□白「鍵盤上のU.S.A.--ジャズピアニスト・エレジー アメリカ編」(小学館)
■□ピアノの黒白鍵盤を模した上下巻の、ピアニスト南博のジャズ青春記。
ジャズ関連本でこれくらい面白く読めたのは久方振りの事だった。
本を面白く読んだのは「七帝柔道記」以来のこと。
■黒は、バブル景気に浮かれる銀座の街で、バンドマスターやキャバレーのチャンネー、ヤクザの兄さん方にも揉まれ揉まれた成長記。出自からアメリカへと旅立つまで。
□白は、銀座で稼いだ銭を首にぶら下げ「Jazz country」本場アメリカへジャズ武者修行へ。帯には「ビルドゥングスロマン」とあり、何のことかと思えば【Bildungsroman(独)】→教養小説とあり、要は最初はガキだった主人公が、周囲の人々との関わりの中で、だんだん大人になっていく成長物語とのこと。教養小説ぅ?
印象に残るフレーズが幾つもあり、それらが体験から捻り出されたものだけあって大いに笑ったり、深く頷いたりできる。
また、特別な人物との邂逅を通じて受けた影響のその深さ、衝撃度を感情過多に陥らないよう上手く表現している。
■それは黒で、東京藝大で教鞭も執った作曲家・宅孝二氏との出会い。
□それは白で、スティーブ・キューンとの出会い。
スティーブ・キューンは、私の大好きなバリトンサックス奏者であるサージ・チャロフの母マーガレットから教えを受けており、ボストンジャズと無縁ではないのだろう。ハーバード大卒で、ジャズピアニストに。
南博の学んだバークリー音楽大学(大西順子もここ出身)もボストンにあり、南氏がスティーブ・キューンのライブを聴きに行ったケンブリッジにあるチャールズホテルのレガッタバーの話は、村上春樹の『やがて哀しき外国語』『東京奇譚集(再録)』にも登場する。
スティーブ・キューンから南氏が掛けられた言葉。
「君は正しい方向に向っている」
「ヒロシ、君のピアノを聴いて、私が『ピアノを教える』という行為ができるとするならば、今やっているような、ピアノという楽器の持つ可能性を指し示すことが、多分私ができる、ベストのことだとは思うのだが。遠く日本からわざわざ私に会いに来てくれてありがとう。君のピアノの音を聴けば、君がどういう経緯でピアノと言う楽器に対峙してきたか、私には良くわかるのだよ。ピアノを弾くことによって生じる、悲しいこともあったろう。しかし、君のピアノの音の中にはまだ可能性が潜んでいる。私にできることは君に音階の使い方を教えることでもなければ練習方法を教えることでもない。そう感じたのだ。そんなこと、実際君はもう知っている筈ではないかね。私が今日君に指し示すことができること、それはピアノという楽器が持つ、未知なる可能性だ。」
読んで面白いので、新潮文庫の100冊にでもなるといいのにと思っていたら、どうやら小学館文庫にはなっていた模様。
面白がるのは良いとして、何としたことか南博のディスクを一枚として持っていないことに気付いた。妙なプレミアが付いたCDを記憶するが。
ので、何か買って聞いてみよう。
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