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言わずもがな、冬季単独行で名を馳せた加藤文太郎【1905-36】の生涯を伝える物語である。小説の体を取ってはいるが、実際のところ奥方・下雅意花子氏や職場周辺からの聞き取りを元にしたノンフィクションに接近した話になっている。
まず私の中で、あの浜坂という地から不世出の単独行者が生まれた理由に興味があった。浜坂から一番近くの都市が同兵庫県内の神戸であり、そこに仕事を求めたことがまず第一。その神戸の裏山に六甲山地があったこと、その六甲山を足掛かりに高嶺を目指す気運が周囲にあったであろうこと（藤木九三のRCCの存在は作用したことだろう）、国内でのヒマラヤへの登竜門が北アルプスの厳冬期縦走という順序だったと読んだ。人的環境にも恵まれたようだ。
個人的に印象に残った件は、
�‥豕�帝大スキー山岳部OBパーティーとのマズい遣り取りだった【文庫本(上)P.358, l.5以降】。私もああいうことに成りそうな性格なので「判るなぁ、そうだよなぁ文ちゃん」と同情していたら、その諍いが文太郎を遭難から引き離した遠因になっていったのが強運というか。
�∋劼量震召涼覆埜�補に♂岩男、♀沢子が挙がったけれど、登志子に決まったこと。沢子は却下されて、登る志（こころざし）の子に！
先日入館の深田久弥や、浦松佐美太郎は1903年生であるから1905年生の文太郎とはほぼ同世代と言っていい。生きていたら日本のヒマラヤ登山界も多少なり影響を受けたかも知れない。が、岩登りもスキーも下手だと「ケルン」誌上で語ったそうなので、森田勝と同様の目に遭ったかも知れない。いや、日本登山界がヒマラヤを目指すにはまだ早い時代だ。亡くなった年、1936年が立教大のナンダ・コート初登頂なのだから。
食事や装備、行動の方法そしてビヴァーク訓練と独自の試行錯誤を重ねて冬山登山の可能性を独創性を以て押し拡げていった文太郎だったが、私の読後感は加藤文太郎はあと一歩のところで「孤高の人」に成り損ねた人物ではなかったか、という思いだ。辛辣に過ぎる言い様だろうか。
自分の登山を全うした点に於いては完全燃焼の登山家だったろう。それだけでもう、充分ぢゃぁないか。登山は極めて個人的な営為だと私なんかは思っているので。”周囲に迷惑が及ばないなら”人の目なんぞ気にせず好き勝手にやればいいんだ。
中三で「単独行」とはかなり早熟な学生だったんですね。また文太郎を贈ってくれる奥様というのもかなり特別なお方ですね。愛犬も、我々同様に地下足袋履きのことと思います。
若い頃は群れていないと不安で仕方なかったけれど、近年やっと群れずとも楽しむことが出来るようになりました。しかし、『孤独とは自由であり、自由であることは孤独を意味する』を理解する境地には、還暦過ぎた今もまだまだ至っておりません…😥
浜坂にある加藤文太郎記念図書館へ足を運んだ事があります。
そこには加藤文太郎が使っていた登山用具、写真、当時の新聞記事、そして加藤文太郎が知り合いに送った手紙などが展示されています。
手紙を読むと小説のような人見知り・変わり者というイメージはまるでなく、それどころか実は人間関係をとても大切にしていた好青年という印象を受け、ますます興味が湧いて来ました。
第三者が捉える為人というのは意外にも大事な点を掬い切れていないものなのでしょうね。文太郎が大変な愛妻家であった事からも、上手く意思疎通出来なかった時に諦めるでなく悔やんでいることからもヒトとの繋がりを大切にした人物なのだと感じました。
浜坂の記念図書館、昨年は寄れませんでしたが、遠からず訪問したいと思います。ありがとうございます。
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