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これまでに読んでいた気になっていたが未読だった。多分、期待以上の作品ではないであろうとの推測から無意識に避けていたのかもしれない。
偶々古本屋で見掛けて購入、風邪と腰痛に乗じて一気読みした。
ヒマラヤの難峰ギャチュンカン(7952m)に挑んだ、山野井泰史、妙子夫妻の登頂から下山までの苦凍、いや苦闘を描いている。
主人公たる泰史氏も言うように、登山の世界に明るくないのにここまで書け読ませる沢木氏の筆力は流石である。時間を掛けた、相当綿密な聴き取りをしたに違いない。
登頂後の生還劇は、かの松田宏也氏「ミニヤコンカ奇跡の生還」や、ウルタル�曲�山��松岡両ペアのソレを想起さす。乾いた布団でヌクヌクと読んでいる自分を窘めたい気分になった、そんな壮絶さである。泰史氏は言うに及ばず、連れ添う妙子氏の不屈さが驚異的に思えた。
1994年、山野井氏29歳の時のヒマラヤ、チョ・オユー南西壁単独初登【新ルートからの登頂】の「岩と雪」の記事を函館の大学講座の机でリアルタイムで読み、その大変な価値の記録に震えた記憶も早や24年も前になる。以降、山野井氏に関する資料を集めたものだった。
当山行は成果こそ初登でもなく上記記録に及ばないものの、生還への劇的な過程が読み手に強烈な印象を残す。
食べたものを嘔吐する山��彰人と山野井夫妻の、死の境界線は何処にあったのだろう？
山野井氏の美点は、指を亡くした今にしても若手を連れて、自らが真に魅力的で登る価値を置いた山に情熱を持って出掛け登り続けている点である。
ペルーアンデスのトラペシオ峰(5653m)南壁に同行した野田賢氏が別の山で亡くなり、追悼文を寄せていたはずだ。
長谷川恒夫でもないけれど、確かに「生き抜くことは冒険だ」を地でいく物語である。冒険？ 危険？ 探険？ 探検？
角幡氏の「極夜行」にも言えることだが、自分の経験を如何に俎上に載せられるかが作品に対する評価を左右しかねない。
為に、自分の経験の不足を盾に、知った口を利くような愚だけは避けたいものだ。
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