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今日は、かつての海外遡行同人親方M氏と会う日であった。というのも、シン・沢屋交流会が開催された愛知県から大阪への帰途に、養老SAで落ち合うというものだった。同行のゲキ氏と瓢六お仲間N氏とも対面して、昼食時のSAであれやこれやの話をした。
冷房効き過ぎのSA内で、改めてモテギ氏の海外の渓谷に賭ける思いの強さを知った。ネパール、ですか。
この海外遡行同人二十年を振り返って、私自身の海外遡行への情熱はかなり初期段階で冷めたものであったと今にして思う。目覚め自体は二十歳頃のことだったので早くはあった。探検志向と山岳渓谷の志向とが合致した時点で岳人誌等でご活躍を目にしていた当の茂木さんに打診して早速未知未踏の渓谷に足を踏み入れること叶い、その後数年を台湾の渓谷遡行に費やした。幾人もの有望な仲間を抱き込み、それなりの展開も見た。中国大陸の渓谷にも足跡を残せたし、そんな目で異国の地を見る視点も得られたのは沢人生に於いて何よりなことだった。
私の周りの様々な登山愛好家たちが自らの振り返りの時期にきて、否が応でも積み重ねてきた登山人生が一体何だったのかを顧みる。魅惑の岩壁登攀、大滝登攀、国境稜線や分水嶺やうねうねウネル長大渓谷のトレース、未踏の大峡谷大ゴルジュ突破、高峰登山、地理的空白地の踏査、辻まことや川村精雄を偲ぶ山行、ペナント登山、百名谷潰しに塗り絵登山、将又出会いの場、グルメ山行宴席の場、等々。
どうやら私の登山嗜好は地図在りきの現地確認踏査と、山を土俵とした私なりの旅のラインの追求にあったと今にして思う。その点に於いて、海外遡行同人での私の探求心というのも底が知れていたというわけである。
初めて渡航した1991年頃に、来週会うS氏がとある裏ルートから台湾山岳部の25,000分の1図を網羅的に収集しており、俺沢氏やAO氏、私なんぞはそれこそ興奮の眼差しで穴のあくほどそれらゲジゲジごるごるマップを矯めつ眇めつして遡行計画を練ったものである。記録のない、誰も入り込んだこともない無垢な大渓谷がソコに在る、というだけで我々は随分と熱くなったものであった。地図はあるけど未踏査のそれら渓谷をトレースすることは、当時の私の中では私の中の探検志向を大いに満たす行為であった。幾本かの素晴らしい初遡行を成すことが出来て、今の私の登山人生の中で極めて”温かな”部分である。だがそれも、何年か続けると私の中でその熱が次第にユックリと冷めていく実感があった。それの芯は、
『未踏査だけれど地図はある』『地図はあるけど人跡未踏』
という本末転倒ともいえる不思議な現状に、であった。
航空測量や衛星からの情報によって作成された地図という有用に過ぎるアイテムを活用して成す行為。
それを言ったら角幡氏のヤルツァンポー峡谷も同様であるので、身も蓋もないと言えるのかもしれない。大判のカラー詳細マップを片手にした探検行為だった。だからこそ氏はきっと、あのような”脱システム”極夜行を発想したのだと、私は思っている。
「地図遊び」といったら叱られようか、只やはり私の中ではこれまでの行為は「地図の中での遊興」であったと思っているし、今後展開するのも地図の中での話に終始する。
一般の方がラーメン屋で手すさびにスマフォをイジル横で、私は常に地図を携行して矯めつ眇めつする日々である。
その私のすぐまた横で古びた京都北山の地図をしげしげと眺めて「この地図の赤線にはワシの精神が籠っとるんや。これがワシの美学や。」と酔くろうて言うオッチャンは、果たして今西錦司氏だったとか。
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