『天然の旅情の赴くまま、旅を愛し、酒を愛し、女を愛して、無頼奔放にしかも豪胆に転々流浪する男の浪漫。』
「僕ァ、恵さんと”事”を起こしたからね。それだけは言っておきます。」
何もそう事を荒立てなくても・・・・。いや、こう高らかに宣言して初めて「火宅」の土俵に上がれるのだ。
主人公;桂が緒形拳、細君ヨリ子がいしだあゆみ、矢島恵子が原田美枝子で葉子が松坂慶子という配役。
矢島恵子の配役を誰にするのかがこの映画の「肝」の一つだろうが、黒木瞳では豊満さが足りずまた、葉月里緒奈や沢尻エリカでは愛嬌に不足あり、今の時代ならばう〜ん、綾瀬はるかも違うし(出るなら葉子役だ)どうしても長澤まさみになってしまおうか?いや違う、う〜ん、原田美恵子しかないのか、やはり。個人的感想として今一つ恵子に感情移入できなかったのが悔やまれる。
警察署でヨリ子と鉢合わせになった恵子が、デコを叩(はた)かれるシーンで大いに笑った。
桂との迫真の喧嘩シーン(と濡れ場)が評価を受けたのだろうきっと、原田美恵子氏は第10回日本アカデミー賞/最優秀助演女優賞、第11回報知映画賞/最優秀助演女優賞を受賞との事。ガラスの割れ方なんか出色だった。
実は前週に同劇場で「青春の門」を観ており、その劇中での松坂慶子にイってしまった私にとって、原田美枝子よりも松坂慶子に関心が大いに傾いてしまった。
性的虐待を受けた辛い過去の体験も(呆気らかんと、ではなく)アッサリと吐露してしまう葉子の性格と、深作欣二と深い仲になったのも天然の性質由来であろう本人そもそもの性格とがしっくり噛み合って違和感なく感じられた好演だった。(割れた窓ガラス越しの松坂氏の面立ちが、綾瀬はるかと重なった。)
原本ではどういう設定だったか、確認しようと「火宅の人(下)」を適当に開いて見たらそこがズバリ当の項だった一昨日の夜。
社の軒を借りての焚火?で暖を取りつつの性交シーンに、奥さん連れの隣のオジサン共々ウットリする。
これまた原本には無かったが、葉子の養父である山谷初男が沖縄出身の設定で「ジントヨー」を唄うシーンにジントキタヨー。葉子に「せからしかぁ!」とか言われてしまうんだけれど。葉子の母含めた五島列島の小島での生活を思うと、昨晩観たNHKの「縮小ニッポンの衝撃」同様に、背筋に薄ら寒いモノを感じた。
また、いしだあゆみも適役だった。本には無かった、次郎の日本脳炎後の障害からの快癒祈願し新興宗教に傾倒する様が容貌とマッチし、また主人と子等に挟まれた悩ましくも気丈な母を好演していた。
将来への多少の明るさを残して終劇し、原本よりも好ましいエンディングに思えた。
『寂寞』で終わっていないところが。
しかし、この映画の出だしに桂一雄の母親役で出演した、実の娘でもある壇ふみの心情たるや、如何ばかりのものか?
それらを押しても「素晴らしい人生だったわね、チチ」と言うんだろう、きっと。
柳ケ瀬のロイヤル劇場。まだあったんですね。
「火宅の土俵」に登るとは、この世知辛い娑婆での「勝負」を言うのでしょうか。気にいりました。いい言葉です。
15年ぐらい前にロイヤルで永嶋敏行の青成瓢吉、お袖が松坂慶子の「人生劇場」を観たことを思い出しました。監督はやはり深作欣二です。
ロイヤル劇場、イイです。
今回深作欣二特集ということでこれら二作品が上映されたのでしたが「人生劇場」も観て見たいです。これには巨匠・内田吐夢監督版もあるそうですね。それこそ観たい!
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する