8月19日、白馬大雪渓上部で、大雨(一日で118ミリ)による土石流に登山者がまきこまれた疑いが出て、捜索が始まっています。
ここでは、10日にも落石で40代の女性1人が亡くなっています。
亡くなったのは、私のカミさんの知り合いの方でした。
10日の場合は快晴の条件。やはり雪渓上部での事故でした。
杓子岳側から直径2メートルの岩などが落ちてきて、周囲のみなさんが声をあげて、その女性も回避しようと動いたそうです。ところが、岩は途中で他の岩にぶつかり、2つにわかれて襲いかかり、体にぶつかってしまいました。
医療を通じて患者さんの支援活動にとりくんでこられた方だったので、葬儀にはたくさんの患者さんたち、そして教えていた看護学生らも集っていたそうです。
山の事故は、亡くなられても、助かっても、記事に出るのは簡単なほんの数行のことです。しかし、そのときの経過や受けとめる人々の思いは、実に生々しく、そして深刻なものがあります。
この大雪渓は、毎年のように大きな落石、崩落事故が続いています。
雪渓に落石はつきものですが、白馬岳の場合は、稜線に合計で2000人を収容する大きな2つの山小屋があり、ピーク時期には雪渓を登山者が列をなして登り降りするのが、他の雪渓にはない条件です。世界でもここだけの状況かもしれません。
今度の2つのケースは、経験のある方々が事故に遭われているようです。しかし、ここには「落石」という言葉だけでは実際のイメージをもつのがむずかしい、多数のハイカーも入ります。
それだけに、落石は、この雪渓では高い確率で事故につながっています。
猿倉や、栂池、蓮華温泉の登山口には、たとえば剣沢にあるような事故や警戒情報の掲示板がありません。県警の登山情報も、つぎのようにはお知らせをしていますが、独特の危険性や事故情報はリアルに伝えられていないようです。
「白馬大雪渓、針ノ木雪渓など沢筋ルートに残雪あり。アイゼン等を準備して雪上スリップに注意。雪渓上では、音もなく落石があることから、常に上方への警戒が必要(特に白馬大雪渓)。」
どういう形が適切なのかは思いつきませんが、白馬大雪渓の場合は、自己責任だけでは解決できない独特の問題があると思います。激しく崩落を続ける山体のすぐ脇の雪渓が一般登山道とされ、そこに日本の夏山でも最大規模の登山者が殺到しています。危険度が大きい登山ルートが、オーバーユースになっているのは、ちょっと無理があるのではないでしょうか。
それなら、せめて、現況に対応する安全対策が必要です。
まず「落石」の危険と最近の生々しい事故情報を、登山口に掲示する。また、子どもさんや高齢の方などにはヘルメットの着用を奨励する。霧で見通しが利かない条件では、それなりの警戒をよびかける。・・・
私は、日本にも、県警サイドのものとは別に、事故にいたる前段階で対応する山の安全確保のための公的なガイド、案内、救助の体制がとられるべきだと思っています。こういう公的なガイドが雪渓の上下にいて注意を喚起したり、解説・情報提供をすすめるならば、この雪渓の事故の一定部分は、未然に防げるのではと思います。
また、事故情報も、今回は少なくとも4時間、発生がわかりませんでしたが、臨機に把握できるでしょう。
tanigawa http://trace.kinokoyama.net/
私は、山の安全確保はあくまで自己責任と考えています。
公的機関の安全確保といっても、他人に安全を確保してもらう事になります。
そうすると、判断責任を問われることが無いように入山規制をされることになります。
そうなれば、白馬の大雪渓は廃道にするしかありません。
いろいろな意見が出るのは、当然で、もっと議論されるべき問題と思います。
入山規制は、事故や崩落のたびに、これまでも実施されています。数年前には相当な長期間にわたって、実施されたこともありました。現場は、すでにそういう扱いをされています。
つまり、なんの指導・ガイドもなしに事故が起こるのと、通行止めになるのと、その両極端の繰り返しです。
谷川岳の登山条例のときは、私は、規制・禁止措置には反対でした。それは、冬季のあのエリアには、それに対応するだけの登山者しか入ろうとしなかったからです。
白馬大雪渓の場合は、危険度と登山者の質・量がまったくアンバランスです。
もしも杓子岳の崩落がよりひどくなるならば、将来的には、せめて、長次郎雪渓などのように、一般登山道扱いはやめることを検討するのも一つの策と思います。そうすれば、規制策は不要になるでしょう。
それでも入る人は自己責任です。
ですから「廃道」という問題にはなりません。
熟達者は、登山道の有無と関係なしに、谷に入ります。そういう扱いとするのも一つの方法です。
登山者一般に「おいで、おいで」をしておいて、実は年間に確実に落石事故を見込んでいるという実態が、異様なのです。
一列にならんだ雪渓上の登山者を落石が襲えば、かならず犠牲者は上積みされます。
長野県も国も、そういう判断を続けるならば、対応する安全策をもつべきです。県警では即、規制措置になってしまう(谷川岳と同様)場合があるので、公的な安全指導体制をと言っているわけです。これが現時点での対策です。
規制問題は、山岳団体にとっても、経過がある大事な問題です。事故・遭難を引き起こさない、そのための努力と体制を多方面からとる、それなしの固定した入山規制策は解決にならない、などが30年来の登山者側の要望です。ご理解ください。
19日の土石流の現場を、その日に通過した登山者が写した動画の映像が、20日昼のNHKニュースで流れていました。
豪雨の中の下山で、雪渓の上部の登山ルートは、まるで枝沢が増水して小滝が連続しているような状態でした。膝までつかったり、上体から水を浴びながら、登山者が下山していました。
映像には行動中の他の登山者も映っていましたので、一定数の登山者が、この日の条件で大雪渓を上り下りしたのだと想像されます。
ご記憶の方も多いと思いますが、この大雪渓は10年ほど前に、夏山シーズンの直前に大きな土石流を起こして、雪渓そのものが下部まで倒壊し、ほとんどひと夏の期間、通行止めになったことがあります。
谷とはそういうもの。雪渓とは一時の仮りの姿にすぎませんが、それが一般登山道とされて、極めて多数の登山者が上り下りするとなると、問題が違ってくると思います。
19日の天候と条件で、ここが「登山道」のない谷で、しかも経験者だけが入る谷の扱いのエリアであれば、おそらくこのルートからはごく一部のパーティーしか入下山を試みなかったのではないかと思います。
行動とルートの判断は、力量も経験もちがう登山者が各自でおこなうわけで、事故はパーフェクトに防ぐことは無理です。しかし、「この雪渓の事故の一定部分は、未然に防げるのではと思います」と最初に書いた状況が、今回もあったと感じています。
19日の場合も、山小屋の方などで、登山者に注意を喚起された方も、おそらくはおられたことでしょう。
当面のことで、長野県や地元自治体、山小屋経営者、ツアー会社の方に申し上げたいと、思っていることがあります。
それは、・・・もしもこれからも何の安全策も講じないのならば、大雪渓を売りにした呼び込みと同じ分量で、このルートの危険性の告知を、雪渓上に無数に散らばっている落石の写真とともにパンフや広告に出してほしいということです。
落石で落ちてくる岩は1メートルを超す場合がしばしばであること、雪渓上の落石は、音もなく襲いかかることが普通で、霧のなかでかわすことはもちろん、視界があってもかなり難しいことなど。
このルートに、年に万単位の人を上り下りさせるなら、それにふさわしい対策を、と思います。
今日になって「信濃毎日」の記事に気づいたのですが、22日付で、こんな記事が載ったそうです。
一部引用します。
http://www8.shinmai.co.jp/yama/2008/08/22_008167.html
「白馬大雪渓の入山禁止解除探る ルート再開に賛否両論」 08年8月22日(金)掲載
「土砂崩落のため北安曇郡白馬村が「入山禁止」を呼び掛けている北アルプス白馬大雪渓の登山道について、太田紘熙村長は21日、専門家による崩落現場の調査を早急に行い、安全確認ができ次第、解除する考えを示した。」
「村観光局によると、白馬大雪渓への入山者は7、8月だけで約1万人。・・同局の松沢晶二次長は「観光全体への波及を考えるとルート再開は早いほうがいい」と話し、太田村長は「再開を望む宿泊業者の声も聞く。・・・」とする。
「一方、10年余にわたり崩落現場一帯の地質調査をしている専修大学の苅谷愛彦准教授・・・は・・・20日、崩落現場を調査し、今後崩れる可能性のある土砂を現場上部で確認したといい、「あいまいな情報で登山者を招き入れることは危険。一帯の危険性を十分周知した上で再開すべきだ」と忠告している。」
という内容ですが、
最後の苅谷氏のコメントには、私は全面賛成です。
村の当局は、登山を観光産業の角度からだけ見ています。登山道を「開通」するならば、それと同時に安全対策(危険性とその対応)を周知徹底しなければならないのに、今回も観光・集客しか考えていない。登山基地の自治体としては、失格だと思います。長野県も同様。
開通は時間の問題ですが、このルートは今後、長期間、これまでの落石の問題にくわえて、大雨時の危険性もより強まっています。そのことを登山者にも、広報でも、きちんと徹底すべきと思います。
解除時点の措置、現況は次のようになりました。
ガイドの1人は、周囲を見渡せる位置から監視しているそうです。一般登山者にとっては、的確な注意喚起がなされると感じます。
しかし、立ち止まらないで、とはいっても、あそこはしばしば渋滞するんですよね。オーバーユース問題が、いま一つ、根本にあります。
今回の措置は、試行錯誤のなかで第一歩にものとなるように思います。
「周知方法は来年のシーズンを目途に検討」とあります。
一時的な対応にせずに、観光案内など呼び込み段階でも危険の周知徹底を期待します。
http://www.shinmai.co.jp/news/20080903/KT080903ASI000003000022.htm
「信濃毎日」 9月3日付
「アルプス白馬大雪渓(北安曇郡白馬村)の登山道の入山禁止措置が3日、解除された。」
「入山禁止解除に伴い配置された監視役の登山ガイド2人は午前7時前に現場に到着。迂回路の入り口と、途中の大きな岩の上に待機して、周囲を見渡した。登山者が来ると「立ち止まらないで通過してください」と声を掛けていた。落石を察知した場合は笛や声で周囲に知らせるという。」
「白馬村や専門家らでつくる検討委員会は2日に入山禁止措置解除を決定。今後、登山口にある猿倉荘や大雪渓下部にある白馬尻小屋など4カ所の山小屋は、大雨注意報などの気象情報を登山者に周知する態勢を整える。」
http://www.shinshu-liveon.jp/www/topics/node_85611
信州live on(提供:信濃毎日新聞)
「委員会は当初、一定量の雨が降った場合に登山者に入下山の自粛を勧告する方針を打ち出していたが、太田紘熙村長はこの日、「雨量による一律の基準をつくるより、山小屋経営者の経験則を踏まえて注意喚起した方が有効と判断した」と説明し、雨量に応じた入下山規制は行わないことを明らかにした。」
「現場では、崩れた登山道の替わりに、迂(う)回(かい)ルートを設ける作業が終わっており、当面は地元の山岳ガイド2人が落石の監視に当たる。また、村振興公社と白馬館(白馬村)が経営する4つの山小屋で、大雨注意報などの気象情報を登山者に知らせる態勢を整える。周知方法については、来年の夏山シーズンをめどに引き続き検討していくという」
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