた。 
 同行のIida君は、これまで正しい道を歩んできたのだろう。あの状況下で確信を持って"あんな"思い切りのいい動作ができるのだから。ファナティック、でもなくさりとてクール、でもなく、あくまで泥臭く。
 
 ヨーロッパアルプスやヨセミテなんぞに出向かなくても、発想次第で身近な山にも"自由"はある。それもとびきりの自由が。有名山岳のド真ん中に埋もれていたそれを今回、発見できた。
 我々は、他人のトレースを追う必要も、ましてや深田氏が列挙した山々をコレクトする義務も無い。山なんて登りたいと思った感性に従って好きに登ればいいんだ。あくまで、自分の納得ゆくスタイルの"山"を追い求めて。
 軽装ワンデイ速攻が偉いのではない。他人の登山記録のコピペではない、着想ありきの発想・アイデアこそが登山の肝、であり妙味だろう。
 妄言多謝。

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コメント

ゾクゾクする文章です。私の波長にすっかりはまります。現役のころに引き戻されたような興奮を覚えました。ありがとうござます。
2025/9/28 17:21
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borav64mさん
も、同様の経験をお持ちなんですね。有難う御座います。事終えて、こんな体験がたったの一人にでも共感してもらえたらそれは話としてもう十分なんだろう、と呑みつつ会話しました。
2025/9/28 21:00
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