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西木正明著「夢幻の山旅」を読了した。
画家であり作家で、かつまた山師でもあった辻一(まこと)【1913-1975】の生涯を追った、ほぼノンフィクションと言って差し支えない作品で、新田次郎賞受賞作である。
著者の西木氏は早稲田の探検部OBなので、高野秀行氏や角幡唯介氏の先輩に当たる。
数奇な人生というには語弊があるか、波乱に富んだ人生を送らざるを得なかった、時代の人だった。
この本を手にしたきっかけは、服部文祥氏の「狩猟文学マスターピース」だったはずだ。
画文集「山の声」を入手して読みかけるも、まずは文に差し挟まれる鉄筆で描いたような勢いある絵に魅入られた。
私が個人的に関心を寄せている角間渓谷を舞台にした話あり、人生そのものの迂遠ながらも的を射たモノの書き様といい、その絵といい確かに気を惹く人物である。
かつての岳人誌の表紙を担当したこともある。
学校へもろくすっぽ通わず、15で親父と巴里へ。11ヶ月程滞在して、画家志望だった辻はルーブルでドラクロワの絵に伸されたとのこと。
父、辻潤の薫陶あっての早熟故だろうか、影のある「よかにせ」を女共が放っておかない?
尚、辻まことの母である伊藤野枝は甘粕事件で出奔先の大杉栄とともに殺害されている。
母に見捨てられ屈折した思いが、上原フミ子に始まり大杉魔子にイヴォンヌ、松本良子に小原院陽子、後に『辻まことの世界』をものする矢内原伊作の恋人だった吉田瀬津子を愛人としたり、これは最早時代なんだろうか。需要と供給。
華々しい女性遍歴で想起したのが「火宅の人」檀一雄氏【1912-1976】だったが、匂いとおりにほぼ同年生、没年に至っては年を跨いでひと月と違わない!
オマケに檀氏が晩年に暮らした能古島と、辻氏の母・伊藤野枝の実家のある今宿は指呼の間である。
死因は癌性の肝硬変と発表されたが、真実は縊死であったという。
そのまことの死から一年余りで妻良子も胃癌で亡くなっている。
お二人の墓は、娘直生氏によって福島県双葉郡の寺に建立された。
いつか、オトカム氏の墓を訪れたいと思う。
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