この時期、戦争映画を掛けるのが恒例で今年は岡本喜八監督作「血と砂(1965)」が上映された。
終戦間近、日中戦争の最前線に駆り出された少年軍楽隊の軍楽兵たちと、彼らを"指揮"する上官たち。手にするのが武器ではなくチューバだのトロンボーンだのクラだのラッパだのという設定がまずイイ。
「カラス何故鳴くの〜」は初夏に観た「球形の荒野」でも効果的に使われていたが、本作ではその音楽の持つ力を十全に伝えている(「七つの子」)。
仲間が戦死し葬送曲として演奏したのは、サッチモも歌っていた黒人霊歌「Nobody Knows the Trouble I've Seen」。
犬山一等兵(出刃)役を演ずる佐藤允が現れると、顔そっくりな石崎の野郎をついつい思い出してしまう。親族か、と思えるほどに似ている。銃剣で刺されての死に際の科白が、何とも悲しい。
「お前ぇら、おかず抜きだっ!」
「葬儀屋」呼ばわりされる持田一等兵(伊藤雄之助)が、情が移りつつあった中国人捕虜をラストで撃ってしまうシーンが実に痛々しい。こういった構図の愛憎劇を数多生んだのが戦争という行為なのだから。
捕虜が終戦を伝えようとビラを手にして走ってきたところを撃たれたのもなお悲惨だった。こういった構図の愛憎劇を〜〜以下同文。
これを戦争映画の傑作と評する紹介文もある。私としては戦争の悲惨さを直截にではなく、音楽で上手く浮かび上がらせていることに成功した映画だと感じた。
戦争映画としてユニークな作りの「血と砂」は、見方によっては背景を「戦争」という"黒ペンキ"で塗り潰して「音楽」の真価を浮かび上がらせた話とも解釈できる。メキシコを旅した際にも感じた、あの浮き立つ心がここにもある。音楽は、信じるに値する尊いもの。
「戦争の仕方は教えたが、人の殺し方は教えてないぞ、俺は。」(小杉曹長;三船敏郎)
朝鮮人慰安婦役の団令子も、童貞の仲代達也も好演していた。
今週金曜まで。
【追】いや、やっぱ傑作!(2023.12.21)アヤちゃんに言おう。「木の伐り方を教えているんぢゃない、仕事の仕方を教えているんだ、俺は。」
いや、もう一歩! 「山仕事の仕方を教えているんぢゃない、生き方を教えているんぢゃ、俺は。」
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