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主人公たる神田道夫氏は1949年12月生まれの熱気球冒険家で、公務員という立場で冒険家をも名乗れる奇特な人物だ。いや、だった。私見だが、この1949年生にも不思議と印象的な人物が多いと思う。
神田氏の熱気球冒険譚は、角幡唯介氏「探検家の憂鬱」の「グッバイバルーン」で予備知識は得ていた。
私個人が空の世界の経験を持たないこと、またその愛好者の人口の裾野の狭さからその熱気球世界の広がりについては想像の域を出ないが、垂直方向の幅は山の世界を凌ぐもので、筆者石川氏が同行した2004年の失敗記にあった高度8000mから0mへの落下の後の遭難救助記は眩暈がするほどの振幅である。天と地、いや天と海程の落差というべきか。
高度世界記録の12,910m何て、一体どんな世界なのだろう？ 飛行機で飛んで見ているよっていうのは無しにして、地上の6分の1の気圧、気温マイナス50度以下の成層圏を、籐のゴンドラで体感するなんて、尋常でない。アイカツ風に言えば「穏やかぢゃない」。
本は、著者と神田氏の関りから始まり熱気球とは何ぞや、そして神田氏の華々しい記録を順を追って解説している。富士越え、北ア越え、高度世界記録、長距離世界記録、滞空時間世界記録、そしてナンガ越え。
以下、印象に残った点を列記する。
●18世紀末に気球という乗り物を作り出したことにより、人類は足を地に着けることなく、垂直に地上を俯瞰する新しい視点獲得することになった。これは、水平方向に慣れた自分たちの目線を、垂直方向へと向かわせる点において、人類の視覚的な進化の一つだといえるだろう。【P.46】
〇日本の近代気球の歴史の中で、私も一時属した北大探検部が登場する。これについては先輩から聞いたことがあるが、京大との共同制作だったとはここで知った。【P.49】
〇バルーンスパイダーというクモが存在する？【P.98】
〇時速211�劼膿緤唇榮阿靴討い襪箸いΔ里傍さ紊鷲�と一体となって進むために揺れも傾きもないという。【P.102】
●空から降り注ぐ太陽光は優れた音楽のようだった。
〇石川、角幡両氏だけでなく、あの鳥取大山岳部OBのサイクリスト安藤浩正氏も計画の勧誘を受けていたとのこと。
●人間の生理現象でもある睡眠は、不意に訪れる。「不眠」は、古来より拷問に使われてきたことからもわかるように、人間の理性を奪ってしまう厄介な代物である。
●地理的な冒険が消滅した現代の冒険とは、この世の誰もが経験している生きることそのものだと僕は思っている。日常における少しの飛躍、小さな挑戦、新しい一歩、そのすべては冒険なのだ。【P.177】
そして著者は、自らの数々の経験を根拠に、氏おして何がこれほどまで冒険に駆り立てているのかに接近しようと試みている。
終章で語られる悪石島漂着が、出来すぎている。というよりか何某かの念を感じざるを得ない。
また、この本を入手した地が奇しくも栃木だったことがチョットだけ不思議な感じを持った。
いつか、私も空の世界を経験してみたいものだと思った。
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