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著者の内田氏が、美濃の岐阜県立森林文化アカデミー教官当時に門下の学生(とはいっても一度社会に出て戻ってきたオッサン)達とスウェーデン、オーストリアの林業現場や教育機関を巡り、現地林業の今を知ると同時に現行の日本林業界に立ちはだかる問題点を炙り出すことを試みた林業研修記録である。見知った名前もチラホラとある。長野市の出版社の本。
短い期間に体験した密度高い見聞を、仔細漏らさず記載し、日本林業との比較の下で考察を加えている。
地勢も日照時間も違う、彼の地の生育環境から天然下種更新が見込める(皆伐、更新伐跡地に苗木を植えなくても自然に高木性種の木が生えてくる)下地での日本との比較ではハンデが大き過ぎるが、それはさて置き。
読点のやや多いこの文章が、日本林業行政に対して何を申し伝えたいのか、問題点としているのは何なのかを端的に言えば
日本林業は「片輪走行」である
というのが私なりの解釈である。総じて同感である。
スウェーデンで林業に従事する人達は、高校時分から林学を学び、その上で大学の専攻科に進学した上で学業を修めてようやく「現場作業員」として活躍している。別方面に一旦就職して改めて林業を志す人も、等しく高校レベルの座学に始まり先に記した同じ道を通って”誇り高い”林業と言うナリワイにありつく仕組みがある。
かたや日本はといえば、第一次産業に対する社会の理解の低さから農林高校は積極的評価もされ難く、林業知識はないけれど自然が好きで意欲もある若者オッサン達を雇用制度等を活用して現場の即戦力となるべく呼び込み、森林生態学も何も無い薄〜い座学の上で刈払機とチェーンソーの講習を行い、特別教育、安全衛生法規上の「通るべき路」のみ通って、下刈りと伐り捨て間伐の実技を受けて過酷な現場へと散ってゆく。散ってゆく！
また、林業界を統括する林野庁、県庁職員、各種教育機関に属する職員はといえば、チェーンソーの始動はおろか伐倒経験も無い。遮るものの無い皆伐跡地でギラギラの日射に炙られて刈払機握って一日作業をした経験もない。キツイキケンキタナイの現場作業の体験も無いのに、作業員に対する敬意が生じるはずもない。
正に「水と油」。お互いが信頼関係を持って協調して運ぶべき仕事なのだが。
内田健一氏は1967年神奈川県生まれで信州大学農学部林学科卒。名物教官、島��洋路氏の薫陶を受ける。森林開発公団職員の後、信大の修士課程に戻った後に伊那谷の森林組合等で現場作業員として林業に従事。その経歴を買われ2001−2005年にかけてアカデミー講師、助教授(岐阜県職員)として、現場色を強く打ち出した講義をおこなって、アカデミー内で顰蹙を買ったと本にある。
信大山岳部卒で8000ｍ峰の一座ブロードピーク登頂、1996年ラトナチュリ(7128ｍ)初登頂と、国立大学山岳部出身者としては出色の経歴といえる。その後、花谷泰広、横山勝丘両氏といった今を時めくクライマーを輩出する系譜の一端を担っている。
私事だが、今でこそ林業事業体の事務職員で補助金申請業務や測量業務、山林所有者対応等々を職務としているが、入社時は「男の」現場作業員として、面接もすっ飛ばした第一日目から奥山の大径木伐採現場に放り込まれて、直牽きのチルホール牽引をやらされた！経験が、今日と言う日の始まりだった。（その現場に、本にも登場するS氏が請負業者の枝払い要員として居たのは単なる偶然なのだが、今や彼も○●になってしまった。）大学山岳部で教わった山登り沢登り技術のおかげで持って、何とかかんとか重大な労働災害に被災することなくこれまでやってこられた。
職歴は、現場5年と8ケ月、事務職3年9ケ月。秋でようよう10年になる。私の親方に云わせりゃ「ヒヨッコ」みたいなもんだ。
内田氏や私のような、現場「経験」があって且つ林業行政に対する最新の「知識」を吸収しようと努める林業家はハッキリ言って極めて少数派である。
おいっ、片輪走行で何処へ行く？
翻って弊社内事情はどうかといえば、社長を筆頭にやたらと頭の切れる人物が多く(今日日の林業事業体は他所もそうなのかな？)、加えて岐阜大学農学部林学科修士課程卒にはじまり岡山理科大だの、山梨大、酪農学園大卒だの、留学経験ありで英語・スペイン語堪能だの、本人は中卒ながらも大阪大学現役入学してしまうような息子を持つキレキレオジサンだのと、私なぞ日々あっけなく論破されてしまうクチなので中々やり辛い。
新聞やテレビその他メディアから得られる情報に精通し、有能優秀な知人からの提供情報もフリカケて「TPPがあーだこーだ」だから「林業界には先が無い」といったステレオタイプ、または「この会社は社長一代で終わりだ」と。断片的な知識や情報は、時代と共に陳腐化しやすい。
手渡された専門書一冊読んで帰ってきた言葉が「森林作業道って所詮○○方式踏襲していけばオールOKっしょ！」では、大橋オジサンに呆れられっちゃうよ。オレだって呆れる。
林業の未来を語るなら、もっと貪欲に最先端の林業情報林業知識を吸収しなければ将来分析までは語れないだろう。林業界から見た自社の現在地(得手不得手)、自分の立つ位置を客観視して正確に把握できているのか。今の自分に最大限何ができるのか。会社にとっての価値を生む今の自分の仕事は何か、自分の頭で考えなくては。でないと何をやっても面白くない。
【それにしても「他人の褌で」以前に、どこかの誰ぞかに自分の人生を明るく楽しく幸せに「して貰える」と勘違いしている手合いが私の周囲には多過ぎる。】
所謂賢い人物が如何にも陥り易い罠である。知識・情報と経験とをゴッチャにする。下手をすると知識を経験と勘違いする手合いまで現れる。これがまた厄介だ。
謙虚さの無い手合いは、労災という形で自然から手厳しい仕打ちを受けるのを目の当たりにしたことがあるからそう思うのだ。
林業行政に携わるならば、木を伐れるくらいの経験あって罰は当たらない。
林業現場に居るならば、樹種くらいは見分けられないと。資格だけ取って安心していてはいけない。
ましてや、慢心など以ての外。
そう、我々の経験は、乏し過ぎる。
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