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この本を手にした経緯など、前回日記はこちら。
http://www.yamareco.com/modules/diary/21844-detail-88632
この本の中で権現岳南麓の尾根のルートがいくつか紹介されている。
現在メインルートの「天女山ルート」も、今とほぼ同じ様子で書かれているのだが、その次に書かれているのが今はほとんど廃道になってしまっている「御題目尾根ルート」だ。
（注；原本にはルート名として上のように表記されてはいない。）
「昔の登山口であった長坂口は、中央線長坂駅からこの尾根を登って三頭山を経て権現嶽に至っている。現在このルートを通る人はほとんどいない。
尾根は前に登ってきた天ノ川原のような砂礫地で、岩石が散乱している。一体の観音が石に刻んである。ここが出合観音で、昔弘法大師がこの八ヶ岳を開かんとして登山中、観世音菩薩が山から下ってくるのに行き合ったのがここだという伝説から、この出合観音の名が起こったという。またこの御題目尾根の名も、往時八ヶ嶽行者の登山路だったためである。
御題目尾根の名も途中にある行者水の名も、あるいは御題目尾根上に今も残る観音像など、これら行者の足跡を印したるものに他ならない。小海線の開通せる現今では、この登山道を登る者は皆無に等しい。距離の大なること、時間のかかること、アルバイトの点よりみても当然の事であろう。」
（中略）
「尾根の灌木の切開きを登り、しばらくすると赤い溶岩崩壊砂の歩きにくい道となりこれは前三ツ頭山まで続く。
だんだん尾根は痩せてきて、奇妙な形をした溶岩が所々に見受けられる。これらの岩の一つに立札があって御神楽岩の名が見られる。ここから岩の間を縫って登れば行者水に着く。往時八ヶ嶽行者の身を清めた所だといわれるが現在は水はない。
行者水を越えると観音像が一基ある。出合観音の名がある。尾根はますます痩せてきて、砂礫は左右のカラマツに覆われた谷に向かって崩れ落ちている。やがて尾根は草地となり、道は尾根の右側を通りカラマツの林の中を登る。再び溶岩崩壊砂の地帯に出ると尾根の巾はずっと広がって傾斜も緩くなり、平地に近いところに出る。ここが前三ツ頭山（前垂）で、右より登ってくる甲斐大泉駅よりの道と合する。」
文中の「アルバイト」とは「労力」ということだろう。
尾根の最上部にあるはずの鉄剣について全く触れられていないのがちょっと不思議だ。
「御題目」という言葉も意味深い。ここにいう「題目」とは「タイトル」のことではなく、日蓮宗の念仏「南無妙法蓮華経（なむみょうほうれんげきょう）」のことだ。だから、日蓮宗では『念仏を唱える』ではなく『御題目を唱える』などともいう。
この尾根の名は現在では「材木尾根」と称されてもいるようだが、それは当然「だいもく」が「ざいもく」に変化してしまった結果だろう。
この言い換えは、ひょっとすると落語の「鰍沢（かじかざわ）」に引っかけてのことかもしれない。
「鰍沢」は現在の山梨県富士川町にあたる。ここを舞台にして明治期に三遊亭圓朝が作ったのが落語の「鰍沢」だ。
身延山に詣でるために江戸から鰍沢までやってきた旅人が大雪で歩けなくなり、山中の一軒家に一夜の宿を求めた。そこで金目当ての女に毒を飲まされ、命からがら富士川に向かって逃げる。後ろから女が鉄砲を持って追いかけてくる。旅人は富士川に転落し「もうこれで一巻の終わりだ」と「南無妙法蓮華経」を唱えるのだが、そこに丸太が流れてきて助かるのだ。
「ああ、お材木（御題目）のおかげで命拾いした。」というのが下げ。
前座が演じることなど絶対に許されない「大ネタ」のこの話が、八ツの尾根の名を変えてしまったとしたら、それはそれで面白いことだ。
「十二山尾根」は別名「笹�堯覆気気�ら）尾根」とも呼ばれ、これも権現岳への古道だったらしい。「アトノ尾根」は「小泉駅ルート」として現在も現役の道。「笹�堯廚發世い岼嫐�ありげな名前だ。
写真左）権現岳南麓「お中道」周辺の尾根地図
写真右）御題目尾根途中に立つ「出合観音」の像
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『古道「御題目尾根」で登る三ツ頭・権現岳』（2014.07.01）
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-472177.html
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marui@美濃戸口でカレーうどん中です。
御題目尾根、材木尾根、なるほどです。
昭和18年の時点で既に登られなくなってきていたのですね。材木尾根への変化もpasocomさん説、とても説得力あります。これで決まりですね。
御神楽岩、行者水はどのあたりになるのでしょう。詳細マップとか作ってみたいですね。
おお、いま美濃戸口ということは今日は赤岳アタックでしたか？？
御題目尾根、現在は廃道状態ですが、まさか戦前からそういう状態だとは思っていませんでした。
昔の記述を読むとびっくりするようなことがあってとても楽しいです。
「御神楽岩、行者水」も今現在どこのことなのか知りたいですね。
もう少し追跡して見たいと思っています。
おはようございます
旧道の探索が着々と進んでますね
古地図にある「青年小屋」と西岳の間にある小屋・・
絵図か絵国？小屋から下山方向に古道があったんですかね？
なんとも興味尽きない地図ですね
「お題目尾根」
法華講の信者さんが大勢でうちわ太鼓を鳴らしながら権現岳をめざしている姿が目に浮かぶようです。
赤岳にも社や石室など古きものが安置されていますが、信仰の対象としては「権現岳」の方が古いのでしょうか？
中々、興味尽きない山行ですね
でわでわ
おはようございます。
上の図にあるのは「絵図小舎」ですね。「図」が旧字で「圖」と書いてあります。
去年のtotoroさんのレコで、現在も廃墟の跡の材木が散乱しているのが確認されてます。
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-552044.html
の写真53番です。
地図の小屋のすぐ脇に「水」とかいてあるように、これは現在の「乙女の水」のすぐそばのようですね。
「日本山岳案内」の中にも登山道の記述があり、『盃流しから切掛川の不明瞭な谷底を踏み跡をたどって進む』とあります。
いまはまったく廃道になってしまった道ですね。
八ヶ岳を法華講の方々が登拝したということがあったか不明ですが、少なくとも修験者が沢山登っていたのは確かなようです。「行者小屋」のところには『夏季には八ヶ嶽行者が籠もっている｡』とあります。江戸時代までではなく、戦前までそういう人々がいたらしく驚きますね。
pasocomさん、こんばんわ。
調べてわかってきた「八ヶ岳」シリーズ、続きますね。
もともとは題目だったのが材木に変化した、のではと私も薄々は感じてました。落語の「鰍沢」にも、同様なネタがあるとは面白いです。御神楽岩や行者水のありかも興味深いです。
コメントありがとうございます。
このところは自分で考えたと言うよりも、古い本を引き写しただけの報告みたいになっています。
ただ、こういう本は希少で誰でも気軽に手にとって読めるものではなさそうだし、万一世の中から無くなってしまえば、二度とわからなくなる。そこで、全部とはいきませんが、興味深いところだけでもデジタル化（Googleみたいに！）しておけば安心か、という気持ちで書いています。
多くのネットサイトに「材木尾根」とあり、むしろ「題目尾根」は少数派でしたので、私も「材木」の方が正しいのか？とも思いましたが、そりゃ意味が薄い(^^)。やっぱり「題目」だろうな、とうすうす思っていて、今回そのことがはっきりしただけでも収穫だったかなと思います。
これを機会にあそこを「材木尾根」と呼ぶ人が減り正統な名称に戻るといいのですが・・・。
毎回興味深く拝見しています。
遅くなりました。ご無沙汰していてすみません。
地図から想像すると、この周辺この時代からの廃道は御題目尾根のみみたいですね。他の尾根は完全バリになるということののでしょうかね。
御題目尾根が長坂駅から登れれていたとは
お忙しそうですね。ご多忙中のご訪問ありがとうございます。
この手書き地図からだと御題目尾根とアトノ尾根にしかルート線がありませんが、私が以前紹介した県界尾根に「旧道・新道」が併記してある地理院地形図（昭和46年ころ）にはなんと御題目尾根以外、御神楽尾根、大日向尾根、十二山尾根のすべてに登山道表記があるのです。
これらはいつぞやnori3さんが見つけて紹介下さった「お中道マップ」に名前があるもの。そしてnori3さんが考えられたように、八ヶ岳横断歩道や高原ラインを貫通して大泉の部落まで続いています。
いずれ、こちらの地図もスキャンして公開しましょう。
権現には本当にいくつもの登山ルートがあったようですね。それにしても名前やら観音像・行者水・鉄剣など遺構からするとやはり御題目尾根がメインルートとなっていたんじゃないでしょうか。
「日本山岳案内」が出版されたのが昭和18年＝1943年ですから小海線が開通してわずか8年後ですか。本の中にもあちこちに「小海線が開通してアクセスが楽になった。」というような記述があります。長坂駅からじゃ、確かにアクセス遠くて大変だったでしょうね。
こうしてみると御題目尾根も小海線開通して便利になったはずなのに、やはり一度忘れられてしまうと中々復活しないものですね。
私が歩いて見た限り意外と歩きやすい道。展望が良いのが一番魅力です。復活できるといいんですがねえ・・・。
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