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2021年04月13日 09:27全体に公開

銀嶺

 三月の週末は悪天続きだった。四月に入り、移動高の真下に当たった先週末に限って二年ぶりの風邪をひき、床に臥せていた。疲れが祟ってひどく辛い二日間だった。穏やかな土日というのに、家のことも一切出来ず無為に過ごした。

 これを好機と、米山さんから借りていたクライマー小川登喜男伝「銀嶺に向かって歌え」を読んだ。
 著者は、沢登りをよくした仙台YMCA山岳会の会長であった深野稔生氏で、登山史や民俗学に造詣の深いお方だと聞いたことがある。
 正直、中々読み進めにくい本であった。東北大学山岳部部室で見つけた部室ノートをきっかけに使命感を持って書かれたそうだ。小川登喜男氏の肉筆を柱にして話が展開するのだが、その記録を基調に据えすぎているきらいがあって、話が史実以上に羽ばたかない、といえばいいか。
 小川氏自身は華々しい初登記録に比して記録を出さない人だったようだが、ルームノートに残された文章群は、今の旧帝大生が逆立ちしても書けないような気品ある内容である。

 正直、私にとっての小川登喜男はボルダラーの室井登喜男であり(母である室井由美子氏が小川氏から引いて名付けたと聞く)、和田城志氏の書くところの穂高屏風岩一ルンゼ冬季登攀(第二登か?)でその名を記憶に留めていた程度のことである。ただ、この本のことは先輩に当たる濱田武士氏が同時期にみすず書房から本を出していたことでも気に掛けてはいた。
 以下、頁下に折り目を付けた部分(あっ、借り物だったスンマセン。直しておきました)。

P.136;佐々保雄氏の名が現われる。佐々先生は小川登喜男と面識があったか。佐々先生については機を改めていつかこのヤマレコの場に書き留めておきたい。大した話でもないけれど。

P.241;「私の山 谷川岳」の著作ある杉本光作が中核として活躍し、かの松濤明も所属した登歩渓流会、これを「とぼける会」と読むのだと私に教えてくれたのはかの青島氏である。以前読んだ松濤本「二人のアキラ、美枝子の山」にもそのようなルビは振っていなかったと記憶する。記録をかように重視する深野氏の著作にあるのだから、やはりこれはトボケルカイと読むのに違いあるまい。

 読んでいて薄々感じていたことだったが、やはりやっていたか。ショルダーやP.278の「吊り上げ」を。現代クライミングの世界ではタブー視されている登り方を当時は採用していたのだった。ショルダーは昭和の国体の初期段階でも聞いた話だが、当時は常識の範疇だった模様。尚、沢登りで難しい滝が現れた際に、ショルダーで手早く対処できるなら私は躊躇うことなくする。
 私が何を言いたいかといえば、東北帝大時代はいざ知らず、東京帝大時代に行われた谷川や穂高、剣で行われた登攀は、フリーソロに近しいスタイルで行われているのでは、というヒヤッとするほどの想像である。現代の記録としても4級A0、A1とグレードされるルートを、3本程度のハーケンと質のよろしくない麻ザイルを携行しただけでヘルメットも被らずリードしてしまうのだから恐れ入る。ランニングビレイも何もないとあれば、墜落したらパートナーもろとも一巻の終わりだったろう。きっと登喜男氏は一度も落ちたことのない男、だったのかもしれない。フリークライミングもデシマルグレードもない時代に、オンサイトで5.10マイナス位は確信をもって落ちず登れた男だったのだらう。1930年代に。

 しかし、これまで伝説的に語られてきた小川登喜男が、史実に基づいてようやく紙媒体に残されたのは慶事といっていいことで、おこがましいくも深野氏を深く労いたい思いだ。東北帝大時代は、私が所属した北大山岳部同様に、スキーによる蔵王等の縦走が盛んにおこなわれており、小川氏が登攀だけの人物になかった事実には心温かくなる思いがする。
「山へ行くこと、それは芸術と宗教とを貫くひとつの文化現象である」

 表紙写真は黒部横断の際の梶山正氏のもの(登喜男氏に黒部横断の記録はないと思われる)。下に写るは果たして和田氏であろうか?

 明日は降雨後の作業となり、アプローチに黒部川の水量の百分ノ一程度の沢の渡渉がある。果たして皆は渡れるか?
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コメント

RE: 銀嶺
macchonさん おはようございます

 私の妻は高校山岳部に所属していたのですが、昔の活動記録をみると、昔の人のパイオニアワークに舌を巻く思いがします。私の生まれる前の昭和26年夏合宿(高校生)で北ア槍ケ岳北鎌尾根に登った記録がありました。ほかの記録をみても、戦後の登山ブーム以後の大学山岳部並みの登山活動を高校生でしていたみたいです。

 追記:余計な話かもしれませんが、お金が無いと行けないので、裕福なご家庭の方々だったので、戦後間もない時代でも行けたのかもしれません。
2021/4/13 11:04
RE: 銀嶺
yasuji-様
昔の人達は、今と違いガイドブックや情報に依らず地図情報から山行を発想する登山本来の楽しみ方を知っておられました。またそのレベルも高く、高校生が白山の雪山縦走と今では考えられない質の高い山行を事も無げに成していた話も聞いたことがあります。
小川登喜男氏は実際、恵まれた家庭環境の下で育った模様です。
機会あらば、図書館にリクエストしてご一読下さい。文中にあった松濤明の本の方が面白いかも知れません。ご参考まで↓
https://www.yamareco.com/modules/diary/1946-detail-217533.html
2021/4/13 17:23
RE: 銀嶺
macchan90様
 
 昔(戦中戦後)の高校山岳部の活動がレベルが高いと思うとともに、部報に書かれている文章も格調があり、その精神性のレベルにも驚くものがあります。
 ご紹介の本は、以前やはり図書館でリクエストして読んだことがあります。奇遇なめぐり逢いがあるんだなと思いました。『風雪のビバーク』に書かれている松濤明の遺書、『有元ト死ヲ決シタノガ 六時』から始まる氏の精神性に憧憬に近い感動を覚えます。
 macchan90様も図書館派でしょうか?再読する本は滅多になく、ゴミか肥やしになってしまうので私は図書館で借りて読み、気に入った文章などは感想文を兼ねてメモしています。それでも再読したい、手元に置きたいと思う本はアマゾンかブックオフの中古本(なければ新品)を買うことにしています。私のような読者が多くなると、出版業界が傾いてしまいます(笑)。

 最期に、つい再コメントを返信いたしましたこと、済みませんでした。
2021/4/13 18:21
RE: 銀嶺
yasuji様
 再コメントに感謝致します。あのアキラ本をお読みでしたか。
 素養の範疇で、日本でも改めて「漢文」の授業を取り入れるべき時期に来ているのでしょうか?
 購買こそが著者に対する投票行為であると判ってはいるのですが、ついつい投票行為にもならないアマゾン中古買いをしてしまう我が身でお恥ずかしい限りです。ばら撒き10万円も受け取ってはいけないと言いながら。
2021/4/13 19:31
RE: 銀嶺
macchan90様

 再々コメント済みません。

 高校では漢文の授業がありました。現在差し迫って必要かと考えるとどうかなとも考えますが、中国3000年の知恵が凝縮されている漢文は、学べば得るものが沢山あると思います。その中には人類の未来のあり方などを考える上で貴重な知恵があると思います。
 10万円給付は貰って悪いことなんて何もありません。故郷納税やGo to トラベルは富裕層や大手旅行会社に恩恵が集中しますが、10万円は国民全員に配るので一応均等ですし、その分後で税金として徴収(義務)されるのですから受領する権利があると考えます。
2021/4/13 21:29
RE: 銀嶺
ヤスジ様
往年の登山家が残した文章群は「漢文」の素養の下に培われた美しさ含蓄の深さだったと聞いたことがあります。それを思うと、6・3・3・4年を経た現代の大学卒の作文能力といったら私を含めて軒並みトホホなものです。テレビやスマホに忙しく、読書量も減っているとなれば猶のことかと思われます。
2021/4/14 13:31
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