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私が大学をうっちゃって台湾溯渓を志したのが22の時で、お世話になった際の茂木さんは45だったことを思うと世代交代の感である。あの日、私は手土産をちゃんと持ってお宅訪問したか？
風邪を引いて仕事を休み、床に伏せたタイミングで文庫化なった「俺は沢ヤだ！」を一気に読了した。なお題名は、当時連載担当の服部ブンショー氏の命名だったと記憶する（読んでいた氏の「ユーアーワットユレッド」も読了〜）。
構成は、2009年刊行の単行本掲載分を第一部とし（笑える「白山マイタケ腹筋虫」話は落とされている）、第二部には刊行後に成された岳人不定期連載だった「大滝巡攀�機廖岫供廚函�海外溯行記録を掲載してある。第二部掲載分の岳人誌部分はほぼすべて手元にあると思うが、青島氏の写真が素晴らしかっただけに白黒ででも掲載して欲しかったと思うのは私ならず成瀬さんも同様だろう。
読了してイの一番に感じたのは、単行本時代の成瀬氏は未だ半分だったという思いだ。岩遊の豊野さんが還暦過ぎて剣沢に行ったと聞いた時も大変驚いたものだったが、それと同様の胆力をこの本に改めて感じ入った。氏の語られるべき快進撃の履歴は第二部以降だった。例えば称名廊下。1998年の称名川解明に着手してから14年のブランクを経て再び探査に入ったのが2012年、御歳50。これを書く今の私と同年齢で、人跡未踏の地に傾けるその情熱がまあ熱い。これらトライアルはNHKでも放映された。威勢の良い若手を子分に従えてハワイ、タヒチ、レユニオン、そしてボルネオと日本渓谷の常識を凌駕する大渓谷群を情熱のままに駆ける。なお、これらは海外溯行同人総会でも熱を帯びた報告があり、静かに聞き入る参加者達の雰囲気を今でも思い出す。
この本を読めば、かつて登山ヒエラルキーの世界に押し込められていた「沢登り」があるべき姿に羽ばたいたことが知れる。そういう価値の本である。
【P.325に誤記あり。下ノ廊下の溯下降；1998→1999。そして溯行と下降が逆になっている。1998年にはスキーによる偵察、中〜上ノ廊下溯行と称名滝登攀がお二人により成されている。ここだけの話だが青島氏の私家本には称名滝登攀が「称名川本流（称名滝）」と記載されており、当時のその見識の高さに驚くばかりだ。】
私事になるが、2006年秋の御嶽赤川地獄谷が分岐点だったと今にして思う。望めば同行できたのに、行けなかった。以降、2013年まで木樵修行の日々でメロメロ、出産も続いて仕事以外の山なんてとてもぢゃないが考えられなかった。それでも今では林業の修行も”文武両道”を果たし、登山にも復帰して創造的登山の土俵に再び立てているのだから言うことはない。ただ、私の志向は登攀的な沢登りにはなく、山旅のソレにあるのであれは果たして分岐点ではなかったのかもしれない。
個人的に私が成瀬文で好きなのは「日本の渓谷'97」の台高・中ノ滝登攀の記録である。氏の真骨頂はやはり単独行にあると思う。その上に、同行者との険谷溯行・登攀があるのだと理解している。P.237で大笑いしてそれを思い出した。
思えば、集団行動を得手としない人種、単独行の危険や魅力を知った「浮浪雲」達が、敢えて集って興したのが海外溯行同人だった。創立メンバーはその傾向が特に強かった。決して意図した結果ではなかったかもしれないけれど、大きな成果を得て自然解消した同人、忘れ難い20年だった。
最後に、この表紙写真を選んだその意図はどこに？ 岩と口が合っている、とか？
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