10年あまり前、奥利根へ山菜採りに行ったさい、帰りに温泉 によってひと風呂浴びてきた。
Tさんは、私たちのメンバーのHさんの山中間、風呂で汗を流したあとは、お茶と漬物で私たちを歓待してくだ さった。
ネマガリダケをゆでて味噌で食べるもの、ウドとワラビなど地元のいろいろな漬 物、ひたしなどといっしょに出されたのが、濃い緑色のおひたしだった。
独特の香 り、口の中でしゃっきと歯ごたえのある太めの茎、山の香りをいっぱいに吸って 育った、個性的な山菜だった。
「初めてですよ。この山菜は。なんていうんです か?」
「ヨブスマソウっていうんです。ヨブスマっていうのは、コウモリのことで す。コウモリが羽根を広げたような葉の形をしているんです」。
Tさんが「裏手に現物が育っていますから、見てみますか?」いう。
「行こう行こう!」とみんながその気になったことをふりかえっても、ヨブスマソウ は、初めて口にした私たちをすっかり魅了したんだなあ、と思ってしまう。
それほ どに、個性的な、独特の味と香りをもった山菜だった。
ヨブスマソウは、秋田県あたりでは、ホンナと呼ばれるそうだ。
茎が太くて、中 空で、折り取るときに「ポン!」といい音を立てるから「ポンナ」、転じて「ホンナ」と も呼ばれるようになったという説もある。
飽きがこないし、うまみも濃い。「ホンナ」と いう名前は「本菜」とも読めて、山菜中の山菜と呼称されているようにも受け取れ る。実際、収穫の量でも、雪国の沢筋などで、ごくありきたりの山菜であり、図体 も大きく、かなりの量を安定して得ることができる。
ヨブスマソウには類種があって、その小さな仲間に奥秩父・笠取山のふもと、一 ノ瀬の集落の沢筋で出会ったことがあった。小さくても味と香りはなつかしいあの ヨブスマソウのものだった。
3年前の5月、まだ残雪が多い福島の幕川温泉へ、母と行ったときのこと、温泉 の宿から幕滝へ降りていく急な斜面に、生え出してこれから伸びようという、若い ヨブスマソウの群落を見つけた。福島では、この山菜を食べる習慣はほとんどな くて、母も「だいじょうぶか?」と心配の声を上げた。
一口食べたが、初めての味は個性的すぎたか、首をかしげていた。
また出会いたいヨブスマソウ。今度は、高さ1メートルにも育った大きな群落に出 会いたいと思っている。(2004年記)
関連ページ ヨブスマソウと イヌドウナの違い
https://www.yamareco.com/modules/diary/990-detail-53655
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