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老眼が進んで以降、元より少ない読書欲が更に目減りした中での読了だった。
★「シャトゥーン ヒグマの森」(宝島社文庫)
後世に残るであろう「七帝柔道記」を著した、かの増田俊也氏の出世作であり渾身の一作である。
2006年第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作で「ミステリーって何？」レベルの私でも大いに楽しんだ、いや戦慄した。
解説に夢枕獏氏が書いているように、野生動物戦慄モノというジャンルがあるならば筆頭に上るのはやはり吉村昭「羆嵐」だろう。
何しろ傑作の証拠に、題が二文字だ。
1915年に北海道苫前郡苫前村三毛別で実際に発生した「三毛別羆事件」をモデルにしたこの作品を、私は1989年末の探検部活動サロベツ原野橇縦走時に豊岡のび太氏に借りて読んだ。この原野から僅か100km弱真南に下った場所で、そう遠くない昔に実際起こった出来事だと思うと、雪原での露営中も利尻岳を左に観た原野北上行動中でも物音がすれば厭でも警戒してしまった。
薄れてしまったあの人喰い羆の衝撃を、再びまた呼び起こすに十分な気魄感じる物語だった。
道産子が「山オヤジ」と愛嬌を込めて呼ぶ羆(ヒグマ)だが、私が10年10月暮らした体感では小説から感じられた危機をそこに暮らす道民が等しく共有している風にはどうにも見えなかった。茶目な？CMもまたそれを助長していた。
筆者増田氏は、入学時にはホッキョクグマの生態研究者を志して羆研にも入りたかったけれど柔道部の猛烈激烈練習により兼部を断念したそうである。結果、その筆者の思いが寝技柔道を乗り越えた上で昇華した作品といえよう。
北大の中で「クマ研」は一等名の通った部で、私ですら入部前からその名を知っていた位だからして、その手の興味関心強い学生向きには垂涎の部、だったかもしれない。北大と言えばクマ研、と。
もう一つクマ研話で聞いたのは「クマ研なのに、実際に山で羆を見た事が無い者も実は多い」というものだった。
探検部入部の後に移った山岳部で、飲み会の場で私に「羆に会いたきゃ、クマ研ぢゃなくウチだ」と言ったのはキンタさんだったか？
山岳部での定説として、日高、知床、そして道南の山に羆は多く遭遇率も高い、と。
またこれは隣のワンゲル部に居た後の朋友、生野の徹真氏なのだが、やたらに遭遇率の高い個人というのも特異的に存在するようだった。腋からアソコから、特有の何かが分泌されていたのか「もう、ええ加減要らんでぇ。」と独り言つテッチンも今や僧侶。
私も多くも無いけれど少なくも無いだろう。凡そ10年で四度遭った、いや会った。合った？
��1990年6月、北部日高山脈稜線上にて。超至近距離にて私は未見ながら後続の山崎の言で体長2ｍ以上、バイクのスピードで這松漕いで逃げて行った、と。
��1990年8月、日高山脈北部札内川十ノ沢カール雪渓上に500ｍ以上離れた稜線上より視認。一同喜ぶ(サイト氏談)。
��1999年7月、知床半島サシルイ川源頭下降中の雪渓上曲がり角で遭遇、幸いにして向こうは気付かず我々は抜き足で戻って別の沢を下る。
��1999年8月、日高山脈南部、下山後のヌピナイ林道上で木登り仔羆に遭遇するも難無く逃げて行った。
上で四度と言っておきながら、過去記録を読み返すともう一件アリ。
��1998年7月17日、大雪の温泉小屋跡地へのワセダ沢源頭下降時に、子連れの熊と鉢合わせたとある。同行の石崎もフェロモン系で要らん程羆とは遭っているという。
幸いにして抑え込まれる場面にはならずに済んだ。ま、そう来たら得意の巴投げでポーンと投げとったけど。えっ、カメになれ？
本題に戻ると、読んで手に汗握った。
●「いい加減にして！どうしてそんなにしつこいの！」
他、体感も無くここまで書けるのか？書いちゃうの？という件もある。ギンコに寝技掛けられて、その多量の涎で息ができなくなる件とか、ダニと臭い籠った冬眠穴に入り込んで「戦闘」とは、女の薫だからこそできた事か。それも彫刻刀で戦うかよ！
●熊スプレーが結末で重要なアイテムに成り得るのは、澤田実著「体験的登山技術論(ヤマケイ新書)」からもその根拠の一端が伺える（あ、連載は読んでたけど未だ本買ってません）。
●「美々」とした姪の名前を札幌近郊の美々川から採ったと書いているが、現地読みからすれば「vivi」になる。でも「mimi」だろう。いや、びび？
●チェーンソーの扱いについてだが、日頃から使用し慣らしてあるチェーンソーですら、他機種だったりすれば慣れた者にとってもあの低温下の緊張状況で始動させるのはかなりの難事である。ましてや触った事も無い人間が、初見でかかりの悪いチェーンソーを始動出来る可能性は限りなくゼロに近い。知らない人にはリアリティの無い話だからまあ、看過するべぇか。
●雪山での幕営の件はちょっと弱い。偶然学食で席を隣りくしたyoneyama氏に習っておいたイグルー技で凌いだ、位の先見性があったら作品精度は格段に上がったことだらう。また焚火も出来たら良かったのにね。天塩演習林で二次遷移林とあるなら所謂「天然林」で、生物多様性の観点から枯れ木もそのまま手を付けずに立木として置いてあるはずなので、武器として携行した斧で枯木の芯を小割にして、カンバの樹皮の焚きつけもあるだろうからあとはやはり鋸とライターとなるか。この厳寒の状況下で、火の気のない3、4日の雪中行はちょっと現実的に無い。
●またしても昭・薫兄妹が修猷館高校卒の設定になっている。柔道部同期だった沢田青年が余程の事印象深かったのだろう。
●講座先輩に紹介された演習林の先生に夏目という姓の方が居たけれど、増田氏と面識があったのかも知れないが、何年か前に若くして癌で亡くなったと聞いた。
●終章７で、死んだとばかり思って(思わされて)いた兄、昭が勇躍ブルドーザーで助けに還って来たと思いきや、その僅か20頁後のもうあと8頁で物語が終わるのに〜、といった折も折に逝ってしまうわ、再び現れた助手席に座る西の動向にも気を削がれたが、あんなにも非人道的物言いをしてしまったからには因果応報の範疇での帰結ともいえる。
増田氏は昨年2016年4月末日で25年間勤めた中日新聞社を早期退職し、作家生活に入ったとあるので、この話や七帝柔道記なんかは仕事の傍らの著述だったのね。
月刊武道2015.10によると、どうやら私の暮らす街からもそうは遠くない街にお住いの様だ。私の言う、面白可笑しな人種を産する「特異点」？いやホットスポットだ。
この本を読んで、吉村昭「羆嵐」以上に思い出したのが、松田宏也氏の「ミニヤコンカ奇跡の生還」だ。
登山者必読の書といって差し支えない。
フィクション、ノンフィクションの違いあれど、両者共に真の生還劇である。
なるほど、二文字題名は傑作なんだ。macchanの二文字はどっかに置いといて、「破獄」や「漂流」も二文字だったな。「漂流」は映画で観たが、坂上二郎が渋い演技をしていた。
maasuke1様
吉村作品に二文字物は割にありますね。角幡君の「漂流」も傑作らしいデス。
我らがロイヤルで「漂流」辺りやってくれると私は嬉しい。今だとDVD買って家で観る時代なんでしょうか？
残念ながら、私にはない。つい今しがた、ここにいたという真新しい足跡とかは見ているのだけどね。
一人で沢に入る準備をしている際に、漁師に「熊に遭遇するから、やめとけ。」という必死の説得され、それを振り切って知床岳に行った時も、近くにかなり濃厚な気配は感じだのだけど、結局会うことはなかった。
また、今年のGWは原始が原に泊まったのだけど、翌朝、少し離れた位置に親子の足跡が残っていた。クマ除けとして焚火をしてなかったら、夜中にご訪問を受けたかも知れない。
そりゃ、山の中で熊に遭遇しない方がいいのだけど、「山岳部だったら、熊にも会っているのでしょう？」と聞かれて、「会った事がない。」と答える時、何だかちょっと悔しいのだ。
同じように、ついぞ熊を見ることが出来なかったイワセさんが卒業間際に、ラストチャンスとして知床にいった際、同行していたキンタさんが、クマよけにコールすると、ぐっと睨んだという話を聞いた事があるが、よくわかる気がする。
羆の真の恐怖を何処に置くかになるのでしょうが、正直なところ私にしたところで「羆の方が逃げて行ってくれる」という勝手な強い思い込みがあったからこそ単独で北海道の沢にも行けていましたが、福岡大WV部のような荷の取り合い事態になったら只では済んでいないと思います。
オヤジの住まない内地に戻って振り返り、真近で見られた上に被害無しと言うのは単に運が良かっただけの話と今にして思います。
キンタ氏を 睨むイワセ氏 逃げるクマ
岩下志麻の「雪国」以来、久しぶりに柳ケ瀬をあるいてみた。ロイヤルでは「サザエさん」をやっていたが看板を見ただけで、立ち飲みパーラー「ニューナガズミ」で一杯やって帰ってきた。
岐阜邦画名作専門館最後の砦「ロイヤル」ぐらいは、軟派ミーハーに迎合して欲しくないのだが、彼らにも家族と生活があるのだろう。五百円では芸術云々を議論できる立場にない。
「破獄」を、主役に若い頃の三国連太郎かビートたけしで深作欣二が撮っていたら面白いものが出来たと思うのだが。欣ちゃんはヤクザ専門だったか。
maasuke1 様
立ち飲み一杯、好ましい週末ですね。
サザエさんに食指の動こうものも無いですが、来週から山崎豊子原作モノなので私は楽しみです。
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