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2019年01月03日 21:48全体に公開

太陽

 年末に名古屋で買っておいた故、谷口けい氏の評伝を読んだ。その谷口氏については以前御悔を書いた。
https://www.yamareco.com/modules/diary/1946-detail-110973
 実は一度、12/22に岐阜の書店で手に取ってスルーしたものだったが、仕事に就く前の年末年始の一人の時間に読もう、と考えを改めて12/27に名古屋駅の三省堂で買い求めたのだった。
 そういえば以前、講演の為に来名していた三浦雄一郎氏と同店でバッタリ会ったことがあった。一応、後輩に当たるのでそんな挨拶をしたはずだ。アコンカグアに向けて発つと折良く昨日のラジオニュースが報じていた。

『太陽のかけら ―― ピオレドール・クライマー 谷口けいの青春の輝き』
 読み始めが今朝で、昼過ぎには読み終えた。2019年1月5日初版第1刷発行とあるが、今日は未だ三が日である。
 著者は大石明弘氏。氏は亜細亜大出で、文中でも登場する平出和也(東海大OB)氏と学生時代にチョーオユーに金を掛けずに登っており、かつて「きりぎりす」の表紙も飾っている。

 当の谷口桂氏は1972年生まれの女性。私がこれまで持っていたイメージとはやはり違った方であった。
 出版の当てもなく執筆を始めたとあるけれど、まずはこのように紙媒体として残ったことを喜びたい。

 知人、岳友達から語られる谷口けいという人物は、何事にも前向きで「やってみなけりゃわからない」の精神でヒマラヤの壁にも向き合っていたようである。ウルタルの山崎彰人氏を思い出した。
 二浪して自活しながら明治大学で学んだ際、所属クラブが山岳部ではなくサイクリングクラブというのが興味を惹く。天野和明氏や加藤慶信氏との交流があってもおかしくないくらいであるが、文中にそのような関りがあったとは書かれていなかった。

 プロフィールに並んだ山行歴を見て、改めて運も実力も持ったアルパインクライマーだったのだと知った。平出氏との初ルートからのゴールデンピーク、ライラピークの登頂、ムスターグアタの東稜第二登を足掛かりにあの難峰シブリンを北壁の新ルートから登った話を聞いた時には驚いた記憶がある。トーマス・フーバーの登攀があったばかりだったことも手伝って、只事ではないと。他、キンヤンキッシュ東峰、ナムナニ、ディラン! なお、平出氏は陸上部上がりのクライマーであり、けい氏共にアスリート上がりであることがポイントでもある。

 また野口健氏との交流も、けい氏のステップアップに大いに加担していた事が知れた。2006,2007のマナスル、チョモランマ登頂はその翌年のカメット南東壁初登攀にも作用している。
 この時点でも「登れるクライマーに引っ付いて登っている女性」と思っていたが、これは大いなる誤解であった。御免なさい。和田淳二氏おしてビビらせるパンドラの壁を、グイグイと牽引していたのは他でもないけい氏だった! 「ハァ? わたしはこんなところでは死なないよ!」そのタイミングで今井健司氏滑落死の報を知るとは(P.265)。
 その和田氏の登場と出会いのシーンはかなり面白く読んだ。谷口大石両氏が剣尾根で偶然出会った単独行者和田氏と登攀を共にして惚れてしまう件、またラスト辺りの朝日連峰単独沢登りで滑落遭難してしまうシーンも、その同じ頃私も五竜の山裾の谷間で際どい高捲きをしていたことも手伝って他人事には思えず、手に汗握って読み進めた。林業をするものとして、また沢もスキー縦走もやってしまう和田氏は以前から気掛かりな人物であったので、死ななくてヨカッタヨ。なお、和田氏は何年か前に台湾遡行(三桟渓)に参加もしている。

 この本には先月訃報が飛び込んできた一村文隆氏もちょっと登場している(P.186)。笠松美和子氏(P.53)や今井健司氏も。佐藤一村天野三氏のカランカ北壁やクーラカンリで加藤慶信氏達が遭難したのと同時期にカメットがあったそのタイミングも、不思議と言えば不思議である。
 それと、高所での露営を二人で一つの寝袋で凌いでいた平出氏と彼女との関係が知れたのも幸いであった。それとシスパーレ、登れてヨカッタ。山頂に埋めた写真は花に囲まれたけい氏のものだった。

 人と人との繋がりが命運(「星めぐり」)という渦を生み出す。

 理解が及ぶだけに、母親がほとんど登場しない点がちょっと、いやかなり寂しい。
 田中幹也氏のコメントも良かったけれど、鈴木啓紀氏の言葉が印象的だった。
「技術があるクライマーは他にもいるが、けいちゃんは生物(せいぶつ)としての強さみたいなものを初めから持っている感じがした」

 終章に大学時代の鈴木勝己氏が再登場して雪の黒岳に挑み、今は亡き彼女の声を聞く件、高橋良明氏との「星まわり」の件、そして前出和田氏遭難の生々しい実況とがある。

 大石氏にこれほどまでに愛を持って書き残してもらえた桂氏も、草葉の陰でさぞやお喜びのことと思う。
 合掌。
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