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2020年05月03日 21:57山菜記全体に公開

 奥多摩 M集落跡に通って  1984〜7年の記録

 東京の立川、国立あたりの桜が満開になるのは、例年、四月初めのころになる。
 その桜 が満開になって、10日後になると、奥多摩のある駅前の小さな広場の桜が満開になる。
  ちょうど、そのころ、駅から高度差で三〇〇メートルばかり登ったMという集落で、伐採 跡の斜面のタラの木が、いっせいに、食べごろの芽をふくらませる。

 そのM集落跡のタラの芽を採りに、七〜八年間も、家族で、そして山菜好きのメンバーら と、通い続けた。

 最初に、そのタラの木の群生地を見つけたのは、まったくの偶然だった。
 長男が まだおむつをつけていたころ、四月中旬に家族三人で登山した(一九八四年四月 十五日)。
 沢ぞいの登山道は、キブシの花が見ごろで、水辺の若芽やコケの緑もみずみず しく、長男を背負って気持ち良く高度を上げていった。残雪の雑木林をぬけ、 滝をすぎ、伐採地の脇をのぼりつめると、山頂へ。

 下山は、小さな社のある尾根コース を選び、駅をめざした。タラの木の林を見つけたのは、その下山の途中でだった。

 下山の尾根道は、杉の植林が多くて変化が少ない。駅までもうひと下りのところ まできたところで、尾根の左手にグラウンド一個分ほどの伐採地が広がって いた。その伐採跡の斜面に、タラの木が見つかった。

 それは、鉛筆をわずかに太くした程度の、丈も三〇〜四〇センチしかない、タラの幼木だっ た。芽は、まだ時期が早くて、堅いつぼみのままだった。
 それに、木が若すぎるためか、 「青芽」ではなく「赤芽」だった。そのタラの幼木が、伐採跡の斜面全体に群生していた 。二〇〜三〇センチほどの間隔で、斜面が小さなタラの木で埋め尽くされているという感じだ った。

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 二週間後、職場のHさんと、ふたたびその斜面に出かけた。
 こんどは、タラの芽は伸び 過ぎていて、芽から出た茎、葉が完全に開いていた。「来年になったら、タラも育って、 きっとすごいことになるぞ」。

 そんなことを言いあって、斜面を下り、林の中の踏み跡を たどると、道は突然、人家の前に出た。よく見ると家は傾き、茅葺きの屋根からは雑草や 若木まで伸びている。人がいつごろ去ったのだろうか。

 あたりを見回すと、廃屋は四軒あ って、ほかにも家の取壊し跡や朽ち落ちた跡が二〜三軒あった。地図で確かめると、ここ には「M」という集落が記されていた。雨戸がない縁側から一軒の中をのぞくと、中央に 囲炉裏を切ってあり、土間もあって、農家風のつくりだった。

 M集落からは杉林のなかに、しっかりした作業道が続いていた。I谷にそって、その道を たどると、三〇分ほどでI川の沢床にできた広い川原に出た。堰堤でさえぎられた土砂が たまったところで、道はここから林道に変わって、古里(こり)の駅まで続いていた。
 途中、旦那さんと秋田からダンプの出稼ぎにきたというおばさんに出会ったが、かごの 中にはワラビやアケビの芽など、いろいろな山菜が収められていた。

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 翌年(1985年)は、Hさんと長男のTくん、おなじ職場のKさん夫妻、そし て私の長男とともに、勇んでM集落のタラの木林へと出かけた。駅から上がって 、途中、サンショウの葉を摘み、登山道をそれて踏み跡をたどり、M集落 に到達した。

 斜面に出てみて、驚いた。
 タラの木は、わずか1年で、1メートル前後の高さに伸びている。
  しかも、その密集度がすごい。数十センチの間隔でグラウンド一つ分ほどの斜面の、ほとんど 全体が、若いタラの木を埋め尽くされている。
 白い幹を直立させたタラの木が、暗い杉林を背景に群生してい る様は、異様でさえあった。芽も、やや小ぶりだけれど、もう十分な大きさだ。

 みんなで、それーっとばかりに、急な斜面にとりつき、タラの芽の収穫に狂奔した。中 腰になって四方に手を伸ばせば、それだけで四つも五つも、タラの芽に手が届き、収穫で きる。
 懸命になっているうちに長男(まだ二歳半で、よちよち歩き)と距離があいてしま い、泣かれそうになったり、頬をタラの刺で傷つけてしまったりしたけれど、……。

 そして、翌年、すでに倒壊がすすんででいたこの集落跡はの人家は、全戸が倒壊してしまい、草が伸びた畑も、森のなかに融け込んでいった。
 私たちは、その後、4〜5年の間、巨木化がすすむタラの林で、タラの芽を収穫した。
 通い出してから6,7年目、集落のタラの芽林は、つた植物や、他の樹種に逆に圧倒されるようになり、その後しばらくで、タラの林は森のなかに融け込んでいった。
 


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M集落跡  その2

2000・4・6 
 
まず、時期のことですが、以前の発言(展望の広場♯13372など)に書いたように、東京 の桜の開花宣言から数日して、中央線国立駅前の桜が満開になりま す。そして、それから10日後に、標高600メートル前後の奥多 摩・M集落跡のタラの芽が「食べごろ」を迎えます。
(この時期の天候・気温によって、若干の前後あり)
 以下に、昨年分のデータも補充して、表を示します。

年 桜の 国立駅 M集落跡のタラ 道志のタラ   備考
開花日 満開日(日付は訪問日)(標高800)(多摩西部気候)
84 4/11 4/25180%        3月4回降雪
85 4/03 4/24170%
86 4/03 4/20110%        3月下旬に雪
87 3/23 4/19120%
88 4/03 4/09 4/21130%       4月下旬高尾山雪
89 3/20 4/01 4/12100%
90 3/20 3/25 4/06 70%
91 3/30 4/06 4/12 60%
92 3/24 3/31 4/12 70%        4月低温
93 3/24 4/02       4/23100% 4月やや低温
94 3/31 4/06        4/24 90% 3月低く4/3降雪
95 3/31 4/09        4/25130%
96 3/31 4/09 4/29120% 4月12年ぶり低温
97 3/21 4/01 4/19130% 3月記録的高温
98 3/27 4/02 4/24110% 3月〜史上最高温
99 3/24 4/02 4/21 90%
00 3/30

 今朝、電車で見てきましたら、国立駅の桜は8分咲きでした。満開 を明日(4月7日)とすると、奥多摩の中腹のタラの芽は、今年は4 月17日ごろ、採りごろを迎えると思います。
 はっぴいえんどさんが、「2週間早い」と予測されたのは、ほぼ正 確だと思います。実は、この時期になってようやく、奥多摩の沿線の 桜は満開を迎え、これがタラの芽の時期を知るもう一つの目安になり ます。来週の月曜日(10日)に再挑戦とのことですが、それでも数 日、早いと思いますよ。
 我が家の庭のタラの芽も、2日から採りごろに入ったばかりです。

 私のHPの峰の集落についての「フィールド・ガイド」にも書いてい るのですが、
 「M集落跡の伐採地のタラの芽が全盛をほこっていたのは、1980年代 後半です。90年代以降は、他の潅木と樹林に植生が遷移しており、 往時の収穫は望めません。山の斜面は、小規模なタラの生育地な ら、あちこちにありますので、登山の途中で楽しむというのがいいで しょう。」
 というのが現況です。

 このほか、丹沢・道志方面にいい地域があります。よろしかった ら、こちらはメールでお知らせします。

 山菜採りの途中で雨が降ってきて、T字路のところの廃屋で雨宿りさ せていただいたことがあります。当時は、その後にくらべれば、建物 は入っても倒壊の危険を感じることはありませんでした。
 そのときに、1960年代のものと思われる雑誌や、子どもの本、 学校のテキストなどが床にありました。
 あんなさびしいところに、7,8戸の家が寄り添って、力を合わせ て暮らしていたというのは、なかなか感慨深いものがありました。子 どもも毎日、行き来していたんですね。きっと、根性と 体力のある人になっておられるでしょう。

 
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コメント

千と千尋の
なんか、山菜版千と千尋の神隠しみたいですね。
山菜を夢中で摘んでいたら豚になってしまうとかwww
2020/5/4 14:58
Re: 千と千尋の
  bmさん、山に登ると、登山口、そして下山口近くで、その地域ならでの集落に出会うことがあります。M集落は、戸数が5,6戸まで減ったところで、廃村となり、私たちが入ったときは、最後の2,3戸が撤収・退去した様子が、まざまざと残っっている時期でした。

 斜面を開墾した畑は、区画の跡が残っていたし、廃屋のうち2戸ほどは、雨が降ったら一時、雨宿りできる程度の、壊れかたでした。

 これが決して特別な例ではありません。高度成長時代の一方で、山村は廃村がすすんだし、実は今は、あの時期をはるかににしのぐ、山里消失の時代だと思います。

 私の最初の大きな登山は、飯豊連峰の縦走でした。里へ下りてきて、もうバスに間に合わない、ここで路傍に寝ようか、というところで、地元のおばさんに停留所まで送っていただきました。
 山里があって、山があり生活がある。
 登山の世界も、さらに変わろうとしていますが、私は、それぞれの地域の変貌、苦闘も感じながら、記憶に残しながら、山へ入って行きたいと思います。
 
2020/5/4 18:51
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